「成人式で着たいから、振袖を貸してほしい」
そんな一言から、思い出の振袖がトラブルに巻き込まれてしまうケースがあるようです。SNSでは「友人に振袖を貸したら汚されてしまった」といった声が上がっていました。
親戚や親しい友人に頼まれたら、断りづらいもの。しかし、振袖は高価な場合が多く、クリーニングや染み抜きに数万円以上かかることがあります。
汚れた振袖の弁償はしてもらえるのでしょうか。また、こうしたトラブルを防止するために事前にできることはあるのでしょうか。寺林智栄弁護士に聞きました。
●弁償はしてもらえても購入価格ではなく「時価」に…
——たとえば、数十万円で購入した振袖を汚されたり、返してもらえない場合、貸した相手に弁償してもらうことは可能でしょうか。
振袖を無償で貸し借りすることは「使用貸借契約」に該当し、借りた人は返還する義務を負います(民法593条)。
また、借りた人は「その目的物の性質によって定まった用法」に従って使用する義務を負いますので(民法594条1項)、振袖を汚さないようにする義務を負います。
ですので、借りた人に過失のない事故や災害などの不可抗力によって汚してしまった場合や、それによって返せなくなった場合を除いて、契約違反として、貸した人は弁償を求めることができます。
問題は、支払いを求めることができる金額です。
紛失した場合や大きく破損・汚損して着用できなくなった場合には、その着物の価格を弁償してもらうことができます。しかし、その「価格」とは、購入価格ではなく、紛失、汚損・破損時の「時価」になります。ですので、購入価格よりは低額となります。
また、破損・汚損の程度が比較的軽微で、補修やクリーニングにより着用が可能な場合は、補修費やクリーニング代が弁償の金額となります。
●どうしても貸さなければいけない場合は?
——成人式などの思い出が詰まった振袖を、どうしても貸さなければいけない場合、事前にトラブルを回避するための防止策はありますか?
事前にトラブルを回避するのはなかなか難しいですが、借りる人に念書を書いてもらい、「きれいな状態で返さなければ費用を負担しなければならない」というプレッシャーをかけておくことが一定程度有効と思われます。
たとえば、
「借りた振袖は〇年〇月〇日までに必ずお返しします」
「成人式(あるいは七五三など)以外の用途で振袖を使わないことを誓います」
「振袖を汚した場合にはクリーニング代を弁償します」
「振袖を紛失した場合や破損した場合、ひどい汚れで着用できなくなった場合には、〇万円を弁償します」
などという文言が入った念書に日付と借りた人の署名捺印をもらっておくとよいのではないでしょうか。
このような念書は、振袖を汚したり破損したにもかかわらず、借りた人が弁償を渋る場合に証拠として利用することもできます。友だちや親戚などの親しい人だからといって遠慮せず、防衛策を講じておいたほうが良いでしょう。