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時速200キロで走っても後続車が迫る「ドイツのアウトバーン」、速度無制限はいつまで続くか
アウトバーン(suola / PIXTA)

時速200キロで走っても後続車が迫る「ドイツのアウトバーン」、速度無制限はいつまで続くか

ベンツやBMW、アウディにポルシェといった高級車を多数生産するドイツには「アウトバーン(autobahn=自動車の道路)」と呼ばれる高速道路網が張りめぐらされています。最大の特徴は、「無料」で「速度無制限」であることです。

筆者がドイツで生活していた時に乗っていたアウディA4は200km/hを出すのが精一杯でしたが、その最高速度で走っていても、後ろから来た車があっという間に迫ってくる経験を何度かしています。最初は恐怖に感じていましたが、段々と慣れてきます。

アウトバーンは、ドイツ人の誇りともいうべき存在なのですが、速度制限の導入に向けた議論も起きています。アウトバーンの特徴や、最近の動きを解説します。(ライター・拝田梓)

●遅い車線でも「時速130キロ」を出さないと危ない

アウトバーンの建設は、ヴァイマル共和制下だった1924年に計画が始まり、ナチス政権下で小国分立状態のドイツ各地方をまとめるプロパガンダとして推進され、戦後1955年から建設が再開されたという経緯があります。

速度無制限は大きな特徴なのですが、全区間無制限なわけではありません。長い下り坂や、一年中どこかしらで行われている工事、住宅が近くにあることなどにより、割とこまめに速度制限が入ります。

しかし、無制限区間の無制限とは、正真正銘の無制限です。Youtubeにとんでもない速度で走行している動画がたくさんアップロードされているので、チェックしてみてください。

片道3車線(時にはそれ以上)ある主要路線では、一番遅い車線は130km/h、走行車線は150km/h程度、そして追い越し車線はそれ以上という速度が大まかに守られています。遅い車線でも130km/hは出さないと逆に危なく、追い越し車線はたとえ180km/hで走っていても後ろから迫ってくる車があればすぐに譲らなければならないというのが暗黙のルールです。

高速道路が速度無制限なのは欧州内ではドイツだけです。各国の制限速度を見てみましょう。

オーストリア…130km/h
ベルギー…120km/h
チェコ…130km/h
デンマーク…110 or 130km/h
フランス…130km/h
イタリア…130km/h
オランダ…130km/h
ポーランド…140km/h
スイス…120km/h
イギリス…112km/h
スペイン…120km/h
ポルトガル…120km/h

国境検査なしで国境を越えることができる「シェンゲン協定」に加盟している国なら、越えた実感もわかないまま国境越えができますが、各国の制限速度はきっちり守る必要があります。

画像タイトル アウトバーン(Lighto Yang / PIXTA)

●ドイツ人は交通ルールを守る

では、アウトバーンはどのような場合に使われているのでしょうか。一般乗用車は無料ですので、通勤の足に使う人も多くいます。会社から100km離れた田舎に居を構え、自家用車で通勤する人も珍しくありません。

100km程度なら1時間で着く感覚が、筆者が住んでいたフランクフルト郊外では一般的でした。郊外では一般道でも法定速度が100km/hですので、市街地を除けばそもそもの巡航速度が日本とは大きく異なります。

それだけ巡航速度が速くても、歩道と車道は分離しているのが普通なため、歩行者側として怖さを感じる場面はありません。また、日本からドイツに渡った人は、「信号のない横断歩道でも必ず車が止まる」ことに一様に驚くなど、ドイツで車に乗る人は、おおむねよく交通規則を守ります。

その裏にはキツイ罰則規定の影響が少なからずあると知人のドイツ人は言います。

たとえば、信号無視や速度超過、車間距離を取っていないなどで免停1カ月となります(道路交通規則 (StVO))。

歩行者のいる横断歩道に無停止で侵入した場合は、80ユーロの罰金と点数1点です(累計8点で運転免許取り消し)。

速度への監視の目は厳しく、アウトバーンであれ一般道であれ、決まった場所で速度違反自動取締装置が稼働しており、筆者も「速度オーバーなので罰金を払うべし」という、証拠写真付きの手紙を何度か当局から頂戴しました。なお、日本では速度違反のキップを切られたことは一度もありません。

