東京・赤坂にある個室サウナ店で火災が発生し、利用していた夫婦2人が死亡した事件。
現場の個室に設置されていた非常ボタンの電源が、当時入っていなかった可能性があると相次いで報じられています。
NHKは「捜査関係者への取材」として、警視庁が東京消防庁と現場検証をした結果、当時、フロントにつながる非常ボタンの電源が入っていなかった可能性があることが分かったと報じました。
NHKによると、サウナがある個室では、外側と内側のドアノブが外れて落ち、回せなくなっており、非常ボタンのカバーは壊れていたといいます。
警視庁は、亡くなった夫婦がサウナに閉じ込められ、非常ボタンを押しても作動しなかった可能性もあるとみて調べているということです。
亡くなった経緯や当時の状況の詳細は、まだ明らかになっていません。
ただ、仮にドアノブや非常ボタンなど、個室サウナの設備に不備があった場合、店側はどのような法的責任を負うことになるのでしょうか。元警察官僚で、刑事事件にくわしい澤井康生弁護士に聞きました。
●「業務上過失致死罪」成立の可能性
──もし個室サウナの設備に不備があった場合、店側はどのような法的責任を負うことになりますか。
まず刑事責任としては、業務上過失致死罪(刑法211条、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)が成立する可能性があります。
争点となるのは、店舗側に過失があったかどうかです。
個室サウナの設備に不備があれば、利用客に重大な危険が及び、最悪の場合には死亡に至る可能性があります。それが予見できる可能性があれば、予見義務も認められ、さらに結果を回避する可能性があれば、結果回避義務も認められます。
これらの予見義務違反、結果回避義務違反が過失を構成します。
今回の事件では、ドアノブに不具合があり、非常ボタンも通じない状態だったと報道されています。もしそうだとするならば、火災や高熱により利用客に死亡結果が発生することは、容易に予見できたと思われます。
また、ドアノブや非常ボタンを適切に修理・点検していれば、死亡という結果は回避できたものと思われます。
したがって、店舗側の過失が認められ、業務上過失致死罪が成立する可能性は高いと考えられます。
●民事では「安全配慮義務」を負う
──民事上の責任についてはどうでしょうか。
民事責任については、契約違反に基づく損害賠償責任を負う可能性が高いと思われます。
利用客は店舗との間でサウナの利用契約を結んでおり、店舗側は利用客が安全に施設を利用できるよう配慮する「安全配慮義務」を負っています。
今回の事件では、ドアノブや非常ボタンに不具合があったと報じられています。仮にその状態を放置したまま営業を続け、死亡事故が発生したとすれば、店舗側に安全配慮義務違反が認められる可能性は高いでしょう。
今回の事件とはやや状況が異なりますが、過去の裁判例では、サウナ風呂のヒーターの過熱による火災で死亡事故が起きたケースについて、店舗側の損害賠償責任を認めた例もあります(東京地裁昭和55年4月25日判決)。
●亡くなった夫婦に子どもがいた場合はどうなる?
──火災で亡くなった被害者に子どもがいた場合、どのような影響がありますか。
仮に今回の火災で亡くなった夫婦に子どもがいた場合、その子どもが、夫婦それぞれに生じた損害賠償請求権を相続によって引き継ぐことになります。
事故や災害により、夫婦のどちらが先に亡くなったかを特定できない場合には、民法の「同時死亡の推定」が適用されて、全員が同時に死亡したものと推定されます(民法32条の2)。
この場合、夫婦間での相続は発生せず、子どもがそれぞれの親から損害賠償請求権を相続することになります。
請求できる内容としては、各親の死亡による逸失利益や慰謝料に加え、遺族固有の慰謝料も認められます。
火災が起きたサウナ(サウナタイガーのHPより)
●今後の捜査のポイント「店の過失が認められるか」
──今後の捜査でのポイントはどこにありますか。
最大のポイントは、店舗側に過失が認められるかどうかです。
具体的には、ドアノブや非常ボタンの不備の程度、不具合がいつから生じていたのか、店舗側がそれを把握していたかどうかなどが捜査対象となります。
また、店舗側の過失と死亡結果との因果関係があるかどうかも重要です。そのため、死亡原因の特定についても、引き続き捜査が進められることになるでしょう。
また、店舗が法人である場合には、実際に刑事責任を問うことができる個人を特定する必要があります。法人自体は刑事責任を負わないため、会社内の自然個人、つまり役員や従業員のうち、誰がどのような責任を負う立場にあったのかが問題になります。
そのため、組織内の指揮命令系統や役割分担、権限関係などを詳細に調べたうえで、最終的に業務上過失致死罪として立件できる人物を選別することになります。