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スルガ銀行の不正融資問題、懲戒解雇された元執行役員が勝訴 「絶大な権力の具体的内容が明らかでない」銀行側の主張認めず
スルガ銀行元執行役員の麻生治雄氏(2022年6月23日、弁護士ドットコムニュース撮影)

スルガ銀行の不正融資問題、懲戒解雇された元執行役員が勝訴 「絶大な権力の具体的内容が明らかでない」銀行側の主張認めず

スルガ銀行不正融資問題で非違行為があったとして懲戒解雇を受けた同行の元従業員が、雇用契約上の地位確認および給与などを求める訴えに対し、東京地裁判決は、懲戒解雇は無効だとして、懲戒解雇後の給与について計約1600万円の支払いを同行に命じた。

判決は、懲戒解雇の理由として銀行側が主張した3つの非違行為について、すべて認められないと判断。懲戒解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当ではあるとは認められず、権利濫用に当たるとして、無効と結論づけた。

原告として訴えていたのは、当時執行役員で営業部門の責任者だった麻生治雄氏。麻生氏は、この問題を調査した第三者委員会の報告書で、不正融資の関係者と名指しされ、営業本部の執行役員としての注意義務に違反していたなどと指摘されていた。

麻生氏は、判決後に開かれた会見で、「裁判で(自分が知る限りの)事実を述べることによって、正しい結果が出せるということがわかった。(支えてくれた)すべての方々に感謝したい」と述べる一方、解雇前におこなわれた調査委員会などでも「同じことを述べてきた」とし、「委員会という名ですべて(の筋書き)が作られて、事実が曲げられているということが往々にしてあるのではないか」とその対応を批判した。

●銀行側主張の非違行為、判決はいずれも認めず

裁判では、麻生氏を懲戒解雇とした根拠となる非違行為が存在するのかどうかが主な争点となった。

銀行側は、麻生氏が副社長に次ぐ地位を与えられ、創業家の意向を背景に社内において絶大な権力を有していたことを前提に、主として以下の(1)〜(3)の非違行為をおこなったと主張していた。

(1)審査部内の人事に介入し、営業部門からの融資案件が通りやすくする体制を作出するなど、審査部門に強い圧力を加えて、融資審査を形骸化させた。

(2)2015年2月に「かぼちゃの馬車」名で女性専用シェアハウスを展開していた不動産会社の不芳情報が寄せられたことを契機に、副社長(当時)が出した「同社が関与する融資案件の取り扱いを禁止する」という指示に反して、不適切融資を自ら積極的に推進・継続させた。

(3)目標達成できない支店の所属長らにパワハラをおこなう、融資関係書類などの改ざんが蔓延していたのに対策しなかった、2016年5月時点でシェアハウスローン特有のリスクを認識していながら部下への指導・監督体制の整備をおこなわなかったなど、部下・営業店社員に対する管理監督義務を怠った。

判決はまず、麻生氏について、営業手腕を高く評価された幹部社員ではあったものの、取締役に就任したことはなく、あくまで従業員だったとして、副社長に次ぐ地位にあったとはいえず、「絶大な権力」の具体的内容も明らかではないとして、銀行側主張の前提を否定した。

そのうえで、以下のように、(1)〜(3)の非違行為のいずれも認められないと判断した。

(1)麻生氏が融資案件を無理に押し通していたとは評価できず、審査部内の人事に介入していたとも認められない。審査によるチェック機能を弱めたともいえず、融資案件が審査を通りやすい体制となっていたとも認定できない。

(2)副社長の指示があったことは認められるものの、社内で必ずしも周知が図られていなかった。指示は不動産会社の経営者の反社会的経歴を重視するものだったこと等から、同社の経営陣に関する状況の変化いかんにかかわらず、2015年2月以後の取り扱いまで一切禁止する趣旨だったとはいえない。麻生氏が副社長の指示に反することを知りながら、不適切融資を自ら積極的に推進・継続させたとも認められない。

