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山本一郎氏に対する「名誉毀損」で川上量生氏に賠償命令 どの投稿がマズかった?
川上量生氏(左)と山本一郎氏(いずれも弁護士ドットコム撮影)

山本一郎氏に対する「名誉毀損」で川上量生氏に賠償命令 どの投稿がマズかった?

ツイッター上の投稿で名誉を傷つけられたとして、作家・投資家の山本一郎氏が、ニコニコ動画を運営するドワンゴの創業者である川上量生氏を相手取り、損害賠償500万円をもとめた訴訟で、東京地裁は3月26日、原告の主張を一部認めて、10万円の支払いを命じる判決を下した。

●3年前の投稿が問題となった

ネット有名人といえる2人が争った3つの訴訟のうちの1つ。

主な争点となったのは、川上氏がツイッターでつぶやいた10の投稿内容が、山本氏に対する名誉毀損にあたるかどうか。東京地裁の前澤達朗裁判長は判決で、このうち1つについて名誉毀損が成立すると判断した。次のような投稿内容だった。

「山本一郎氏は、普段、根拠のない憶測を知ったかぶりで書いているだけなので、たまに根拠のあるときはつい嬉しくなってしまって相手のことなど考えずに情報源をばらしてしまう人間だということです」

投稿があったのは、さかのぼること3年前の春、2018年4月のことである。

当時、漫画やアニメが違法にアップロードされた「海賊版サイト」が社会問題となり、政府が国内の通信事業者(プロバイダ)に対して、ブロッキングを促す決定をするという出来事があった。

この政府の動きをめぐって、弁護士や法学者から批判の声があがった。

こうした状況の下、山本氏は4月18日、ブログで、海賊版サイトの一つ「漫画村」など違法サイトへの広告配信の問題を取り上げた。大手アダルト会社「DMM」など、広告配信を担当していた数社が、漫画村関連サイトへの営業を実施していたことを指摘した。

さらに、DMM社長の談話として、「DMMの予算規模からみると広告費は小さい額であり、媒体まですべてチェックしきれておらず、気がつくのに遅れたことは、社長としての自分の責任です」と説明していることを紹介した。

その後、山本氏は4月22日、都内で開催されたブロッキングに関するシンポジウムに出席して、「アダルト系D社」の漫画村への単体の広告出稿が「月350万円」と述べたうえで、「アダルト系でDがつく会社というとあまり多くはないと思われますが」と発言した。

川上氏は、このシンポジウムの出席者がつぶやいたツイッターを読んで、上記の投稿をおこなったのだ。

●川上氏が検証せずに漫然と投稿したと認めた

山本氏は、多くの読者を有するブロガーで、自身の取材によって得た情報をもとに記事を構成して、ブログに掲載して情報発信している。

東京地裁の前澤裁判長は、川上氏による「相手のことなど考えずに情報源をばらしてしまう人間」という指摘について、一般の読者の通常の読み方を基準とすると、山本氏が取材で得た情報について、情報源を外部に漏らしているという事実を摘示するものというほかない」とした。

また、山本氏の活動内容を考慮して、「このような事実の摘示は、原告について、取材源の秘匿するという取材する者にとって最低限のルールを遵守していない人物であるとの印象をあたえるものであることは否定できない」として、山本氏の社会的評価を低下させ、名誉権を侵害するとした。

さらに、「広告出稿費が月350万円」という情報が、山本氏がDMMへの取材によって得たものであることを推認することは困難で、その取材源がDMMであると認められる証拠もなく、たとえ取材源がDMMだったとしても、情報源の秘匿を約束した事実は認められないと指摘した。

そして、山本氏が情報源を「漏らした」という事実について、川上氏は自分で検証をせずに漫然と投稿したものと言わざるを得ず、「原告の名誉権を侵害するものであり、違法性阻却事由を認めることはできないから、原告に対する不法行為を構成するものである」と認定した。

●名誉毀損が成立しなかった投稿はどうだったか

残り9つの投稿について、前澤裁判長は、違法性阻却事由が認められると判断した。このうち、記者が注目したのは、川上氏による次の投稿について、違法性が阻却されたことだ。

「みんな影では山本一郎氏のことを総会屋2.0とか呼んでいるのに、面倒に巻き込まれたくなくて黙っているよね。あちこちに文句をつける姿を見せて、ああいう文句つけられたくないと思う会社から金をもらうビジネスモデル」

ここで少しおさらいしておくが、ざっくりいえば、名誉毀損とは、その投稿によって、その人・会社の社会的評価を低下させることだ。

そして、(1)公共の利害に関する事実に係るものであり、(2)もっぱら公益を図る目的でされた場合、(3)摘示された事実の重要な部分が真実であれば、違法性が阻却されるとされている。

川上氏の投稿の中にある「総会屋2.0」は、かなり過激な表現にも思えるが、どうして違法性が阻却されたのか。

まず、前澤裁判長は、総会屋の意味からすれば、「山本氏がブログ上で特定の会社から利益を得る目的で誹謗中傷しているという印象を与えるものと言わざるを得ず、山本氏の社会的評価を低下させる」とした。

一方で、投稿について、(1)公共の利害に関する事実に係るものであり、(2)もっぱら公益を図る目的でされたと判断。

そのうえ、ネット上に『“総会屋2.0”山本一郎(やまもといちろう)氏の検証』と題するホームページが存在し、この中で、山本氏による企業の不正告発が「ブラック・ジャーナリズム」として問題視されていたという内容の記載があることが認められると指摘。

結論として、「ネット上で、総会屋2.0と呼ばれている」ということは(3)真実といえるとした。

●川上氏「心よりお詫び申し上げます」

この判決を受けて、川上氏は3月27日、公式ブログで次のように謝罪した。

「裁判の過程で自分の発言をあらためて文字として自分でも見直したところ、理由や経緯はともかくとして、裁判所の判断とは別に自分の倫理観として行き過ぎであり許せない表現が多々あることに気づけました」「不適切な発言について山本一郎さんに心よりお詫び申し上げます」

一方で、弁護士ドットコムニュースの取材には「山本一郎氏は都合が悪い言論にたいしてブログなどで裁判を何度もほのめかしており、実際に私のように訴えられた人間も複数いる。氏への言論に対して、何が許されるかについての裁判所の判断が占められたことについては意義があったと考えている。今後、世の中のために公開していきたい」と述べた。

また、山本氏は、弁護士ドットコムニュースに「今回は川上量生さんが私に対する誹謗中傷を東京地裁が違法なものであると認めたわけですが、川上量生さんが心から反省し、再発をしないと約束するようであれば、私も広い心で川上量生さんの謝罪を受け入れ、許そうと思います」とコメントした。

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