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最高裁の裁判官「国民審査」、用紙に「◯」は書かないで 投票前に知っておきたいポイントは
審査対象の6裁判官

最高裁の裁判官「国民審査」、用紙に「◯」は書かないで 投票前に知っておきたいポイントは

10月27日の衆院選では、最高裁裁判官の国民審査も同日に行われます。最高裁裁判官15人の中から、前回衆院選以降に任命された6人が対象となります。

選挙に比べて、機会の少ない国民審査ですが、改めてどのような制度なのか整理しました。

●「✕」が過半数→その裁判官は辞めさせられる

国民審査とは、最高裁判所の裁判官が、裁判官としてふさわしいかどうかを国民が判断する制度です。

国民審査は、衆議院議員の選挙と同じ日に、同じ会場で行います。衆議院議員の選挙の投票箱と、国民審査の投票箱が並んでいて、順に投票する流れです。

会場では、裁判官の名前が一覧表のようになっている用紙を渡されるので、その紙の名前の上にある欄に「✕」をつけます。

「✕」が過半数だった場合には、その裁判官は辞めさせられます。

●用紙に「◯」は書いてはならない

一つ注意が必要なのが、「◯」をつけてはいけない、という点です。

やめさせたい裁判官に「✕」をつける、というルールですので、逆にやめさせない裁判官には、つい「◯」をつけたくなります。

しかし、「✕の記号以外の事項を記載したもの」を「無効とする」という規定があります(最高裁判所裁判官国民審査法22条1項第2号)。

「◯」を書くとその用紙は無効になってしまいますので、決して◯を書いてはいけません。

やめさせようと思っていない裁判官については、「何も書かない」が正解です。 同法15条1項で、「罷免を可としない裁判官については投票用紙の当該裁判官に対する記載欄に何らの記載をしないで、これを投票箱に入れなければならない。」と定められています。

●過去に罷免された裁判官はゼロ

今回国民審査の対象となっている裁判官は6名です。それぞれの裁判官がどういう判決を下しているのか、などの情報から、✕をつけるべきかどうか、考えておくのが良いでしょう。

ただ、それぞれの裁判官のことを調べたり、下した判決を読んで検討するのには、とても時間がかかりますし、難しくて大変だ、という印象を持たれるかもしれません。

国民審査で罷免された裁判官は、歴史上一人もいません。

史上最も「✕」の割合が高かった裁判官は、下田武三(しもだ たけそう)裁判官で、それでも15.17%(1972年の国民審査時)だそうです。

下田裁判官は、行政官(外交)出身で、外務事務次官であった頃、沖縄の返還をめぐって「核付き返還やむなし」という趣旨の発言をしたことが多くの反発を招いたなどと言われているようです。

あまり難しく考えずに、自分が今知っている有名な事件で、納得の行かない判決や判断を下した裁判がある裁判官には「✕」をつける、というくらいの感覚でも良いのではないでしょうか。

●6名の経歴と実績

では今回、対象となる6人の裁判官たちはどのような経歴、実績があるのでしょうか。

最高裁裁判官となる前の経歴(出身)は、裁判官出身が4名、弁護士出身1名、官庁出身1名でした。また卒業大学は、東京大学が4名、京都大学が2名です。

以下、簡単なプロフィールと、最高裁で関わった主な事件を紹介します。(参照:最高裁HP)

<尾島 明>
(おじま あきら、1958年(昭和33年)9月1日生。2022年7月5日〜最高裁判事)

東京大学法学部卒・裁判官出身。趣味はフルートの演奏や演劇・美術鑑賞。

最高裁で関わった主な事件として、2022年の参院選における一票の格差について「違憲状態」にあると判断しています(2023年10月18日)。

また、男性から性別変更をした女性が、性別変更前に凍結保存した精子で生まれた子の認知を求めることができるかが問題となったケースで、認知ができると判断しました(2024年6月21日)。尾島裁判官は、この裁判で補足意見を付しており、子の福祉を重視する考え方を示しています。

さらに、旧優生保護法により不妊手術を強制された人たちが、国に損害賠償を求めた裁判で、旧優生保護法を違憲と判断しています(2024年7月3日)。

【プロフィール詳細】
https://www.courts.go.jp/saikosai/about/saibankan/ojima/index.html

【最高裁判事就任記者会見】
https://www.courts.go.jp/about/topics/ojima_syuuninkaiken/index.html

<宮川 美津子>
(みやがわ みつこ、1960年(昭和35年)2月13日生。2023年11月6日〜最高裁判事)

東京大学法学部卒・弁護士出身。趣味は観劇(特に歌舞伎や文楽等の伝統芸能)、音楽鑑賞(クラシックから米津玄師、藤井風、King Gnu、YOASOBI等まで幅広い)、ゴルフ。

最高裁で関わった主な事件として、旧優生保護法により不妊手術を強制された人たちが、国に損害賠償を求めた裁判で、旧優生保護法を違憲と判断しています(2024年7月3日)。

また、飲酒運転を理由に懲戒免職となった公務員が、退職手当(1620万4488円)を支給されなかったことについて、不支給処分には裁量の逸脱・濫用はない(=結論として不支給は適法)とする多数意見に立っています(2024年6月27日)。

