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「『お、じかん以上。』のユトリを」 これって…“観光地のパロディTシャツ”、外国人も目にするのに法的問題ないの?
静岡県の駅の売店で販売されていたTシャツには「『お、じかん以上。』のユトリを」

「『お、じかん以上。』のユトリを」 これって…“観光地のパロディTシャツ”、外国人も目にするのに法的問題ないの?

全国各地の観光地で、有名ブランドのロゴなどを模した「パロディ」商品を見かけた経験はないだろうか。

今年2月、富士山観光の玄関口となっているJRの駅ビルで、企業やブランドのロゴをモチーフとしたと思われるパロディTシャツが販売されているのを見かけた。そこは外国人も訪れるインバウンドの要所だ。

並べられた十数種類のラインナップの中から、「『お、じかん以上。』のユトリを」と書かれたTシャツを購入してみた。元ネタは、ニトリの「お、ねだん以上。」であることは明らかと考えられる。

パロディTシャツをめぐっては、およそ10年前に販売店が一斉摘発された事件もあった。販売に問題はないのだろうか。弁護士の解説とともに考えてみたい。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

●「OCOSITE」「IBUQLO」元ネタは

この駅ビルの売店で「おもしろTシャツ」として販売されていたものの中には「OCOSITE(※起こして)」という英字と、ひっくり返ったワニのイラストのものもあった。あのアパレルブランドを思い起こさせる。

また、赤い背景に白字で「IBUQLO」と書かれたデザインのロゴは、どうしても日本を代表するファストファッションブランドを思わせる。

一般的に、パロディTシャツの中には、知的財産権を侵害すると考えられるものもある。2016年10月には、大阪・ミナミの販売業者への一斉摘発があった。

当時の報道によると、ナイキに似せたロゴマークに「NICE」と書かれたものや、アディダスに似せたアジの開きのようなロゴマークに「ajidesu」と書かれたものなどがあったという。商標法違反の疑いで店長らが逮捕された。

それから約10年後の現在、今回の店にも「ajidesu」のTシャツが置かれてあった。

パロディ商品は、精巧な本物と見紛うような「コピー商品」とは異なる。法的にアウトなのかセーフなのか。知的財産法にくわしい坂野史子弁護士に聞いた。

●「パロディTシャツ=ただちに違法」ではない

——一般的に企業やブランドのロゴマークをアレンジしたパロディTシャツの販売にはどんな問題が考えられますか

商標権侵害のほか、不正競争防止法違反(周知表示混同惹起行為・不正競争防止法2条1項1号/著名表示冒用行為・同2条1項2号)が問題となる可能性があります。

まず、商標権侵害は、商標が同一または類似で、かつ、指定商品・役務(サービス)が同一または類似であることが要件です。

たとえば、ニトリホールディングスは、緑の四角の中に白抜き文字で示された「ニトリ」について、「被服」を指定商品とする商標権を登録しています(登録番号:第5900106号)。

そのため、緑の四角の中に白抜き文字で示された「ニトリ」と同一または類似の商標を「被服」(Tシャツ)と同一または類似の商品等に使用した場合、商標権侵害になります。

また、不正競争防止法では、「周知」または「著名」な商品等表示(商品についての表示に限らず、営業主体についての表示も対象として含まれる)が保護の対象です。

周知の商品等表示と同一または類似のものを使用して、混同を生じさせる行為は不正競争とされます(周知表示混同惹起行為)。著名な商品等表示と同一または類似のものを使用する行為も不正競争となります(著名表示冒用行為)。

周知性・著名性については、通常、売上げやシェア、広告宣伝費、取引者・需要者の認識を問うアンケートなど、数多くの証拠に基づいて判断されなければいけません。

そのため、パロディTシャツだからといって、ただちに商標権侵害や不正競争にあたるわけではありません。

まずは、商標・商品等表示が類似するかどうかについて、問題となった商標・商品等表示の外観・称呼・観念および取引実情を踏まえた総合的な判断が必要です。

なお、不正競争防止法では、周知・著名が要件とされるため、商標法の商標の類似の範囲より、不正競争防止法の商品等表示の類似の範囲のほうが広いと考えられることが多いと思われます。

●最終的には「裁判」で慎重に検討されるべき

——「『お、じかん以上。』のユトリを」など複数のパロディTシャツが販売されていました。違法かどうか結論づけることは難しいのでしょうか

これまで述べてきたように、商標の類否、商品等表示の類似は、外観・称呼・観念および取引実情から、個別具体的に判断する必要があります。不正競争防止法の場合は、商品等表示の周知性・著名性についても判断する必要があります。

店にあったパロディTシャツの元ネタのブランドは、被服についての商標権を取得していると思われますし、周知・著名なものが多く、不正競争行為も問題となる場合が多いように思います。

ただし、商標と商品等表示の類否や商品等表示の周知性・著名性の判断は、容易なものではなく、最終的には裁判で慎重に検討されるべきものです。

画像タイトル 「『お、じかん以上。』のユトリを」Tシャツを着用した様子

たとえば、「『お、じかん以上。』のユトリを」について検討してみると、外観は「ユトリ」が大きく緑の四角の中に白抜き文字で記載されており、「『お、じかん以上。』の」と「を」と分離し、「ユトリ」の部分を要部(識別力を有する部分)として観察することもできると思います。

ただし、「ニトリ」と「ユトリ」を対比すると、称呼(音)が「ニトリ」と「ユトリ」であり、観念(意味)が、ニトリが造語で意味がなく、ユトリが「ゆとり」という意味を生じるということなどから、類似しないと判断される可能性もあるでしょう。

また、不正競争防止法でも、周知性・著名性の立証を前提としたうえで、パロディTシャツが模したと思われる緑の四角の中に白抜き文字で示された「ニトリ」の商品等表示と、同様に緑の四角の中に白抜き文字で示された「ユトリ」の商品等表示を対比して、慎重に判断する必要があると思われます。

●「国内外で周知・著名ブランドを毀損する」という意見は理解できるが…

——インバウンド(訪日外国人旅行)の利用もある駅の売店でパロディ商品が販売されていることをどのように受け止めますか

一般的に、ブランド商標のパロディ商品は、特定の商標が有する「宣伝・広告機能」を無断使用しているほか、一見すると本物の商標と見誤るようなものもあり、「自他商品識別機能」や「出所表示機能」を損ねている商品もあります。

たしかに、インバウンドの外国人に対して、世界や日本で周知・著名なブランドを毀損するような印象を与えるのは好ましくない、という意見は理解できます。

ただし、法的措置をとるべきまでの事案であるかどうかは、個別具体的に慎重な判断をすることが必要だと思います。

過去に大阪のミナミでパロディ商品の一斉摘発があったように、警察の捜査が入り、逮捕するまでした対応はやりすぎだったとも言えそうです。

重ね重ね述べてきましたが、パロディTシャツであるからただちに違法であるとするのではなく、裁判で慎重に判断されるべきことだと考えます。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

坂野 史子
坂野 史子(さかの ふみこ)弁護士 静岡のぞみ法律特許事務所
弁理士資格を有し、企業法務・顧問契約に注力。知的財産・労働問題等の個人事業主・企業において生じる法律問題全般の相談に対応。理系の大学からメーカー、特許事務所を経て2012年弁護士登録。静岡県弁護士会所属。

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