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ベガルタ仙台はチーム名を「カレーは飲み物」にする? 波紋を呼んだ「商標出願」の法的意味
「カレーは飲み物」の商標登録が出願された

ベガルタ仙台はチーム名を「カレーは飲み物」にする? 波紋を呼んだ「商標出願」の法的意味

サッカーJ2のベガルタ仙台が「カレーは飲み物」を商標出願したところ、インターネット上で"炎上"した。こうした状況を受けて、ベガルタ仙台側は「あくまでもトラブルの予防」と釈明する。一方で、知的財産権にくわしい弁護士は、今回の商標出願について、法的問題は少ないとしながらも、「現実的に使い道がないのでは」と首をかしげている。

●すでに「カレーは飲み物。」が商標登録されている

ベガルタ仙台が「カレーは飲み物」を商標出願したのは、7月4日のことだ。すぐさまSNS上で賛否さまざまな意見が書き込まれる事態となった。

というのも、都内中心にカレー専門チェーン店『カレーは飲み物。』(株式会社のみもの)が展開されて人気を博しており、すでに『カレーは飲み物。』という商標が関連企業に登録されているからだ。

また、「カレーは飲み物」の初出に関しても、ネット上にさまざまな情報があるが、一般的には、2008年に亡くなったタレントのウガンダ・トラさんの名言「カレーライスは飲み物」が知られている。

要するに、ベガルタ仙台に対する批判は「パクリだ」というものだ。こうしたカレーをめぐる"炎上"を受けて、ベガルタ仙台は同日中に釈明リリースを発表することになった。

同クラブによると、今年5月、マスコットキャラの「カレーは飲み物」発言をきっかけにカレー関連のイベントを実施したところ、大好評だったことから、今後もイベント開催を検討している。

今回、「カレーは飲み物」を商標出願したのは、イベントの際、第三者から権利侵害などの申し出がされることを防ぎ、イベントをスムーズに実施するためで、あくまでトラブルの予防が目的という。

同クラブは、すでに登録されている商標に対して「十二分に配慮をし、これらとは明らかに類似しないように配慮した」と説明している。

・「カレーは飲み物」の商標登録について
https://www.vegalta.co.jp/news-club/2022/07/post-457.html

●ウガンダ・トラさんの名言から命名されていた

この"炎上"は『カレーは飲み物。』を展開する株式会社のみものにも飛び火した。

同社は7月5日、ツイッター上で「ウガンダ・トラさんの名言をお借りして命名」したと説明したうえで、同社の商標登録について「類似した商品、サービスによる侵害を未然に防ぐ目的であり、『カレーは飲み物』という言葉を独占する目的ではない」とした。

はたして、ベガルタ仙台による商標出願は法的問題はないのだろうか。知的財産権にくわしい齋藤理央弁護士に聞いた。

●すでに登録された商標を侵害しない可能性が高い

「カレーは飲み物。」という商標は、ベガルタ仙台が出願する前に、「カレーを主とする飲食物の提供」(役務)と「カレー風味のパンなど」(商品)で出願登録されています。

しかし、今回のベガルタ仙台の出願は、それ自体について法的問題はないでしょう。

なぜかというと、商標権の客体となる文字やロゴなどが同じでも、これらと紐付けられた指定役務や指定商品が異なっていれば、互いに抵触せずに出願登録できるのが原則だからです。

今回、ベガルタ仙台は、カレーや飲食と関係のない「広告業、商業イベントの運営」「ウェブサイト経由による事業に関する情報の提供」「サッカーの興行の企画・運営又は開催」などを指定しています。

したがって、商標出願自体は、先に登録された商標の商標権を侵害しない可能性が高いでしょう。

●チーム名を「カレーは飲み物」にするならわかるが・・・

ただ、そのような商標をとって意味があるのか、という疑問は残ります。

つまり、ベガルタ仙台の出願した商標を前提にした場合、たとえば、チーム情報などカレーとまったく関係のない情報を提供しているウェブサイトのタイトルを「カレーは飲み物」とするとか、もっと言えばチーム名を「カレーは飲み物」に変更するような、およそ現実には考えられない使い方が想定されていることになります。

反対に、たとえばスタジアムなどで「カレーは飲み物」という文字列を使ってカレーやカレー風味のパンなどを提供するという本来やりたいことをする場合は、今回の指定役務で商標が登録されていてもされていなくても、先に登録されている商標との関係で慎重な検討が必要になります。

ただ、これも使い方の問題で、もともと話題になったようなマスコットキャラクターが「カレーは飲み物」とツイッター上で呟いて、カレーを半額で提供するようなキャンペーンであれば、「カレーは飲み物」という文字列を商標的に使用しているとはおよそ言えないので、そもそも問題がなかったことになります。

ですので、気を付けるべきところは、結局、今回の商標を登録していても、していなくてもあまり変わりません。そうすると、現実には使うのが難しい商標が手元に残るだけ、ということになり兼ねません。

プロフィール

齋藤 理央
齋藤 理央(さいとう りお)弁護士 今井関口法律事務所
今井関口法律事務所。著作権などコンテンツiP(知的財産)やITトラブルなど情報法分野に重点をおいている。重点分野で最高裁判決、知財高裁判決などの担当案件の他、講演、書籍や論文執筆監修など多数。自身のウェブサイトでも活発に情報発信をしている。東京弁護士会所属。著作権法学会、日本知財学会会員、弁護士知財ネット、東弁IT法研究部等に所属。

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