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椎名林檎「ヘルプマーク」「赤十字マーク」類似グッズは法的にOK? 福井弁護士に聞く
「百薬の長」【UNIVERSAL MUSIC STORE限定盤】に付属する特典グッズ 右上が「諸々券ケース」で、左上が「夢語りマスク」のマスクケース(出典:UNIVERSAL MUSIC)

椎名林檎「ヘルプマーク」「赤十字マーク」類似グッズは法的にOK? 福井弁護士に聞く

シンガーソングライター・椎名林檎さんが11月末に発売するリミックスアルバム「百薬の長」の関連グッズが、「ヘルプマーク」や「赤十字マーク」に類似しているとして、ネット上で批判が集まっている。

グッズはアルバムの限定盤に計3種類が付属されることとなっているが、うち2種類のグッズ「諸々(もろもろ)券ケース」と「夢語りマスク」のパッケージデザインに、それぞれ赤字に白い十字、白地に赤い十字が描かれている。

ヘルプマークは東京都福祉局によると「義足や人工関節を使用している方、内部障害や難病の方、妊娠初期の方」など、外見からはわからなくても援助や配慮を必要としていることを、周囲に知らせるためのマークとして知られている。

これに類似した「諸々券ケース」が出回ることで、本当に支援を必要としている人との区別が付きづらくなり、混乱を招くことが懸念されている。

もう一方の赤十字マークは、「紛争地域などでマークを掲げている病院や救護員などには、絶対に攻撃を加えてはならない」ことを守るべく、国際法や国内法により、赤十字社やその許諾を得た者以外による使用は厳格に禁止されている。このため、「夢語りマスク」のデザインが、救護活動での混乱をおよぼすだけではなく、そもそも法的にも問題があると指摘されている。

赤十字マークとの類似問題について、日本赤十字社は弁護士ドットコムニュースの取材にたいし、「赤色系統の十字及び白色系統の背景はすべて『類似』としてみなされております」としたうえで、「日本赤十字社は法律で赤十字標章の使用許可を受けている一組織として、標章の本来の意味をお伝えし、ご理解いただく活動を行っております。皆様には、今後も赤十字標章について適切にご理解いただきますよう、お願い申し上げます」とコメントした。

エンタメ業界での著作権や知的財産、法務などに詳しい福井健策弁護士に、類似性の高いグッズが社会におよぼす影響について聞いた。(ライター・今川友美)

●「赤十字マーク」類似、法に抵触する可能性はあるが微妙

ーーそれぞれのグッズの影響について教えてください。

まず、赤十字マークについては、国際的な「ジュネーブ条約」により、戦争や紛争などで傷ついた人びとと、その人たちを救助する活動や施設を指し示すものとされています。また、赤十字マークの付された病院や救護員には、絶対攻撃を加えないというルールも厳格に定められています。

赤十字マークとまぎらわしいものをみんなが使ってしまうと、マークの理解があやふやになり、戦場などで救護員や病院を適切に守れなくなってしまいます。ということで、先ほどの条約に加えて「赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律」(赤十字法)という国内の特別法があり、赤十字マークや類似するマークは、赤十字社や法律などで認められている組織以外は、みだりにつかってはいけないことになっています。

「みだりに」という表現は、正当な理由なくいっさい使用してはいけませんという意味に解釈でき、通常の著作権や商標権と比べてもかなり強めの表現となっています。そうした法律の表現から考えると、「夢語りマスク」は、法律に抵触している可能性はたしかにあります。

一方で、「夢語りマスク」を国内のファンが持ち歩くことで、どこまで実害があるかというと、やや疑問も感じます。「夢語りマスク」は、「りんご」のようなイラストと「夢」という文字を組み合わせていて、単独の赤十字とはかなり印象が異なるものですね。

現実に、赤十字活動を保護するという趣旨からしてなにか不都合なことは起きるのでしょうか。赤十字マークだけをトレードマーク的に使っているようにはみえませんし、果たして「戦場・紛争地での救護活動を守る」という目的からして実害があるのかというと、疑問も感じます。とはいえ赤十字法はかなり強い表現を使っていますので、法的には抵触の可能性も否定はできないでしょう。

●「ヘルプマーク」類似も法的には微妙だが、実害がある

ーーヘルプマークとの関連についてはいかがですか?

ヘルプマークは東京都を権利者として登録商標されているものです。ただ、ネームプレートなどについてしか商標登録をおこなっていないため、今回のグッズだと商標権侵害はなさそうです。登録商標以外ですと不正競争防止法が関係してきますが、今回のようにグッズでの図柄的な使用の場合、この法律に違反するかも微妙です。

ただ、さきほどの赤十字マークのお話とは大きく違うのは、赤十字マークは、戦場などにおける救護活動を識別できるようにするという点が大きな目的だったのですが、ヘルプマークの目的は、つけている人が「サポートを必要としています」という意思表示ですよね。しかも、そうした場面は、日常生活のなかで、たくさん出てくるものです。

すると、それと似ているグッズをファンたちが身につけていると、実害があるだろうという気がするのですね。つまり、ヘルプマークのまさに趣旨である、サポートを必要としている人をしっかり示すという点からは、かなりまぎらわしいように思えます。

●ヘルプマークに類したグッズ、見直しの必要性が高い?

ーー「まぎらわしい」というのは、法律やルール上は微妙なところだけど、今回はモラルや倫理の問題として考えていく必要があるということでしょうか?

ルールとモラルの関係は、一概にはくくれない多面的な問題です。が、広い意味ではそうとも言えるでしょう。つまり、ヘルプマークについて、現在の法律で違法に該当するかは微妙であるとしても、現実に実害が生じるかもしれないとなると、それでもやるかというレコード会社の社会的姿勢が正面から問われやすいですね。

あるいは見方を変えれば、「まぎらわしい」ということは、やっぱりどこかしら、不正競争的な要素が働いている、つまり実質において違法に寄っているということなのかもしれません。

ですので、ヘルプマークに類したグッズについては、見直しは十分ありうる判断だと、わたしは感じます。赤十字マークにかんしては、実害は果たしてあるのかなという疑問も感じつつ、椎名林檎さんサイドがどのようなお考えでこうしたデザインを使い始めたのかも知りたいところですね。

●ファンの間では、長年親しまれてきたマークだった

ーーファンの間では、あの赤い十字マークは2000年の「下剋上エクスタシー」のライブのときから、シンボルとして親しまれてきたものでした。

そうだったのですか。ヘルプマークと類似しているグッズがなければ、赤い十字のほうは、これまで通りあまり違和感なく受け入れられていた可能性はあるのかもしれませんね。

【10月18日追記】ユニバーサルミュージックジャパンは10月18日、グッズのデザインを改訂するとともに、発売を延期すると発表した。

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