重く静まり返った法廷で、裁判長が読み上げた量刑は、検察官の求刑を大きく下回った。
兵庫県神戸市の草むらで2023年6月、スーツケースに入った穂坂修(ほさか・なお)ちゃん(当時6歳)の遺体が見つかった事件。
神戸地裁(松田道別裁判長)は1月14日、傷害致死と死体遺棄の罪に問われた母親に懲役4年(求刑:懲役8年)の実刑判決を言い渡した。
また修ちゃんの叔母にあたる母親の妹2人についても、それぞれ懲役3年、執行猶予5年(求刑:7年)とする判決が下された。
なぜ、この量刑に至ったのか。裁判所は、母親や叔母たちの行為をどのように評価し、修ちゃんの死をどう位置づけたのか。
弁護士ドットコムニュースが入手した判決要旨をもとにその判断の詳細を紹介する。なお、被告人の氏名などは匿名とするなど、一部編集を加えている。
●罪となるべき事実の要旨
被告人3名(修ちゃんの母親、叔母2人)は、叔父と共謀の上、
(1)令和5年6月19日、神戸市西区内の被告人ら方において、母親の実子である被害者(当時6歳)に対し、床にうつ伏せにした被害者の背部を鉄パイプで多数回殴り、被害者の背中の上に乗って多数回飛び跳ねたり踏みつけたりするなどの暴行を加え、よって、同日、同所において、被害者を外傷性ショックにより死亡させ、
(2)同日、同所において、被害者の死体をキャリーケース内に隠匿した上、同日午後4時54分頃から同日午後5時22分頃までの間に、同キャリーケースを同市西区内の草むらに運搬して投棄し、もって、死体を遺棄した。
●争点に対する判断の要旨
本件の主たる争点は、叔母A及び叔母Bの共謀の範囲(争点1)と、両被告人の適法行為の期待可能性の有無(争点2)である。
●1 共謀の範囲(争点1)について
本件当日の朝食前の暴行(第1暴行)の際に、叔父が、叔母Aと叔母Bに対して被害者の手足を押さえるように、母親に対しては被害者を鉄バイプで叩くようにそれぞれ命令し、同命令に従い、叔母Aは被害者の両手を持ち、叔母Bは被害者の両足首をつかみ、母親が被害者の背中を鉄バイフで殴打したのであるから、これによって、叔父と被告人3名との間で、被害者に対する暴行の共謀が成立したものと認められる。
そこで、叔母Aと叔母Bの両被告人が直接暴行に加わっていない朝食後の暴行(第2暴行)について、上記共謀の範囲に含まれるか検討する。
第1暴行と第2暴行についてみると、同一の被害者に対する暴行であるところ、同一日の午前中に行われており、場所も被告人ら宅の1階リビングダイニングと同一である。
また、いずれの暴行も、大便を失禁したり、自分の思いどおりに動かなかったりした被害者に対して、叔父が苛立ち行ったもので、動機、経緯が共通しており、叔父が母親に命令して又は自ら行ったもので、鉄パイプが用いられるなど、態様も類似している。
そして、本件当日以前から、叔父が自ら又は被告人3名に命令して、被害者に暴行を加え、その暴行を被告人3名が黙認するということが日常的に繰り返されており、本件当日も同じ流れによって被害者に対する暴行が加えられたと認められる。
これらの事情からすれば、第2暴行は、第1暴行を前提としてなされた、被害者に対する暴行として一連一体のものと評価するのが相当であり、第1暴行とは別に、新たな犯意、共謀に基づき行われたものということはできず、第1暴行における共謀に基づく行為と認められる。
叔母A及び叔母Bとも、共謀関係から離脱したと評価されるような行動を何らとっていないことからすると、叔父と被告人3名との間で、第1暴行の際、被害者に対する暴行の共謀が成立し、同共謀に基づき、第1暴行及び第2暴行が行われたものと認められ、叔母A及び叔母Bは、第2暴行についても共同正犯としての責任が認められる。
●2 適法行為の期待可能性の有無(争点2) について
(1)期待可能性について
期待可能性の理論は、責任能力の判断とは異なり法律上の根拠があるものではなく、その行為が犯罪の構成要件に該当する違法なものであって、かつ、行為者に故意も責任能力も認められるような場合には、その行為を非難し得る場合がほとんどであり、非難もできないという事態は極めて例外的な場合と考えられる。