(3)営業部門の執行役員だった麻生氏が、営業店に対して営業目標の達成を厳しく求めたり、所属長を厳しく叱責したりすることがあったことは推認されるものの、違法なパワハラがあったとまでは認められない。また、融資関係書類の原本確認を徹底していなかった社員が相当多数存在したことは推認されるが、麻生氏がこれを認識または認識し得たにもかかわらず、放置していたとは認められない。
シェアハウスローンについても、麻生氏は特有のリスクを会議で説明し、取り扱いを絞るべきと意見を述べていたが、銀行側は積極的に取り扱うべき商品であるとの経営判断をしていたなどとして、結論として部下・営業店社員に対する管理監督義務を怠ったとは認められない。

銀行側主張の非違行為がすべて認められなかったことから、麻生氏の懲戒解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当ではあるとは認められず、権利濫用に当たるとして、無効と判断。労働契約は継続していたことになるとした。

麻生氏が2021年7月に定年を迎えていることから、地位確認請求は理由がないとして認めなかったが、懲戒解雇後の給与分相当額として計約1600万円の支払いをスルガ銀行に命じた。

●「本来責任を追及されるべき人が追及されていないのではないか」

不正融資問題は、シェアハウスなどの投資用不動産のオーナーへの融資について、スルガ銀行の融資基準を満たさないような場合でも、書類の改ざんや偽装によって融資を承認させるなどの不正をおこなっていたもので、女性専用シェアハウスを展開していた不動産会社がオーナーへの賃料を払えなくなった「かぼちゃの馬車事件」を通じて発覚した。

麻生氏は、不正融資の責任を追及するにあたり、「公正な場で当事者が議論をするという仕組みがきちんとなされていなかったのではないか」と今回の経緯を振り返る。

「私自身、スルガ銀行に30数年いたわけですから、(銀行を)信じてはいたんですけれども、やはり『公正な場』がなかったのではないかと今でも思います。自分の主張すべきことはヒアリングで数時間話しただけで、それに対するリアクションはまったくわからず、結果が天から降ってくるという感じです」(麻生氏)

危機管理委員会、第三者委員会、取締役等責任調査委員会で調査され、その過程を経て、麻生氏は結果として懲戒解雇された。今回の判決が認定した内容は、麻生氏が審査部の人事に介入し、構造的な問題やリスクが非常に大きいことが議論されていたシェアハウスローンを推進したなどとする調査結果と異なる内容となった。

麻生氏は、自身の主張が司法の場で事実として認められて「ありがたい」と話した。

「当然だったのかなとも思っています。私としては4年間、いろんな方に色々説明しました。今回、その事実をきちんと伝えられたことが嬉しいです」(麻生氏)

麻生氏の代理人を務める倉持麟太郎弁護士は、今回の判決で「名誉を最低限回復できた」とする。解雇無効が認められたことを受けて、「もらえなかった退職金の支払いも求めたい」として、請求を拡張して控訴する方針だという。

同代理人の水上貴央弁護士は、スルガ銀行が麻生氏を含む旧執行部に対する損害賠償請求訴訟を静岡地裁に提訴していることに触れ、非違行為がすべて否定されたことから、「他の事件にも影響のある判決」とみる。

「(銀行が)麻生さんなど営業担当者に責任を負わせる結果、審査部門には適切に責任を取らせておらず、今のスルガ銀行がまったく膿が出せていない状況にあることが明らかになったといえます。

今起こされている裁判だけでなく、現状の経営者(の責任)は大丈夫なのか、今のスルガ銀行は大丈夫なのか、本来責任を追及されるべき人が追及されていないのではないか、という論点にも波及してくるのではないでしょうか」(水上弁護士)

●スルガ銀行のコメント

スルガ銀行の担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「判決の内容を精査し、今後の対応を検討してまいりたいと考えております」と回答した。

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