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タジマモーター創業会長の逮捕騒動、顧問弁護士がとった「冷徹」対応「楽観主義はよりダメージに」
田嶋伸博さん(タジマモーターのHPより)

タジマモーター創業会長の逮捕騒動、顧問弁護士がとった「冷徹」対応「楽観主義はよりダメージに」

40年以上もトップとして企業を率いてきたオーナー兼代表取締役会長が突然、刑事事件に巻き込まれた。社内の混乱ぶりを想像するだけでも、実に怖くなるが、梅津立弁護士は、顧問弁護士として、危機対応にあたることになった。

「何とかなるという楽観主義は、会社により大きなダメージを与える」。オーナー代表者に引導を渡すという、ある意味で「冷徹」といえる対応を含めて、梅津弁護士に聞いた。(ジャーナリスト・富岡悠希)

●「代表取締役会長を辞めてもらう必要があります」

2022年12月中頃、梅津弁護士は長野県警松本署にいた。接見で向き合っていたのは、タジマモーターコーポレーション(東京都中野区)創業者兼代表者の田嶋伸博さんだ。

同社は、外国車の輸入販売事業のほか、アクションカメラ「GoPro」の日本総代理店も営んでいる。近年は、電気自動車関連の次世代モビリティや環境事業でも注目を集める。

会社もさることながら、田嶋さんは自動車業界の有名人だ。山岳道路を自動車で走ってタイムを競う米国のレース「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」で2006年から6連覇を達成。コロラド・スプリングス市の殿堂入りをして海外ではさらに超有名人だ。

身長184センチ、体重90kg超の巨体とその豪快な走りっぷりから、「モンスター」の異名を持つ。

車好きの梅津弁護士と田嶋さんの付き合いは、かれこれ20年近くになる。田嶋さんが人一倍努力して、会社を成長させてきた姿を見てきただけに辛かった。説得に乗り出さなくても、田嶋さんは自らが置かれた立場をわかっていた。返事は簡潔だった。

「会社を守るために(代表者の座を)おります」

●スキー場内で廃棄物を投棄・焼却した疑いで逮捕された

それにしても、なぜ、東京にある会社のトップが長野県警に逮捕されたのだろうか。

タジマモーターは、2020年から長野県大町市にある爺ガ岳スキー場と長野県朝日村にあるあさひプライムスキー場の経営に参画している。

GoProは、スポーツ中の撮影に使われることが多い。「ウインタースポーツの振興と地域再生になれば」。スキー場の黒字化は難しい道だが、田嶋さんは決断した。爺ガ岳スキー場の運営は、買収した大町温泉観光(当時の代表者はA氏)がその任にあたった。

しかし、結果として、この男気があだとなる。田嶋さんは結局、22日間も逮捕・勾留されたうえ、2022年12月下旬、廃棄物処理法違反(焼却禁止)の疑いで起訴された。

タジマモーターの発表によると、爺ガ岳スキー場のある施設が老朽化し、安全性に問題が生じた。A氏らは2020年8月、取り壊した建物の廃材約5・5トンをスキー場内に埋めて投棄した疑いが持たれていた(発覚後に適切に処分済み)。

また、2021年4月、A氏らは木くず約41.8キロを爺ガ岳スキー場内で焼却した容疑(いわゆる「野焼き」の禁止違反)もかけられている。

2022年12月上旬に逮捕された際、田嶋さんには1つ目の投棄と2つ目の焼却の両方について共謀の容疑があった。結果的に共謀で起訴されたのは木くずの野焼きについてで、投棄については処分保留となった。

なお、梅津弁護士によると、田嶋さんは二つの現場に居合わせておらず、明確な指示もしていないため、共謀の認定は刑事裁判の結果がでるまで分からないという。

●「法令遵守の落とし穴は、どこに落ちているかわからない」

現在、スキー場の経営には、タジマモーターが送り込んだ新たな代表があたっている。観光業出身の男性で、マネジメント能力があるという。

以前の代表A氏は、ウィンタースポーツの元一流選手であったうえ、スキー場の現場運営や重機の運転など現場仕事は得意だった。田嶋さんは非常に高く評価していたが、法令遵守、経理、労務管理など経営者としての経験は十分ではなかったようだ。

