弁護士ドットコムニュースでは、一般の方々に弁護士をもっと身近に感じていただくために、学生による弁護士へのインタビュー企画をおこなっています。
今回お話を伺ったのは、上 将倫弁護士(弁護士法人 松尾・中村・上 法律事務所)です。消費者被害の解決に取り組む事務所に入所し、弁護士としてのキャリアをスタートした上弁護士。離婚や相続など家族間のトラブル解決をはじめ、子どもや外国人といった社会的に弱い立場にある人々の救済にも取り組んできました。
インタビューでは、弁護士を目指した理由や、印象に残った事件のエピソードなどについてお話いただきました。
大量のピザが事務所に…エキサイティングな新人時代
−弁護士を目指したきっかけや理由を教えてください。
弁護士になりたいと公言していた高校時代の友人に影響を受けました。彼は困っている人の役に立ちたい、冤罪に巻き込まれている人を救いたいと話していました。当時は感心するだけで、さほど気に留めていませんでした。自分が大学生になり、法学部に進学したときに彼の話を思い出しました。彼がきっかけで弁護士に興味を持ち、司法試験の勉強をはじめました。
−学生時代はどんな生活を送っていましたか?
私は鹿児島の小さな島の出身で、大学は兵庫県西宮市の関西学院大学に進学しました。同じ寮の同級生とよく遊んでいたのが思い出深いです。大学1年生の時、阪神淡路大震災がありました。震災の影響で勉強どころではない時期がしばらく続きました。
大学入学当初は政治学に興味があり、政治学科に所属していました。大学3年生のとき、法律の勉強に集中したいと思い、法律学科に転科しました。転科してからは、司法試験に向けて勉強しました。
−弁護士登録してから独立に至るまでの経緯を教えてください。
木村達也弁護士の事務所で8年間勤務弁護士をしていました。木村先生は、1970年代からクレジットやサラ金の被害の救済に取り組まれている第一人者です。私が弁護士になった頃は商工ローン問題に取り組んでいて、私も案件を担当させてもらいました。
商工ローンは中小零細企業に対して高い金利でお金を貸していました。取り立てが厳しく、追い詰められて自殺する人が沢山出ていました。当時はヤミ金融からの嫌がらせで、事務所にピザが何十枚も届いたり、突然消防車がやってきたりと、エキサイティングな新人弁護士時代を過ごしました(笑)。
事務所では、木村先生だけではなく、沢山の先輩方に弁護士としての基礎を教えていただきました。独立したのは、自分で好きな事件を選んでやりたいという思いからです。
−注力分野と、その分野に注力している理由を教えてください。
離婚・相続などの家庭の問題や男女間のトラブル、同族会社の内紛の解決に力を入れています。人間の素晴らしさとともに、醜さも見ることになりますが、人はいろんな側面をもっており、学ぶことが多いです。事件から立ち直っていく人たちを見ると、非常にやりがいを感じます。
高齢者が巻き込まれるトラブルも多く扱っています。消費者問題や、悪徳商法の詐欺、相続問題でも認知症に関わる案件が多いです。
−弁護士として活動してきた中で、一番印象的だったエピソードを教えてください。
やはり客観的に見て勝訴の可能性が低いと思われる事件で、勝訴したときが嬉しいですね。中でも、在留資格を取り消されて、強制送還の対象になった子どもの事件が印象的です。
強制送還処分が適法かどうかを争った裁判で、地裁で負けて、高裁で逆転勝訴したことで、当事者のお子さんがとても喜んでくれたことが印象に残っています。
この裁判のように、勝つのが難しい事件で勝訴し、依頼者が喜んでくれると嬉しいですね。
−クレジット取引を悪用した押し売り被害の問題に取り組まれ、法改正運動にも取り組んだと伺いました。法改正運動ではどのような活動をおこなっていたのですか?
10年以上前の話ですが、高額商品を次々に売りつけられる消費者被害の事件を扱っていました。被害者の方にお願いして、各地で行われる被害者の集会で体験を話してもらい、声をあげていました。私はほんの末端でお手伝いをしたに過ぎませんが、沢山の方の努力があり、割賦販売法などの改正に結びつきました。割賦販売法とは、クレジット取引などのルールに関する法律です。
当時は「契約自由の原則」の考え方のもと、どれだけ大量の品物を購入しても、本人の意思で買ったのだからと言われてしまい、契約を取り消すことは難しかったんです。
今では、消費者に、通常考えられない量の品物を購入させる過量販売が法律で規制されるようになってきています。このような売買については「判断力の低下につけ込んで買わせているのではないか」という考え方が常識になってきたのかなと思っています。
−どんな相談が最も多いですか?また、コロナ禍で増えた相談があれば教えていただきたいです。
一番多いのは親族間のトラブルや相続のトラブル、離婚、男女間などのトラブルです。中小企業のトラブルも、実質的には親族間のトラブルであることが多いと思います。相続や経営権争いをめぐって、親族間にしこりが生じて、トラブルに発展しているのが実態です。
コロナ禍で増えた相談は特にありません。ただ、実務への影響は多少あります。例えば、自己破産の準備をしていても、依頼者がコロナへの感染を懸念して外出されない方もいるため、なかなか書類が集まらず、準備が進まないこともあります。打ち合わせも対面で行うことが困難なので、コミュニケーションを取りづらい面があります。弁護士業界にもじわじわとコロナの影響が出てきているのかなと思います。
−依頼者の方とコミュニケーション取られる中で意識していることはありますか?
