運転中に飛ばした小石によって、相手の車が「傷ついた」と訴えられた──。そのような場合に、修理費用の支払い義務はあるのだろうか。
集英社のEC連動メディア「Marisol」が、40代女性向け「着回しコーディネート」のある日の設定で、こんなトラブルを紹介した。
「家でくつろいでいると警察からいきなり電話がきて驚いた私。どうやら先日私が運転する車から小石を飛ばされフロントガラスにヒビが入ったから訴える!という人がいるらしい」(Marisolの5月7日の記事から)
この記事は「私、訴えられちゃうかも? 弁護士事務所にきちんとコーデで駆け込んで」というユニークな設定から、弁護士の間でもSNSで話題になった。
しかし、トラブルの内容としてはユニークでも何でもなく、珍しくないものだ。弁護士ドットコムにも、自転車や自動車を運転していたところ、別の運転手から「飛び石で傷がついた」とクレームが寄せられたという人の相談が複数寄せられている。
飛び石で傷をつけたと主張された場合、賠償しなければいけないのだろうか。池田誠弁護士に聞いた。
●飛び石めぐる裁判の多くで賠償は認められていない
——飛び石で車が傷つけられたとして修理費用を請求された場合、支払う必要はあるのでしょうか
判例検索サービスを利用して飛び石に関する事件を検索すると、50件近い裁判例がヒットします。
その多くが、飛び石を原因とした車両の傷について、加害者に対する損害賠償や、保険会社に対する保険金を請求した事件ですが、その中で、被害者の請求が一部でも認められている事件はかなり限られています。
加害者に対する損害賠償請求が認められていない理由は、大きく2つに分けられます。
(1)そもそも傷の原因が特定できなかった
(2)飛び石を生じさせたことについて加害者の過失が認められなかった
なお、(1)の「傷の原因が特定できなかったケース」をさらに分類すると、(A)そもそも傷が飛び石によるものとは認定できなかったもの、(B)(傷が飛び石によるものであるとしても)加害車両の走行による飛び石とは認定できなかったもの、とに分けることができます。
これらの整理から、飛び石による被害について請求を受けた場合も、まずは、自身の走行によって飛び石が生じ、これが原因で傷が発生したことについて、請求者に具体的な証明を求めるべきことになります。
一般的には、ドライブレコーダーなどの映像によって飛び石の瞬間が記録されていないと、証明は容易ではありません。
●ドライブレコーダーに映像が残っていたとしても
次に、仮に、ドライブレコーダーに飛び石の瞬間が収められており、これが自身の走行によるものであることが基礎づけられた場合、過失に基づいて飛び石を生じさせたことについて、請求者に具体的な証明を求めるべきことになります。
なお、裁判例では、高速道路走行中に500円玉程の小石を視認して的確に回避することは困難であるとし、飛び石の過失を否定したものがあります。
以上のとおり、ドライブレコーダーなどの映像によって事故状況が証明されても、自車の走行に過失がなければ損害賠償義務を負う必要はありません。
ですので、仮に映像などによって事故状況が証明されても、賠償に応じる前に弁護士などの専門家に相談してはいかがでしょうか。