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介護現場で相次ぐ暴力やセクハラ、認知症でも責任問える? 弁護士が語る「法的対応」と再発防止策
写真はイメージです(buritora / PIXTA)

介護現場で相次ぐ暴力やセクハラ、認知症でも責任問える? 弁護士が語る「法的対応」と再発防止策

高齢化が進む中、介護の現場では、入居者や利用者から職員が暴力やセクハラを受けるケースが後を絶ちません。

ヘルスケア労協の調査(2023年11月〜2024年1月実施)では、過去3年間に患者・利用者・家族から何らかの迷惑行為を受けたと答えた職員が42.7%にのぼりました。

内訳は「暴言」(83.3%)が最多で、「威嚇・脅迫」(45.6%)、「小突かれる・たたかれるといった暴力行為」(41.2%)、「何度も同じ内容を繰り返すクレーム」(39.3%)が続き、「セクシュアル・ハラスメント」(24.4%)も報告されています。

弁護士ドットコムにも深刻な相談が寄せられています。

ある女性介護職員は、夜勤中に入居者の高齢男性から暴行を受け、骨折や捻挫など全治約2カ月の大ケガを負いました。以前から、同じ男性によるセクハラ行為もあったといいます。

女性は警察に被害届を出そうとしましたが、相手側から「謝罪したい」との申し出があり、職場との関係もあって示談に進む可能性があるそうです。加害者は軽度の認知症を患っているとされています。

介護職員が入居者から暴力やセクハラ被害を受けた場合、どのような法的手段があるのでしょうか。また、再発防止には何が求められるのでしょうか。伊藤諭弁護士に聞きました。

●ケガをさせたら傷害罪が成立するが…

──利用者からの暴行で骨折した場合、加害者が軽度の認知症でも刑事責任を問えるのでしょうか。

今回のケースについては、詳細な事情がわかりませんので、あくまで一般論になりますが、他人に暴行を加えてケガをさせた場合は傷害罪が成立します。

ただし、加害者が、物事の是非や善悪を理解して、それに従った行動をコントロールする能力を欠く場合は処罰されません(心神喪失)。その能力が著しく限定されていれば、刑が減軽されます(心神耗弱)。

一口に「認知症」といっても、その程度はまちまちで、行為の性質と理解・コントロールする能力によって判断が変わることはありえます。

●示談金の相場はどう決まる

──加害者が謝罪し、示談を求めてきた場合、その相場はどの程度でしょうか。

示談金も、状況やさまざまな要因によって幅があります。

一般的には、治療費、休業損害、入通院慰謝料(治療のための入通院期間に連動)、後遺症が残ればその慰謝料や逸失利益を合計し、その事故・事件における加害者の責任割合を乗じた額が目安となります。

示談や被害弁償がなされた場合、刑事事件においても加害者に有利に働くことがあります。

●事業者には「安全配慮義務」がある

──介護施設や事業者は、入居者による暴力やセクハラにどう対応すべきですか。

さまざまな調査で、介護職員への身体的・精神的暴力やセクハラが少なからず発生していることは明らかです。

厚生労働省もハラスメント対策に乗り出しており、マニュアル整備や、事業者に対する必要な措置を講じることの義務づけをおこなっています。

厚労省は、基本的な考え方として、組織的・総合的にハラスメント対策をおこなうことを求めています。事業者は職員に対する安全配慮義務があり、その責務としてハラスメントへの対応が求められます。

ハラスメント発生の有無は利用者の性格や状態に左右されるものではなく、客観的に発生を認識し、再発防止策を講じることが重要です。

●職員が一人で抱え込まないために

──利用者の暴力やセクハラが、認知症の周辺症状(BPSD)による可能性もあります。どう対応すべきでしょうか。

BPSDには、徘徊や暴言・暴力、妄想などが含まれます。BPSDによる言動の場合、ハラスメント対策では改善が見込めないため、別の対応が必要になります。たとえば「もの盗られ妄想」は、症状としてのケアが必要とされます。ハラスメントかBPSDによる言動かの判断は、事業者内部だけでなく、主治医やケアマネジャーの意見も踏まえる必要があります。もちろん、BPSDであっても、職員の安全配慮は欠かせません。

また、問題が起きた際は、施設内で共有して、職員が一人で抱え込まないようにすることが大切です。さらには施設内だけで解決しようとせず、必要に応じて、他機関と連携することも重要でしょう。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

伊藤 諭
伊藤 諭(いとう さとし)弁護士 弁護士法人ASK川崎
1976年生。2002年、弁護士登録。神奈川県弁護士会所属。中小企業に関する法律相談、弁護士等の懲戒請求やトラブル対応などを手がける。第一法規「懲戒請求・紛議調停を申し立てられた際の弁護士実務と心得」著者。

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