【プロフィール詳細】
https://www.courts.go.jp/saikosai/about/saibankan/miyagawa/index.html

【最高裁判事就任記者会見】
https://www.courts.go.jp/about/topics/miyagawa_syuuninkaiken/index.html

<今崎 幸彦>
(いまさき ゆきひこ、1957年(昭和32年)11月10日生。2022年6月24日〜最高裁判事、2024年8月16日〜最高裁長官)

京都大学法学部卒・裁判官出身。趣味は「無趣味といってよいよう」ですが、あえていえば読書、音楽鑑賞(ジャズ・ロック・クラシック)だそうです。

最高裁で関わった主な事件として、名張毒ぶどう酒事件の10回目の再審請求で、再審を認めない多数意見に立っています(2024年1月29日)。

また、旧優生保護法により不妊手術を強制された人たちが、国に損害賠償を求めた裁判で、旧優生保護法を違憲と判断しています(2024年7月3日)。

さらに、トランスジェンダーのトイレ使用を制限したことを違法と判断しています(2023年7月11日)。

この事件は非常に大きな反響を呼びました。結論としては、裁判官全員一致(今崎裁判官のほか、宇賀克也、林道晴、長嶺安政、渡邉惠理子裁判官の5名による判決)で、トイレ使用の制限を違法と判断しています。

その理由の中で、以下のような具体的な事情を考慮し、本件では、本人が女性用トイレを使用することでトラブルが生じることは以下の理由から、想定しがたいとしています。

・トランスジェンダー本人が1998年頃から長期にわたり女性ホルモンの投与を受け、男性ホルモン量が同世代の男性の基準値の下限を大きく下回っており、性衝動に基づく性暴力の可能性が低いという医師の診断があったこと

・2010年に行われた説明会の後から、本人は、使用者(経済産業省)側の処遇にしたがって、執務階と2階離れた女性トイレを使用していたが、本人の女性トイレ使用によるトラブルは起こっていないこと

・説明会の際、本人の女性トイレ使用に明確に異を唱える職員はいなかったこと

・トイレ使用についての見直しは、この間検討されてもいないこと

今崎裁判官は、この事件でさらに以下のような趣旨の補足意見を述べています。

・本人は2008年ころから、私的な時間のすべてを女性として過ごしているが、問題が生じたことはない

・事案ごとの個別具体的な解決が必要であり、一律の解決にはなじまない。同じトイレを使用する他の職員への説明や納得が必要である。

・本判決は、トイレを含め、不特定または多数の人々の使用が想定される公共施設の使用のあり方について触れるものではない。

最高裁のウェブサイトで判旨が公開されているため、正確な情報が知りたい方はそちらをご覧ください。

【プロフィール詳細】
https://www.courts.go.jp/saikosai/about/saibankan/imasaki/index.html

【最高裁長官就任記者会見】
https://www.courts.go.jp/about/topics/imasaki_choukansyuuninkaiken/index.html

【最高裁判事就任記者会見】
https://www.courts.go.jp/about/topics/imasaki_syuuninkaiken/index.html

<平木 正洋>
(ひらき まさひろ、1961年(昭和36年)4月3日生。2024年8月16日〜最高裁判事)

東京大学法学部卒・裁判官出身。趣味は演劇やコンサート鑑賞。文楽、歌舞伎、落語、吉本新喜劇、宝塚歌劇、都をどりなど。

最高裁判事となったのが2024年8月16日と最近であるため、最高裁判事として関わった主な事件は見つかりませんでした。

【プロフィール詳細】
https://www.courts.go.jp/saikosai/about/saibankan/hiraki/index.html

【最高裁判事就任記者会見】
https://www.courts.go.jp/about/topics/hiraki_syuuninkaiken/index.html

<石兼 公博>
(いしかね きみひろ、1958年(昭和33年)1月4日生。2024年4月17日〜最高裁判事)

東京大学法学部卒・行政官出身。趣味は読書、音楽、観劇、旅行、食べ歩き。

最高裁判事として関わった主な事件としては、旧優生保護法により不妊手術を強制された人たちが、国に損害賠償を求めた裁判で、旧優生保護法を違憲と判断しています(2024年7月3日)。

最高裁判事となったのが2024年4月17日と割と最近であるため、他の主な事件は見つかりませんでした。

【プロフィール詳細】
https://www.courts.go.jp/saikosai/about/saibankan/ishikane/index.html

【最高裁判事就任記者会見】
https://www.courts.go.jp/about/topics/ishikane_syuuninkaiken/index.html

<中村 愼>
(なかむら まこと、1961年(昭和36年)9月12日生。2024年9月11日〜最高裁判事)

京都大学法学部卒・裁判官出身。オフの過ごし方はウォーキング、水泳。歴史、自然科学の本を読むこと、音楽を聴くことで気分転換するそうです。

最高裁判事となったのが2024年9月11日と最近であるため、最高裁判事として関わった主な事件は見つかりませんでした。

【プロフィール詳細】
https://www.courts.go.jp/saikosai/about/saibankan/nakamura/index.html

【最高裁判事就任記者会見】
https://www.courts.go.jp/about/topics/nakamura_syuuninkaiken/index.html

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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