飲食店でタブレットやスマホを横向きにして、イヤホンをつけて動画を観ながら食事をする人たち。以前は違和感のあった行動も、今ではありふれた光景になってきた。しかし店側にとっては、そう悠長にも言っていられない事情もありそうだ。
「定食屋でランチをしていたら、隣で動画を見ていた男性客が『食事中はスマホを片付けてください』と注意されていました。回転率をあげたい店側の気持ちはわかりますが、あそこまで強く言わなくてもいいのにな、と思ってしまいました」(都内・女性会社員)
店側に注意されたという声がある一方で、黙認されているケースもあるようだ。
「ほどほどに混んだ居酒屋のカウンター席で、ビール片手に大きめのタブレットで動画をみている男性客がいました。店員さんとも言葉をかわしていましたし、黙認されている常連客のようでした。自宅のように寛いでいるのが印象的でした」(都内・男性会社員)
黙認されていることもあるが、店の方針によっては、客の動画視聴を禁止することもできるのだろうか。齋藤裕弁護士に聞きました。
●黙認されていても「長時間居座ったら」ダメなことも
飲食店で食事をしている際に動画視聴して良いかどうかについては特別の法律の定めはありません。そこで、飲食店での動画視聴については、飲食店と客の意思がどのようなものであるかを踏まえて判断するしかないと思われます。
飲食店側が、「食事中の動画視聴は禁止」と目立つ掲示等で動画視聴を禁止している場合、飲食店と客との間には、動画視聴をしないで飲食するという合意が成立している可能性があります。この場合には、飲食店として客に動画を視聴しないよう求めることができると考えます。
しかし、そのような掲示等もなされていない場合、動画を視聴しないという合意は通常は成立しておらず、飲食店としてお願いを超えて、動画視聴を禁止する権限はないと言えるでしょう。
また、掲示等がされていない場合でも、飲食に必要な時間を大幅に超えて店に居座り、動画を視聴しているような場合、飲食店と客の合意の範囲を超え、飲食店として客に動画視聴をやめるよう求めることができる可能性があると考えます。
その飲食店において動画視聴が黙認されてきたような場合でも、異例なほど長時間居座っているような場合にはやはりやめさせることも可能です。