安倍内閣は3月13日、労働者派遣法の改正案を閣議決定した。派遣法の改正をめぐっては、この法律を担当している厚労省の課長が、業界団体の会合で「派遣労働者はモノ扱いだった」と発言していたことがわかり、波紋を広げていた。
派遣法改正案は、昨年2度国会に提出されたが、条文の誤記や衆院解散などでいずれも廃案となった。政府は3度目の提出で成立を目指している。改正案では、派遣労働者の受け入れ期間の制限などが見直されている。
「モノ扱い」の発言があった際、厚労省課長は、この法改正案について「ようやく人間扱いするような法律になってきた」と述べていたという。その言葉通り、今回の改正案で、派遣労働者を取り巻く環境は改善されるのだろうか。労働問題に取り組む波多野進弁護士に聞いた。
●派遣労働者の立場がもっと不安定になる?
「厚労省幹部の発言は、非常に不適切でした。いくら派遣労働者の立場が弱いからといっても、モノ扱いは決して許されません。また、今度の改正案で、派遣労働者の立場が強化されるかというと、それも期待できません」
波多野弁護士はこのように説明する。改善されないのは、なぜだろうか。
「改正法案の大きな問題点として、派遣労働者の『期間制限』が緩和されることがあげられます。
現行法のルールでは、(1)ソフトウエア開発、(2)事務用機器操作、(3)通訳・翻訳・速記などの『26業務』以外の有期雇用については、最長3年の期間制限があります。
ところが、検討されている改正案では、一定の条件のもとに、さらに3年延長して派遣労働を受け入れられるようになるようです。しかも、この3年延長は、何度でも繰り返し可能ということです」
そうなると、何が起きるのだろうか?
「派遣労働は本来、『専門的な技能のある労働者を、期間限定で使用したい』という企業のニーズを満たすための制度です。
もし、期間制限の歯止めが実質的になくなり、派遣労働者を延々と受け入れ続けていいという制度になれば、受け入れ先企業は、派遣労働者を『クビにしやすい労働者』として、扱い始めるのではないでしょうか。
派遣労働者の立場が、より弱くなってしまう可能性すらあります」
●労働組合が「歯止め」にならないのか?
『3年延長』をするためには、企業は、労働組合等の意見を聴取しなければならないという条件が付いているようだが・・・
「日本の現状を考えると、労働組合がそうした際に、歯止めの役割を果たせるケースは、多くないと思います。
たとえば、労働者の代表と企業が結ぶ協定(36協定)で、異常な長時間労働が許容されているケースは少なくありません。また、就業規則改定の際に、労働者の代表の意見を聞く制度は、単なる『儀式』と化しています。
こうした現状からすれば、労働組合等からの意見聴取が、ほとんど歯止めにならないのは明らかでしょう」