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もはや凶器?満員電車のトゲトゲリュックに乗客悲鳴 トラブル時の責任は?
パンク・ロックなスタッズびっしりのリュック(2023年2月、弁護士ドットコム撮影)

もはや凶器?満員電車のトゲトゲリュックに乗客悲鳴 トラブル時の責任は?

東京都内で働くアオイさん(仮名・30代)は、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車に乗りながら、大きなリュックや角型のバッグで圧迫してくる他の乗客に苛立ちを募らせていた。

身動きが取れない状況が続く中、「トドメを刺す気か」と言わんばかりのバッグを持った客が乗り込んできた。前に抱えているのは、無数の鋲(スタッズ)がついたパンク・ロック系のリュック(トゲトゲリュック)だ。

「あれはクッパか」「もはや凶器なのではないか」と思いながら、近くに来ないことを祈り続けた。結局、奥に押しやられ、トゲトゲの恐怖からは免れたが、リュック付近にいた客は険しい面持ちだった。

ネット上には、実際に満員電車内でトゲトゲリュックの攻撃をくらった人たちから「刺さってクソ痛い」「頭部にくらった」「目に刺さりそうで危なかった」などの声がみられる。実際にケガをした場合、治療費を求めることはできるのか。甲本晃啓弁護士に聞いた。

●わざとじゃなくてもケガをさせたらNG

「混雑した電車内に持ち込んだ危険な荷物によって他の乗客にケガをさせてしまった場合は、その損害を賠償する義務を負います。一般的には、ケガの回復にかかった費用(治療費等)と通院・加療に伴う慰謝料を払うことです」

甲本弁護士は、こう説明する。わざと(故意)ではなく、過失によってケガをさせたとしても、損害賠償義務は発生するのか。

「法律上は、過失でも賠償義務が発生します。交通事故のほとんどは過失ですので、この前提は感覚的にご理解いただけると思います。

法律でいう『過失』とは、危険を予期しうるのに、十分な注意を払わなかったことをいいます。交通事故でいえば、スピードの出し過ぎでカーブを曲がりきれず、対向車と衝突したような状況がこれにあたります。

同じように、混雑した電車内に他人がケガをする可能性のあるものを持ち込んで、実際にケガをさせてしまったのであれば、過失があったと評価されます。ファッションアイテムだからという理由で、責任が軽減されることはありません。

一方、電車内に持ち込んだモバイルバッテリーが製造上の不具合で突然発火し、人をケガさせてしまった場合は、過失がないため、責任を負いません。かわりに、バッテリーの製造者が製造物責任として、損害賠償義務を負います」

●我慢できない「痛み」でもグレーゾーン

トゲトゲリュックの一例(2023年2月、弁護士ドットコム撮影)

先が尖った荷物でケガをする可能性は十分にありうる。しかし、トゲトゲバッグのスタッズは、ケガを負わせるほど鋭利といえるのだろうか。

「『満員電車で押されれば痛いかもしれないが、皮膚を切るようなケガはしないのでは』と疑問に思う人もいるかもしれません。実際に、スタッズにどの程度の危険性があるのかは個別の問題だとは思います。しかし、圧迫されれば、皮下で内出血を起こすことも考えられます。これもケガの一種です。

そもそも、他人に肉体的な苦痛を与えること自体が違法なので、長時間、強くスタッズが押し当てられたために特別に痛い思いをさせてしまったという場合も、損害賠償責任が発生する可能性があります。

たしかに、満員電車の混雑で体が押されて苦しい思いをすることは受忍限度の範囲内であって、平たくいうと『お互い様』として許容する必要があります。しかし、スタッズを押し当てられて特別に痛い思いをすれば、それは受忍限度を超えるものとして、法的責任が発生する場合もあると考えられます」

●JR東「危害及ぼすおそれのもの」お断り

各鉄道会社の契約約款には、手回り品についての規定がある。たとえば、JR東日本の旅客営業規則では、電車内に持ち込むことができないものとして「他の旅客に危害を及ぼすおそれがあるもの」が掲げられている。

JR東日本によると、スタッズ付きのバッグがこれにあたるかの判断は難しいものの、「他のお客さまにご迷惑をおかけするおそれがある場合や列車が大変混雑している場合など」は、持ち込みを断る場合があるという。

甲本弁護士は、次のようにアドバイスする。

「最終的には、各鉄道会社の判断になるとは思いますが、実際に他人にケガをさせてしまうほどの鋭利なスタッズ付きのアイテムは、持ち込みができない物品に該当する可能性があります。もし、必要があって持ち込む場合は、別のバッグやケースに入れたり、梱包したりして、スタッズを保護した形で持ち込むのが安全でしょう」

さらに、甲本弁護士は「他の乗客にケガをさせた場合、過失傷害罪にあたりうるため、刑事責任も生じる可能性がある」と指摘する。

「そのような事態となれば、他の乗客からの緊急通報により列車運行を止め、安全確認をしなければならないという状況も想定されます。持ち込みが禁止されている危険物を持ち込んだということであれば、威力業務妨害罪として処罰される可能性もあります」

プロフィール

甲本 晃啓
甲本 晃啓(こうもと あきひろ)弁護士 甲本・佐藤法律会計事務所
理系出身の弁護士・弁理士。東京大学大学院修了。丸の内に本部をおく「甲本・佐藤法律会計事務所」「伊藤・甲本国際商標特許事務所」の共同代表。専門は知的財産法で、著作権と特許・商標に明るい。鉄道に造詣が深く、関東の駅百選に選ばれた「根府川」駅近くに特許事務所の小田原オフィスを開設した。

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