依頼者の話を聞くとき、弁護士はつい、法律の要件に当てはまる事実があるかどうかを知りたくなってしまいます。依頼者の話を全部聞いていると時間がいくらあっても足りませんから、法律に関係のない情報はあまり聞きたくないんです。
ところが、弁護士が思う大事なところだけを聞いて、その他の話は聞き流すという態度では、依頼者は信頼してくれません。実は弁護士にとって重要でないところが、依頼者にとっては大事な話という場合もあります。依頼者の話をきちんと聞くことを大事にしつつ、法律の要件も漏らさず聞く。2つのバランスを大事にしたいと思っています。
依頼者の話をきちんと聞くためにも、ある程度時間を取る必要があります。対面でお話しするのがベストですが、最近は遠方からの相談が増えているので、今後はZoomも活用していきたいです。
いじめ問題や少年事件にも取り組む
−子どもの権利委員会に所属されていると伺いました。弁護士としていじめの事件をどう考えていらっしゃいますか?
いじめの事件は本当に辛いですね。いじめというのは、いじめられる被害者は悪くない。加害者が悪いのです。これは絶対です。
ただ、加害者に反省してもらえればそれだけで解決するような単純な問題ではありません。根底には学校が非常に管理的で雰囲気が悪く、構造的な問題が背景にあることが多いと思います。例えば、教職員同士の仲が悪くて団結力に欠け、先生一人一人に余裕がない場合、子どもに目が届きかず、いじめに気づかないこともありますし、いじめを傍観するような生徒が周囲にいることが多いです。
いじめの事件では、1つ1つの事件の真相や根底にある問題に目を向ける必要があります。事件の背景には社会や組織の病理があるので、特定個人を責めて終わる問題ではないといつも思っています。
−子供が関わる事件に興味を持ったきっかけは何ですか?
司法修習生のとき、非行を犯した少年が、3か月間、職人として働く中で、どんどん変化する様子を目の当たりにしたのがきっかけです。裁判官が「私はあなたのように、ものづくりをしている方に憧れがある。素晴らしい仕事をしていると思う」と少年に語りかけていました。裁判官の言葉に応えて、より一層熱心に仕事に取り組む少年の姿を見て「子どもってどんどん変わっていくんだな」と思ったのが印象に残っています。
その後、弁護士になってすぐに担当した少年も、今ではもうおじさんになってしまいました。事件を反省して立ち直り、今では真面目に職人をしていると毎年連絡をもらっています。事件で関わった子どもたちが変わっていく様子を肌で感じると、頑張ってやってよかったなと思います。
「トラブルは解決する」
−2020年まで、年2回、関西学院大学の法科大学院で授業をされていたと伺いました。どんな授業を行っていたのですか?
授業では難民認定手続きや、難民法の話をしていました。外国人事件については弁護士登録以来、扱ってきました。難民申請に関わる事件も手がけたので、難民とはどのような人たちで、どんな手続きを経て保護されるのかといった話をしていました。
−学生に講義される際は、どんなことを意識していたのですか?
できるだけ学生に発言してもらえるよう意識していました。少人数で授業をおこなっているため、私と学生が対等に話をするような雰囲気でした。2020年は、コロナウイルスの影響で、授業をZoomでおこなっていました。Zoomで講義する側が一方的に話すと、聞いている側はつまらないと思うので、例年以上にどんどん学生に発言してもらえるよう心がけました。入管問題が社会問題になっていたので、関心を持ってくれたのかなと思います。
−外国人の方の問題を扱うきっかけは何でしたか?
私が弁護士登録した2001年に同時多発テロが起きました。テロの少し前にはアフガニスタンがタリバンに支配されており、アフガニスタンから難民の方が日本に来ていたんです。難民の退去強制処分や、子どもの問題に興味があったこともあり、強制送還になりそうな子どもの事件を主に扱っていました。
ミャンマーで学生運動をしていた方の事件を担当したこともありました。彼は、学生デモに参加したことを理由に拷問を受けたことがあると話していました。日本でも、軍政に反対する運動を続けていました。
「日本の坂本龍馬という人は土佐を出るとき脱藩といって、不法に土佐藩を出てきたんだ。あなたも不法入国だと言われているけど、坂本龍馬は日本の英雄として語り継がれているから、あなたもいずれ英雄になるかもしれないよ」
彼にそんな話をしたことを覚えています。
その後、ミャンマーでは民政が始まりましたが、最近また軍事政権に戻ってしまいました。大量の難民が発生していることはご存じのとおりです。
−一般の人が難民問題を自分の問題と捉え、理解するにはどうしたらよいでしょうか?
今はSNSもあるし、難民と友達になったら良いと思います。あとは支援者団体に話を聞きにいくのも良いと思います。難民について学びたいと申し出れば、喜んで話を聞かせてくれるのではないでしょうか。
−休日はどんな過ごし方をされていますか?
休日は京都や奈良に行くことが多いです。史跡を訪れるのが好きです。
−今後の展望を教えてください。
事務所として、遠方の方の相談や事件もできるだけ受けていけたらなと思います。最近気になる問題はブラック校則問題です。不合理な校則に縛られて、子どもが窮屈に育っているのではないかと感じます。日本の教育システムにはもっと多様性があってもいいのではないでしょうか。
また、外国人の子どもでも、排除されることなく、健やかに成長していけるような社会になったらいいなと思っています。
−法律トラブルを抱えて悩んでいるかたにメッセージをお願いいたします。
法的トラブルはいずれ過去のことになります。永遠に法的トラブルを抱え続けることはありません。「トラブルは解決する」と信じて、ともに戦っていければと思います。