スーパーの駐車場で隣の車を擦った後に立ち去ったが、なんらかの罪になるのかーー。そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者は「早く持ち主の方に謝らなければ」と考え、持ち主を探すためにその場を離れました。結局、持ち主は見つからないまま戻ると、隣の車はすでに立ち去っていたといいます。そのため弁償などはできずにいるそうです。
相談者は、車のナンバー、車種等について覚えていない状態ですが、何か対処する必要があるのでしょうか。また今回は誠実に対応しようとしていますが、もし逃げてしまったら、器物損壊罪などの罪に問われる可能性はあるのでしょうか。下大澤優弁護士に聞きました。
●トラブル防止のため「報告義務がなくても通報を」
「今回の相談については(1)道路交通法に基づく対処、(2)民事上の対処の2つの面から検討を行う必要があります」
はじめに(1)道路交通法に基づく対処について教えてください。
「道路交通法(以下「道交法」と略称します)72条1項には、物損事故も含め、交通事故が発生した際の警察官への報告義務が定められています。そして、道交法119条1項10号には、報告義務を怠った場合の罰則(三月以下の懲役又は5万円以下の罰金)が定められています。
ただし、今回のケースで事故が発生したのはスーパーの駐車場です。そのため、道交法が適用される『道路』(道交法2条1項1号)に該当するか否かが問題となり得ます。仮に道交法の適用がないとすれば、報告義務を課せられることはありません。
とはいえ、無用なトラブルを防止するためには、報告義務の有無にかかわらず警察官への報告を行うべきです」
●「被害者が自発的に連絡してくれるのを待つほかない」
次に(2)民事上の対処については、どんな手続きが考えられますか。
「被害弁償をするにあたっては、まず被害者の特定を行う必要があります。今回のケースでは、被害車両のナンバー、車種といった、被害者の特定に結びつく情報が欠けるとのことですから、被害弁償は難航するかもしれません。
ただ、駐車場に防犯カメラが設置されている場合には、カメラの映像から被害車両の情報を得ることができるかもしれません。駐車場の管理者(スーパーの責任者)に事情を説明し、防犯カメラの映像を閲覧させてもらうことができれば、適切な被害弁償を実現できる可能性があります。
上記の手段を尽くしても被害車両が特定できない場合には、残念ながら、被害者が自発的に連絡してくれるのを待つほかありません」
相談者に限らず、ふとした拍子に擦ってしまうことは十分に起こり得ますね。
「今回の事故は、故意による物損事故ではありませんから、器物損壊罪(刑法261条)は成立しません。ただし、事故現場から逃げてしまった場合には道交法上の報告義務違反を問われる危険性がありますので、最低限、警察官への報告は行うべきです」