この春、息子が小学校に入学したSさんは、PTAに対してちょっとした不信感を抱いた。入学式が終わった後、各クラスの教室で行なわれた保護者ミーティングで、PTA副会長が「PTAの役員はクジ引きで決定します」と宣言したからだ。
副会長の口ぶりや、クジ引きに至るまでの流れには、有無をいわさぬ強制力があった。Sさんは、その場では異議を申し立てず、黙ってクジを引いた。幸か不幸かクジは外れたが、複雑な感情を消せないまま帰路についたという。
そもそも、PTAは任意加入の団体のはずだ。その活動に参加するかどうかは、保護者の判断に委ねられているのではないか。はたして、この問題、どう考えたらいいのだろうか。小池拓也弁護士に聞いた。
●役員の決定には「民主的な手続き」が必要
「まず、PTA役員の就任を強制することについての法的問題を考えてみましょう。その学校のPTAの規約で、役員への就任義務が定められているなら、理屈の上では、会員が役員に選任された場合は役員になる必要がある、ともいえそうです」
もしそうだとしたら、病気で動けない保護者などはどうすればいいのか・・・。PTAの規定約に役員就任義務があった場合、必ず従わないといけないのだろうか。
「PTAは純然たる私的団体ではありません。広く保護者全体を加入対象とし、学校教育にも関与する公的性格をもっています。ですから、憲法の人権規定がおおむね適用されるでしょうし、民主的制度や適正な手続も要求されるでしょう。
したがって、PTAのルールとして、個別的な事情を一切無視した、相当に負担の大きい役員就任義務が定められていた場合、その規約が有効なのかというと疑問です」
つまり、PTAの規定で役員への就任義務があったとしても、それは無効になりうるということだろうか。
「はい。規約が公序良俗違反(民法90条)などとして、無効と判断される可能性はあるでしょう」
それでは、PTAの会合で「今年の役員はクジ引きで決める」と決議された場合はどうだろうか。
「PTAの決議は、規約同様に民主的制度や適正な手続が要求されるでしょうから、くじに当たった人は絶対に断れないというような決議であれば、これも有効とはいえないでしょう。ましてや、議長が一方的にくじ引きを宣言したのでは、決議すらないのですから、義務づけはできません」
そうなると、どうなるのか。
「規約や決議による義務づけができないとなると、役員の就任は、委任契約によるしかないということになります。したがって、ある人をクジで役員として選出したとしても、その人が承諾しない限り、役員にすることはできません。なり手がいないのであれば、誰かを説得して、承諾を得るしかありません」
つまり、クジで役員に当選した人も、就任を拒否することは可能のようだ。やりたい人が誰もいない場合は、クジの堂々巡りになりそうだが・・・。役員になる可能性があるなら、PTAには最初から加入しないという保護者もいるだろう。PTAに加入しないと、何か影響があるのか。
「もしかすると、PTA主催行事に、その親の子どもが参加することを拒絶するという団体もあるかもしれません。しかし、その行事が学校教育の一環として行われている場合、子どもの参加を拒絶することは、教育を受ける権利の侵害として許されないでしょう」
●PTAの「新しいあり方」の模索を
こうなると、PTAに加入しないで、子どもだけ行事に参加させる「フリーライダー」の保護者も出てきそうだ。PTAの存在意義が危ぶまれてしまう。
「PTA役員の選任が問題となるのは、負担の大きさとPTAの存在意義への疑問があるからでしょう。PTAの新しいあり方を模索する必要がありますね。子どものための活動は学校や地域ボランティアに委ねるなどして、恒例行事などを根本的に見直してはどうでしょうか。
主催行事を減らして役員の負担が減ったところで、『学級崩壊・いじめを防ぎたい』『スマホの利用を考えたい』『学校給食を実現したい』といった保護者の願いを話し合い、実行していくのがよいと思います」
そもそもPTAは、戦後に始まったもの。保護者と教員が手を取り合って、子どもたちが育つ環境を整えるために行ってきた活動だが、時代とともに変化するのは仕方のないことかもしれない。
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