そこで、期待可能性の理論による責任の阻却は、本件の行為者の具体的な物理的状況、心理的強制状況等を前提として、一般人が実際にその行為者の状況に置かれた場合に、適法行為に出る期待可能性がないといえるような極限的な状態の場合にのみ認められるべきと解される。
物理的状況についてみると、叔母Aと叔母Bが身体を拘束されているというような事情はなかったものの、本件当日は家中に鍵などが取り付けられている状態であり、家から外に出るのは困難であった。
窓を割るなどして外部に助けを求めめることなどは不可能ではなかったが、家の中には物が多く、窓にたどり着くまでに一定の時間を要する上、音を聞きつければ叔父がすぐに追いかけてくることも考えられる状況であり、現実的な選択肢ではなかった。
また、携帯電話機も叔父の管理下にあり、110番通報等をして助けを求めることも困難な状況であった。
暴力による支配の状況については、6月には、叔父による暴力が一層激しくなっていった上、暴力を止めようとすれば止めた側もそれまで暴力を受けていた側も、より激しい暴力を受けるような状況であった。
他方で、叔母A及び叔母Bは、いずれも、本件以前に叔父の暴力から他の家族をかばったり、叔父から被害者を叩くよう命令された際には、力を加減して叩いたりするなど、命令通りの行動をとらないこともできていた。
また、叔母A及び叔母Bは、叔父の命令に従うかどうかについても、叔父の命令に従って自身が暴力を振るった方が、自身や他の家族が叔父からの暴力を受けないで済むことや、力を加減することもでき、叔父からのより激しい暴力を避けることができるなどと自ら判断していた。
心理的強制についてみると、前記認定のとおり、叔母A及び叔母Bとも、叔父の自分が「神」、「警察官のトップ」であるなどの言葉を信じており、叔父のマインドコントロール下にあって、外部の人々が叔父の味方であると信じていた。
(2)
傷害致死について、叔母Aの適法行為の期待可能性、すなわち、叔母Aが、叔父に被害者の手を押さえるよう命令されたときに適法行為が期待できたかについて検討する。
外部に助けを求めることは、施錠等の物理的状況や、叔父のマインドコントロール下にあり、外部の人間は叔父の味方であると思っていたことなどからすれば、叔母Aにとって、非常に困難であったといえる。
他方、マインドコントロールは外部に助けを求められないというようには作用しているものの、叔父の命令に従って被害者の手を持つという判断が、実際には叔父に操作されていたとまではいえず、従わないと、自身や他の家族が暴力を受けたり、被害者がより激しい暴力を受けたりするという、暴力による支配の影響が大きかった。
このように、叔母Aは、叔父の暴力による支配によって、その命令には逆らい難い状況であったとは認められる。
しかし、叔母Aは、本件以前に叔父の命令通りの行動を取らないこともできていた上、本件当日も、叔父の命令に従って被害者の手を持ったものの、その後、被害者の頭を抱えるような姿勢を取っている。
この行動は、叔母Aによれば、母親の振り下ろす鉄パイプが被害者の頭に当たりそうであったため、被害者の頭を守ろうとしたとのことであって、叔母Aは、現実の状況を前提として、叔父の命令に反する判断ができていたのであり、叔父の命令に盲目的に従っていた訳ではない。
また、叔父から被害者の手を押さえるように命令された時点では、叔母Aや叔母Bに対して暴力は加えられておらず、経験上、叔父の命令に従わなければ暴力を受けるかもしれないという予測の下、自分の判断により被害者の手を持つに至ったものと認められ、叔父の命令に従わなければ、自身や叔母Bに直ちに重大な危害が及ぶことが確実といえるような状況ではなかった。
さらに、第1暴行終了後、2階において、叔母Aは、叔父から前日に被害者が叔母Aと叔母Bに押さえられて叩かれたのだろうなどと言われた際に、これを否定するなど、叔父の意向に反した言動を取ることができている。
この時点では、叔母Aは叔父から鉄パイプで叩かれており、より叔父の意向には逆らい難い状況であったにもかかわらず上記言動を取っていたものであり、それより前で、叔父からの暴行もなかった第1暴行の時点であればなおさら、叔父の命令に反する行動を取れる可能性はあった。
