「#私が退職した本当の理由」。今年に入って、SNS上では、こんなハッシュタグをつけて、過去にあったセクハラやパワハラなどのつらい体験談を投稿するブームが起きている。
その後、元タレントの中居正広さんの女性トラブルをめぐって、フジテレビの第三者委員会が、業務の延長線上で生じた「性暴力」と認定したことを受けて、このような投稿がさらに盛り上がった。
第三者委員会は、フジテレビが取引先との関係を良好なものとするため、性別や年令に着目してアナウンサーや社員を利用したと結論付けたが、一般社会でも、若い女性が「利用」されているようだ。
弁護士ドットコムニュースもLINEを通じて読者に呼びかけたところ、さまざまなエピソードが届いた。ある女性は「上司の命令で連れて行かれた取引先との集まりで、下着姿にさせられた」という過去を告白した。
●下着姿でロウソクを垂らされた「接待」
新卒で東海地方のIT企業に就職した佐々木理沙さん(仮名・30代)は、ひどいセクハラを受けたことが原因で退職した。
従業員の8割を男性が占める職場では、性的な発言が容認される空気があり、新卒1年目の佐々木さんが営業成績トップを獲得すると、上司から「枕営業したんだろ」という言葉が浴びせられた。
さらに「トップを取ったお祝い」と称して、上司は佐々木さんと男性社員たちを誘って、取引先の顧客とともに「いかがわしいイベント」が発生するバーに連れて行った。
上司の命令で、服を脱がされ、下着だけの姿になった佐々木さんは、上司たちからロウソクのロウを体に垂らされたという。
「抵抗しましたが『行け』と言われて行かされました。上司が『下着も取れ』と言ってきたところで、先輩社員がさすがにやめましょうと止めてくれました」
帰りのタクシーでも、上司がスカートに手を入れてくるなどの被害に遭ったという。
●女友だちを集めて「合コン」するよう求められた
会社側に報告しても、まったく取り合ってもらえないどころか、佐々木さんに責任を押し付けるような対応だった。
「当時の支社長は黙認。人事からも『仕方ない』『佐々木さんは、そういうセクハラをしやすい人だからいけない』と逆に責められました」
この職場では、「接待も仕事のうち」と言われて、女友だちを集めて取引先と合コンをするように妻子のある上司に求められることもあった。
「何度も何度も断りましたが、あまりにもしつこく、評価を下げるとも言われて、大学時代の友人を集めました」
結局、入社2年で退職した。「セクハラされているだけで、何もスキルが身につかないと思ったからです」
●弁護士「パワハラにもセクハラにも該当する」
フジテレビの第三者委員会の報告書は、取引先との会合について、(1) 社員の性別・年齢・容姿などに着目して会合に呼ぶこと、(2) 社員のセクハラ被害を黙認・助長することのいずれかがあれば、不適切な会合と判断した。
そのうえで、「社員やアナウンサーらが、取引先との会合において、性別・年齢・容姿などに着目され、取引先との良好な関係を築くために利用されていた実態はあったというべきであり、不適切である」と指摘した。
上司が取引先との会合で、部下の佐々木さんを無理やり下着姿にしたり、スカートの中に手を入れたりすることは、セクハラどころか、今で言えば「不同意わいせつ罪」に問われうる。
こうした行為は論外だとしても、上司が部下に対して、取引先との接待(合コン)に女性を集めるように命じ、従わない場合に「評価を下げる」などと言及するケースも、大きな問題が生じる。
今井俊裕弁護士は、このような合コンの指示は「パワハラやセクハラにあたる」と指摘する。
「パワハラとは、職場における(1)優越的な関係を背景とした言動で、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものとされます。
合コンのメンバー集めの指示は、業務終了後でも参加者が取引先の男性従業員であり、命じられた佐々木さんにも出席を強要するものでしょうから『職場』の延長線上における会食に関する指示です。
取引先との接待とはいえ、合コンのメンツ集めなんて会社の業務におよそ必要とも相当とも言えません。通常は女性が精神的に苦痛に感じる性質のものでしょう。さらに人事評価権をもつとみられる上司からの指示です。パワハラにもセクハラにも該当するといえるでしょう」
今井弁護士はセクハラについて次のように指摘した。
「佐々木さんはメンバー集めを不愉快に感じ、その合コンの席上では、現在の交際相手の存在や、好みの異性のタイプ、などの話題も想定されます。佐々木さんが指示に逆らえば人事評価にも悪影響を及ぼしたり、そうでなくとも職場の環境悪化も考えられます」
佐々木さんが嫌な思いをして退職したのは、およそ10年前だ。もうすでに「取引先との接待だから合コンの指示くらい許される」という意識は時代遅れで、大きなトラブルにつながりかねないものだ。