新型コロナの感染拡大を受け、保育園や小学校などが休園・休校となっている。スーパーで買い物している親子を見かけることも少なくない。
子どもが1人で留守番できる年齢ではなかったり、ほかに子どもを見てくれる大人がいなかったりすれば、子連れでの買い物もやむを得なくなる。
「あちこち触るかもしれないから、子どもを連れて行きたくない」「食料品売り場でベタベタ触らないか気が気じゃない」など、子連れでの買い物に抵抗を示す親たちもいる。
実際に、食料品をベタベタ触る子どもを見たという人もいる。ネット上には「お菓子売り場でベタベタ商品を触っている子どもがいたが、親は近くにいない」「子どもが商品ベタベタ触っているのに、注意もしない親はなんなの」など親に対する怒りの声も上がっている。
子どもが店の商品を触ってしまった場合、親に商品の買取義務はあるのだろうか。髙橋裕樹弁護士に聞いた。
●親には「損害賠償義務」がある
ーー親は、子どもが触ってしまった商品を買い取る義務があるのだろうか。
「結論としては、親に買取義務はありません。なぜなら、お子さんが食料品を触ったことにより、親と店の間に売買契約が成立するわけではありませんし、何の契約関係もない親に商品を買い取らせる義務を負わせる法律もないからです。
売買契約が成立していないのに買取が義務となるのは、土地の賃貸借契約終了時の建物買取請求のような例外的な場合に限られます。
とはいえ、親に全く何の責任(義務)も生じ得ないわけではありません。親には、商品を買い取る義務はありませんが、商品を毀損させたことに基づく損害賠償義務が生じ得ます。(不法行為に基づく損害賠償責任:民法709条、小さい子どもなど責任無能力者の監督義務者の責任:民法714条)」
ーー損害賠償となると、いくら支払わなければならないのだろうか。
「基本的には、100円の食料品をベタベタ触ったことで売り物にならなくなってしまったのであれば、100円分の損害が生じていることになりますので、100円を賠償しなければなりません」
●何をもって「商品を毀損した」と評価されるのか?
ーー「商品を毀損した」といえるのは、どのような場合だろうか。
「たとえば、『売り物のお団子を直接手で触った』場合のように食品を不衛生な状態にしたことが明らかなような場合は商品を毀損したといえるでしょう。
しかしながら、新型コロナウィルスの感染拡大下で何をもって『商品を毀損した』と評価するかは非常に判断が難しいと思います。
以前であれば、包装された状態で売り場に並べられている商品を複数回触ったり、陳列棚の近くで談笑をしてつばを飛ばしたりしたことをもって、商品を毀損したとはなかなか評価されなかっただろうと思います。
現在は感染防止のためのうがい手洗いやマスク着用を全世界的に推奨している状況です。街にはゴーグルや手袋を着用している方も多くおられます。このような状況に鑑みれば、感染防止に向けたより慎重な食料品の取り扱いや売り場の振る舞い等が求められていることは明らかでしょう。
そのような中、マスクもせずに陳列棚近くで談笑をしたり、くしゃみや咳をすることで飛沫を商品にかけてしまったり、咳を押さえた手で商品をベタベタ触ったりしたような場合に、商品を毀損したと判断され賠償請求を受けるリスクが以前より高まっていると思われます」
●食品衛生法上の問題や犯罪成立の可能性も
ーー食品の販売店において、ほかに法的な問題となりうるのはどのようなことか。
「食品の販売店には、食品を清潔で衛生的に陳列する義務、不潔、異物混入等の等の理由で人の健康を損なうおそれがある食品を陳列してはならない義務があります(食品衛生法5条、6条4号)。
そのため、販売店としても、お子さんがベタベタ触るなどした食料品や、咳やくしゃみの飛沫がかかった食料品をそのまま陳列させ続けることには食品衛生法上の問題が生じます。
一方、食品販売店に咳などの症状がある状態でマスクをつけずに入店し、他の客が見ているところでわざと商品に咳の飛沫をかけるような行為をした場合は、器物損壊罪や威力業務妨害罪などが成立する可能性があります」