そうすると、叔母Aは、本件当日、朝から被害者の体調が悪いことを認識していた上、叔父に被害者の手を押さえるよう命令された時、叔父が自ら又は被告人3名に命じて被害者に暴行を加えることが日常的に繰り返されていたというそれまでの経緯等からすれば、その後、被害者が鉄パイプで殴られる等の暴力を受けることも認識し得たものといえるから、叔父の命令に従わないで被害者の両手を持たないことや、叔父に対し、被害者に対する暴力を止めるよう説得するなどの手段を期待することが可能であったといえる。
また、死体遺棄についても、叔母Aは、叔父から被害者を捨てに行くと言われ、被害者の死体の入ったキャリーケースを持ち出し運ぶよう命令されたときに、それを拒否したり、叔父に対し、死体を捨てるのを止めるよう説得したりするなどの手段を期待することが可能であったといえる。
したがって、叔母Aの置かれた具体的な状況を前提として、一般人がその状況に置かれた場合に、叔父から命令されるままにそのとおり従うほかなく、被害者の手を持ったり、被害者の死体の入ったキャリーケースを運んだりする以外に全く選択肢がないような極限的な状態にあったとまではいえず、適法行為の期待可能性はあり、その程度が相当程度低下していたものと認められる。
(3)
傷害致死についての叔母Bの適法行為の期待可能性、すなわち、叔父に被害者の足を押さえるよう命令されたときに適法行為が期待できたかについて検討する。
叔母Bについても、施錠等の物理的状況や、叔父のマインドコントロール下にあることから、外部に助けを求めることが非常に困難であったことは、叔母Aと同様である。
また、叔母Bが、叔父の命令に従って被害者の足をつかむという判断が、実際には叔父に操作されていたとまではいえず、暴力による支配の影響が大きく、その影響により叔父の命令には逆らい難い状況にあったことも、叔母Aと同様である。
しかし、叔母Bも、本件以前に叔父の命令通りの行動を取らないこともできていた上、本件当日も、叔父の命令に従って被害者の足をつかんではいるものの、その態様は、被害者の足首を親指と人差し指でつかむというものであり、被害者が動かないよう押さえるという叔父の命令が意図する持ち方とは異なっている。
叔母Bは、潔癖症のためなるべく被害者に触りたくなかったから、そのような持ち方をした旨述べるが、叔父の意図に沿わない持ち方や力加減となる行動を自ら判断して取ることができていた。
そうすると、叔母Bは、現実の状況を前提として、叔父の命令に一部反する判断ができていたのであり、叔父の命令に盲目的に従っていたとはいえない。
また、叔父から被害者の足を押さえるよう命令された時点では、叔母Bや叔母Aに対して暴力は加えられておらず、叔父の命令に従わなければ、自身や叔母Aに直ちに重大な危害が及ぶことが確実といえるような状況ではなかったことも、叔母Aと同様である。
そうすると、叔母Bも、本件当日、朝から被害者の体調が悪かったことを認識していた上、叔父に被害者の足を押さえるよう命令された時、それまでの経緯等からすれば、その後、被害者が鉄バイブで殴られる等の暴力を受けることを認識し得たものといえるから、叔父の命令に従わないで被害者の両足をつかまないことや、叔父に対して、被害者に対する暴力を止めるよう説得するなどの手段を期待することができた。
また、死体遺棄についても、叔母Bは、被害者の死体を捨てに行くため被告人ら宅を出る際に、同行を拒否したり、叔父に対し、死体を捨てるのを止めるよう説得したりするなどの手段を期待することが可能であったといえる。
したがって、叔母Bの置かれた具体的な状況を前提として、一般人がその状況に置かれた場合に、叔父から命令されるままにそのとおり従うほかなく、被害者の足をつかんだり、被害者の死体を捨てに行くことに同行したりする以外に全く選択肢がないような極限的な状態にあったとはいえず、適法行為の期待可能性はあり、その程度が相当程度低下していたものと認められる。
●量刑の理由の要旨
1
本件、被告人3名と叔父が共謀の上、母親の子で、叔母A及び叔母Bら共犯者の甥である被害者(当時6歳)に対し、暴行を加えて死亡させ、その死体を遺戦した傷害致死及び死体遺棄の事案である。
被告人3名の量刑を検討するに当たっては、裁判員量刑検索システムも参照した。