梅津弁護士は折に触れて、田嶋さんから経営面での相談を受けてきた。しかし、買収前に相手企業の調査をおこなう「デューデリジェンス」についての相談を大町温泉観光を買収する際にはうけなかった。もし、あらかじめ相談されれば、何らかのアドバイスができた可能性はあった。

いま日本企業の間では、以前にも増して法令遵守が徹底されている。梅津弁護士も、タジマモーターは自動車関連業務の安全確保や廃棄物管理について法令遵守のルールを定めていたが、異業種であって新しく買収したスキー場にまで行き渡らせることはできなかったと述べている。

「法令遵守の落とし穴は、どこに落ちているのかわかりません」

自戒を込めつつ、梅津弁護士は警告を発する。

●オーナー逮捕で一変してピンチに

田嶋さんが逮捕される前、A氏は任意で長く事情聴取を受けていた。タジマモーターはこれを把握していたが、田嶋さんまで飛び火し、親会社の代表者がいきなり逮捕となるのは予想外だった。

タジマモーターは昨年末時点で、従業員270人超を数えるまで成長している。しかし、田嶋さんが、各事業部門に重要な指示を出すことは創業以来続いていた。一例として、田嶋さんは、取締役や幹部社員全員とほぼ毎日メールやLINEで連絡を取り合っていた。

さらに会社の株式は、100%が田嶋さんの保有だ。経験、能力、権力がある田嶋さんが、モンスターらしい強いリーダーシップで率いていた。

しかし、田嶋さんの逮捕で状況が一変する。「経営の中心」がいきなり不在になり、下手をすれば、倒産するおそれもあった。

逮捕後の最初の面会で、梅津弁護士は田嶋さんから、次の2点を頼まれた。1つ目は、「第一に会社の存続を考えて動く」。2つ目は、「できるだけ早く留置場から出してほしい」。

意向を汲んだ梅津弁護士は所属する法律事務所で、会社存続チームと刑事弁護チームを組織し、刑事弁護チームには地元松本で刑事事件の経験が豊富な弁護士も加わった。

松本署に通いつめ、田嶋さんの指示を会社の取締役などに伝え続けた。プレスリリースを2度出すことや、取引先の一部には直接、事情説明やお詫びをすることを取締役に促した。

会社存続は果たしたが、2つ目の早期釈放はならなかった。刑事弁護チームには元検事3人もいて全力で弁護活動にあたったが、田嶋さんが保釈されたのは、逮捕から22日後だった。

●「弁護士として、会社にとってベストな選択をする」

一連の危機対応は、多忙を極めた。判断ミスを避けるため、梅津弁護士が心がけてきたことがある。

「何とかなるという楽観主義や、自分は悪くないという主観的主張は、より会社にダメージを与える」

代表例が、田嶋さんの代表者辞任についてだ。長年、会社のために尽くしてきた田嶋さんの気持ちを考えると、起訴されても代表取締役会長でいさせたくなる。そして地域振興の思いで出資したのに、はっきりしない嫌疑で長期間身柄拘束される不当性を訴えたい気持ちもよくわかる。

しかし、捜査当局をはじめとする国家権力の前で一経営者は無力であるうえ、子会社で法令違反があったことは事実だ。だから起訴された嫌疑が木くずの野焼きだけであっても、「私は重大犯罪を犯したわけではありません」とか「不当な身柄拘束を受けました」と自ら言うことは、一個人ならともかく、経営者としては許されない。

リアルな話としても、コンプラ重視の今、適切な説明を怠り対応を誤れば取引停止を告げてくる取引先が出てくるかもしれない。代表者が在任中起訴されるダメージはタジマモーターに限らず非常に大きい。

他の取締役も、長年連れ添った田嶋さんの妻も、田嶋さんに「代表者を辞めて」と口に出すのは難しい。だからこそ、梅津弁護士は自らその任に当たった。

「弁護士として、プロとして、会社にとってベストな選択をする。不利な現実の前には、時にドライに、冷徹になる必要もあるのです」

田嶋さんの初公判は3月中旬、長野地裁松本支部で予定されている。

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