2015年春に長野から金沢までの開業を予定している「北陸新幹線」の名前をめぐり、長野県と北陸地方の石川・富山両県の間で論争が繰り広げられている。
北陸新幹線は1997年に長野まで先行開業していて、現在は「長野新幹線」という通称で運行している。長野県の阿部守一知事は、2013年2月20日の記者会見で「長野という呼び名は定着している」として、金沢まで開業したあとも「長野」の表記を残すよう要望した。
これに対して、富山県の石井隆一知事は2月19日の記者会見で「法令では『北陸新幹線』と明確に書いており、それが基本だ」と表明。石川県の谷本正憲知事も6月25日、「北陸新幹線という名称を使うのが常識的」と県議会予算委員会で述べた。両県に譲る気配はない。
現在も名前をめぐり、熱いバトルが繰り広げられているようだが、新幹線の名前は法律で決められているのだろうか。鉄道にくわしい前島憲司弁護士に聞いた。
●「北陸新幹線」という路線名は法律で決まっているが「通称・愛称」は自由
「新幹線の呼称については、全国新幹線鉄道整備法4条に基づいて国土交通大臣が決定する『建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画』に規定されています。
北陸新幹線については、昭和47年告示第243条に規定されており、路線名は『北陸新幹線』と定められております」
――では、法律論としては、結論はすでに出ている?
「そうですね。もっとも、正式名称があっても、それとは別に通称、愛称を使うことは禁止されておりません。通称、愛称のつけ方も原則自由です。
そもそも『長野新幹線』自体が通称です。北陸地方に乗り入れていない新幹線を『北陸新幹線』と呼ぶことには違和感があり、誤解も生じることから、これまではそう呼ばれていました。しかし今回の延伸で、北陸地方の金沢駅まで乗り入れることになりますから、名実ともに『北陸新幹線』となります」
――『長野』が残る可能性も、まだある?
「はい。法律的には通称への制限はありませんからね。ただ、利用者としては、定着しない通称・愛称だけは使ってもらいたくありません。
かつて、国鉄からJRに移行した際、『国電』と呼ばれていた通勤電車に『E電』という名称が付けられましたが、自然消滅した経緯があります。『長野』の通称を残すにしても、本当に利用者に浸透するかどうか、よく検証してもらいたいと思います」
今回の論争は、新幹線が通る地域の県知事という「為政者」によるものだ。しかし、前島弁護士が指摘するように、重要なのは、新幹線を利用する乗客にとって、どんな通称がわかりやすいかということだろう。この「名前論争」が、乗客の目線もふまえて行われることをのぞみたい。