その検索条件は、犯行全体について、「(処断罪)傷害致死」、「(動機)児童虐待又はその他の家族関係」、「(処断罪と同一又は同種の罪の件数) 1件」、「(被告人から見た被害者の立場) 子又はその他の親族」、「(量刑上考慮した前科の有無) すべてなし」である。
「被告人から見た被害者の立場」は、叔母A及び叔母Bの量刑を検討する際には「その他の親族」とし、母親の量刑を検討する際には「子」とした。
また、共犯者間における被告人3名の立場を踏まえ、傷害致死について、動機を限定せず、「共犯関係等」について、「実行共同正犯、従属的」とした量刑データも参照した。
2
犯行全体の犯情をみると、量刑の中心となる傷害致死について、被告人らの犯行により、未だ就学前の6歳という幼い被害者が死亡した。
被害者は、本来であればその成長を見守ってくれるはずの存在である母親や、叔父・叔母から、後述のとおり強度かつ理不尽な暴行を加え続けられた末に死に至ったもので、肉体的苦痛のみならず、その絶望感や、将来が奪われた無念さは察するに余りある。大変痛ましいというほかなく、結果は誠に重大である。
被告人らは、朝から体調の悪く弱っていた被害者に対し、無理やりうつ伏せにさせた上、両手両足を持ち、硬い鉄パイプで背中を多数回殴り、更に、首をつかんで持ち上げたり、鉄バイブで背中を多数回殴ったり、背中の上に乗って多数回飛び跳ねたり踏みつけたりした、成人4名が、幼く、弱って抵抗も十分にできない被害者に対して、一方的かつ強度な暴行を繰り返し加えたもので、態様は危険性が高く、悪質な犯行である。
その上、被告人らは、日常的に被害者に暴行を加えていたものであり、突発的な犯行ではなく、常習的な犯行であって、一層悪質である。
加えて、被告人らは、犯行の発覚を免れるため、被害者の死体を折り曲げてキャリーケースに入れて隠匿した上、草むらの中に投げ捨て遺棄していることも踏まえると、犯行全体の犯情は相当悪質である。
3
そこで、各被告人個別の犯情についてみる。
(1)本件各犯行の主犯は叔父である。
叔父は、マインドコントロールや暴力等によって被告人3名を支配し、母親に執着して、嫉妬心等から母親の子である被害者に対して、自ら又は被告人3名に命令して日常的に暴行を加えていたところ、本件当日も、体調が悪く大便を漏らしたり、自分の思い通りに動かなかったりした被害者に苛立ち、叔母A及び叔母Bに手足を持たせた上、母親に二度にわたって鉄パイプで殴らせたばかりか、自らも首をつかんで持ち上げたり、背中の上に乗って飛び跳ねたり踏みつけたりするなどの強度の暴行を加えている。
また、被害者の死体を遺棄することを言い出し、折り曲げてキャリーケースに入れたり、同キャリーケースを運ばせたりしたのも叔父である。
共犯者間でその責任が最も重いのが叔父であることは明らかである。これに対し、被告人3名は、いずれも叔父に命令されて本件各犯行に及んだもので、従属的な立場にあった。
(2)叔母A及び叔母Bは、マインドコントロールや暴力によって叔父に支配されていたところ、叔父に命令されて本件各犯行に加わったもので、その立場は従属的であった。
叔母Aは被害者の両手を持ち、叔母Bは被害者の両足をつかんでいるが、いずれも被害者を強く押さえつけていたものではなく、両被告人による暴行それ自体の危険性は高くはない。
また、両被告人は、その後の暴行には直接関与していない。そして、両被告人は、叔父の命令に従わなければ、自身や被害者を含む他の家族がより激しい暴力を加えられると考えて各暴行に及んだものであり、被害者への加害を積極的に意図していたものではない。
前記認定のとおり、両被告人の期待可能性の程度が相当低下していたことからすれば、叔父の命令に従って本件各犯行に加わったことについて、両被告人の意思決定を強く非難することは困難である。
そうすると、本件各犯行の全体の犯情は重いものの、叔母A及び叔母Bについては、その従属的な立場や、暴行態様、期待可能性の程度等に照らし、同種事案の量刑傾向も参照すると、執行猶予を付す余地もあるといえる。
(3)母親は、肉体的暴力や性的暴力によって叔父に支配されていたところ、叔父に命令されて本件犯行を行ったものであり、その立場は従属的であった。
もっとも、母親は、体調が悪く、弱っていた被害者に対し、二度にわた硬い鉄パイプでその背中を多数回殴打したもので、力加減等をしているものの、被害者が痛いと叫んでいることなどから相応の力で殴打していたといえ、その態様は危険で悪質である。