画像タイトル アウトバーン(Hirow / PIXTA)

●一度事故が起きれば完全にストップ、犬の散歩が始まることも

車の楽園のように見えるアウトバーンですが、有料化や速度に制限をかける話は何度か出ています。

日独の交通事故死者数を比べると、2017年の10万人あたりの交通事故死者数は日本3.5人、ドイツ3.8人と日本の方が交通事故死は少なくなっています。感覚的にも、アウトバーンでは特に速度無制限な分、重大な故障・事故車は多いように思います。

一度事故が起きればアウトバーンは完全にストップし、犬を同乗させた人がしばらくは動かないと諦めて、アウトバーン上で犬の散歩をさせているような風景もよく目にします。

乗用車については現時点では無料で利用できますが、東欧諸国から中欧~西欧諸国への輸送トラックがただ乗りすることの批判は多く、1995年から大型車へ対して有料のステッカーを貼る課税が始まりました。2005年からはGPSを活用して走行距離を計測して課金する方式になっています。

国外登録の車は、乗用車にも課金する案が出ていますが、こちらについては国内外で差をつけることへ反対の声もあり実施されていません。

また、ドイツの自動車税の課税標準は、CO2排出量と排気量の併用になっており、環境税的側面が強いのが現状です。

ドイツは環境先進国と言われるほど環境意識が高く、EUが2030年を期限とした温室効果ガス排出削減目標を掲げていることもあって、エネルギーの無駄遣いに繋がる速度無制限のアウトバーンは環境保護と矛盾する存在になっています。

画像タイトル ドレスデン付近で渋滞するアウトバーン(アイゼナッハ / PIXTA)

●環境先進国でいつまで速度無制限を続けられるか

ドイツ連邦環境庁は今年2月、アウトバーンの走行速度を130km/hに制限した場合、温室効果ガス(GHG)排出量を年間190万トン削減できるとの試算を発表しました。

しかし、直近で2019年10月にも130km/h制限案がドイツ連邦議会で議題に上がりましたが、賛成126、反対498、棄権7の圧倒的多数により否決されています。

近年、フォルクスワーゲンによる、検査の時だけ排ガスを抑える排ガス不正が取りざたされるなど、環境先進国でありながら自動車関係になるとどこかルール無用になる印象があります。アウトバーン速度制限の話は、出ては廃案、出ては廃案を繰り返して今に至ります。

ですが、「いずれはアウトバーンも速度無制限ではいられない」と見る人も少なくありません。こういった時勢について、知人のドイツ人は、「いずれは環境政党『緑の党』の要望通りに、遅かれ早かれアウトバーンの速度制限は導入されると思う」と語ります。

ドイツ公共放送連盟(ARD)の「ドイツの動向」の調査によれば、「ドイツ人の半数(51%)が時速130キロメートルの制限速度の導入に賛成し、47%が反対」と世論調査は完全に拮抗しています。

時代の流れが、ドイツの象徴ともいえるアウトバーンを大きく変える日が、そう遠くないうちにやってくるのかもしれません。

【参考文献】
「アウトバーン」監訳・岡野行秀 訳・(財)道路経済研究所・道路交通研究会 学陽書房

「アウトバーンとナチズム ー景観エコロジーの誕生ー」小野清美・著 ミネルヴァ書房

「ドイツ」独立行政法人 日本高速道路保有・債務返済機構

「Punktekatalog」Kraft-fahrt Bundesamt

「ドイツ連邦環境庁、高速道路の速度制限はCO2排出削減に有効と報告」国立環境研究所

「道路課金の国際比較」一般財団法人 道路新産業開発機構

「アウトバーンの制限速度を設定するか?」ドイツニュースダイジェスト

「Bundestag lehnt Grünen-Vorstoß für Tempolimit auf Autobahnen ab」

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