法務省・法制審議会の民法部会は2月上旬、民法の債権や契約に関する分野の約200項目におよぶ見直しを終え、大幅な民法改正の要綱案を取りまとめた。債権に関する抜本改正は、1896年の民法制定以来で、120年ぶりにルールが大きく変わることになる。
要綱案の目玉の一つが、債務の支払いが遅れた場合に上乗せされる「法定利率」の変更だ。市場金利に比べて高すぎる現状を踏まえ、現在の5%から3%に引き下げる。その後は3年ごとに、利率の見直しを検討するという。
この法定利率とはそもそも、どのようなものなのだろうか。また、引き下げによって、私たちの生活にどんな影響が出るのだろうか。上田孝治弁護士に聞いた。
●当事者間でルールを決めてない場合に適用
「法定利率とは、文字通り、法律によって定められている利率のことです。たとえば、お金の支払いが遅れてしまった場合、当事者間で特にルールを決めていなければ、法定利率で計算した金額を遅延損害金として支払わなければなりません」
上田弁護士はこのように説明する。具体的には、どのようなケースが考えられるだろうか。
「たとえば、アパートやマンションの家賃の支払いが遅れてしまった場合、家賃にプラスして遅延損害金を支払わなければなりません。このとき、賃貸借契約で特に遅延損害金の率を決めていない場合には、法定利率によって、遅延損害金の額を計算することになります。
つまり、民法改正で法定利率が5%から3%に引き下げられれば、遅延損害金の額も少なくなるわけです」
上田弁護士はこのように語る。今回の改正では、なぜ、法定利率の引き下げが検討されているのだろうか。
「現在は超低金利の時代です。本来支払うべき金銭に、法定利率として5%分をプラスして支払うのはバランスが悪いということで、利率の引き下げが検討されているわけです」
たしかに、長期国債の利率が1%を切るような時代に、法定利率が5%というのは、現状からかけ離れているのだろう。
●交通事故の被害者が受け取る「賠償金額」が増える?
また、法定利率の引き下げは、交通事故が起きた際の損害賠償の額にも影響するようだ。
「交通事故が起こったとき、事故の被害者が、事故がなければ得られたはずの将来の収入を、『逸失利益』として賠償請求することがあります。
この場合、将来の収入を現時点で一括して受け取ることになるので、逸失利益の計算をする場合には、その収入を長期運用するものと仮定して、将来の収入の合計から『中間利息』が差し引かれます。実は、この中間利息の計算にも法定利率が使われます。
つまり、民法改正で法定利率が下がれば、中間利息が減って、被害者が受け取ることができる逸失利益が増えることになります。
ただ、逸失利益を支払う損害保険会社にとっては収益の悪化につながります。金額が増えた分の穴埋めをするために、損害保険料のアップということになってしまうかもしれません」
上田弁護士はこのように述べていた。