なお、検察官は、母親の暴行が被害者の死因に直結したと主張する。
しかし、証拠によれば、被害者には、致命的な損傷はないものの、背中に鈍体による打撲、圧迫、擦過による皮下組織の高度挫滅等の複数の損傷が認められ、外傷性ショックにより死亡したと特定されているところ、叔父の暴行によるものと認められる体幹部圧迫や頸部圧迫の死因に対する寄与の度合いの評価は厳密にはできないとしていること、叔父が被害者の背中で飛び跳ねるなどした暴行も純体による暴行に当たり得ること、母親は、その供述によれば、鉄バイブを椅子に当てようとしたり、力を弱めて殴打しようとしたりしていたことなどに照らせば、母親の暴行が、被害者の死因に直結したとまでは認められない。
確かに、犯行に至る経緯等をみると、母親は、叔父に強く執着されて行動も制限され、家族の中に味方がいないと感じながら、叔父から激しい肉体的暴力や性的暴力を繰り返し加えられてきたものである。
このように、母親は、叔父に暴力により強く支配されており、本件当日、叔父から被害者を鉄パイプで叩くよう命令されると、それに従って、力加減等して自ら暴行を加えることで、被害者に対する激しい暴行を避けようなどと考え、本件犯行に至ったものである。
母親は叔父に命令されなければ本件犯行には及んでいないものといえ、このような経緯は、母親に有利に考慮すべきである。
また、母親は、叔父から激しい肉体的暴力や性的暴力を受けており、被害者としての一面があることも、母親にとって酌むべき事情となる。
しかし、これらの事情を考慮しても、母親は、母親という被害者を最も守るべき立場にありながら、被害者が朝から体調が悪く、暴行を加えられ次第に弱っていることも認識しながら、何らの看護等をせず、叔父による暴行を止めなかったばかりか、その命令に従って二度にわたって鉄パイプで殴打し、被害者が痛いと叫んでも止めず、救護等を試みることもなく、被害者の死亡後、死体を草むらに遺棄するのに同行している。
母親が、叔父の命令に従って本件各犯行を行ったことについて、その意思決定は、強く非難するほかない。
以上によれば、母親について、その犯情は叔母A及び叔母Bよりも相当重く、同種事案の量刑傾向も参照すると、その従属的な立場や経緯等を踏まえても、執行猶予を付す余地はなく、実刑に処すほかない。
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その上で、各被告人の一般情状についてみる。
(1)叔母A及び叔母Bは、いずれも、甥である被害者を死亡させてしまったことを強く後悔していることがうかがわれる上、特に叔母Aについては記憶の欠落等がみられるが健忘によるもので、それぞれ、記憶の限りにおいて事実関係を供述するなど、自分なりに反省の態度を示している。
また、両被告人とも前科前歴がなく、それぞれ福祉の専門家が情状証人として出廷し、社会復帰後は、精神科病院で入院治療を受けさせることや、医療機関や行政とも連携して福祉的に支援する態勢を整える旨証言している。
(2)母親は、我が子を死亡させたことを強く後悔し、深く悲しんでいる。母親は、犯行後には警察官を死体の遺棄場所まで案内しており、記憶の限りにおいて事実関係を供述するなど、自分なりに反省の態度を示している。
また、母親の家庭環境が不遇であったこと、母親に前科前歴がないこと、福祉の専門家が情状証人として出廷し、社会復帰後は、母親の特性や知的障害等を踏まえ、後見制度を利用するなどして体制を整え、福祉的な支援をしていく旨述べていることは母親に有利に考慮できる事情である。
なお、本件の背景として、行政の対応に問題があったことは、本件で鑑定を行った精神科医師らも指摘しているところである。
5
以上の事情を考慮すると、叔母A及び叔母Bに対しては、主文の刑に処した上、社会内において、自ら犯した罪と向き合い、どのように行動すれば本件のような痛ましい事件を防げたのか考えて反省を深め、更生することを期待して、その刑の全部の執行を猶予するのが相当と判断した。
また、母親に対しては、有利な犯情及び一般情状を十分に考慮しても、その犯情の重さに照らせば実刑は免れず、有利な事情は刑期の点で考慮することとして、主文の刑を量定した。