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「無印」商標めぐる中国企業との20年戦争、そっくり店舗も登場 良品計画の勝算は?
良品計画の店舗看板(左)と、北京無印の店舗看板

「無印」商標めぐる中国企業との20年戦争、そっくり店舗も登場 良品計画の勝算は?

中国企業が海外の人気ブランドを模倣したり、中国で商標を“横取り”申請するケースが後を絶たない。一昔前は一目でパクリ、偽物と分かったが、最近の技術力や模倣力の向上は目覚ましく、消費者にとっても区別がつきにくくなっている。中国人消費者に人気が高く、あまたの現地企業に公然と模倣されてきた代表の一つが、良品計画が展開する「無印良品」だ。

無印良品のパクリ店舗は2010年代以降、中国各地で見られるようになった。そして2019年11月、中国における『無印良品』の商標権を巡る訴訟で、良品計画が現地企業に敗訴し、賠償金の支払いを命じられるという衝撃的な判決が下された。良品計画は2017年12月の一審でも敗訴しており、二審判決をもって訴訟は終結し、良品計画は取材に対し敗訴と賠償金の支払いを認めた。このニュースは日中多くのメディアで報じられ、波紋を呼んだ。

ただ、同社によると、中国では無印良品の商標を巡って、20年に及ぶ係争が繰り広げられており、2019年11月の判決は多数ある係争の一つだという。同社の法務・知財部長で弁護士の一色由香氏らに、係争の原因や経緯を聞いた。(ライター・浦上早苗)

画像タイトル 良品計画の法務・知財部長の一色由香氏

●ブランド化への抵抗感で知財対応が遅れた可能性

一色氏によるとそもそもの発端は2000年4月、中国・海南省にある「海南南華実業貿易公司」(以下、海南)が枕カバーなどファブリック類に該当する24類で「無印良品」の商標を出願したことだという。

良品計画も1999年、中国進出を視野に同国で「MUJI」「無印良品MUJI」の商標をいくつかの区分で出願していたが、なぜか「24類」は漏れていた。海南はそこを突いてきたのだ。

良品計画の大栗麻里子広報・サステナビリティ部長は「20年以上前の話なので、正確な経緯は把握できていない」と前置きした上で、「無印はブランドではないという思いが強かったことも関わっていると推察されます」と話した。

無印良品は1980年、スーパー西友のプライベートブランドとして生まれた。当時は商品が「品質がよくて高い」か「品質が悪くて安い」に二分されており、空白だった「品質がそれなりによくて、価格も手ごろ」というゾーンを狙ったという。

商標登録を始めたのは1982年ごろだ。大栗氏は「無印良品は消費主義へのアンチテーゼな考え方から生まれたため、商標登録をすることで無印良品という名称のブランド化につながることへの抵抗感があり、当初は消極的だったようです」と語った。だが、社内でも徐々に知財対応はきちんとすべきだとの声があがり、商標登録を進めることになった。

無印良品の人気が高まるにつれ、1989年には無印良品を運営する「良品計画」が設立された。1991年のイギリスを皮切りに、海外出店も加速していった。中国市場にも目を向け、商標申請を進めたが、前述したように24類の商標申請は現地企業に先を越された。

●中国企業の登録に異議申立ても認められず

海南の申請を知った良品計画は2001年4月に中国の商標局に異議を申し立て、2002年4月には24類「無印良品MUJI」を出願した。

だが、商標局は海南による出願を引用し、良品計画の出願を拒絶した。この件については現在も異議覆審手続きが係属中だという。

良品計画は2003年4月、海南が出願していなかった「MUJI」で24類の商標を出願、こちらは2005年5月に登録された。

中国の商標局は2004年1月、海南の商標登録を許可したため、良品計画は即座に異議覆審を申立てた。また、海南は2004年に商標を北京棉田紡績品有限公司(以下、棉田)に譲渡したため、以降、係争の相手も棉田に移った。

良品計画は「海南が商標を出願する2000年以前から、良品計画は日本で『無印良品』事業を展開し、高い知名度を有していた。さらに中国では1990年代に生産ラインや物流体制を築いており、一定の影響力を持っていた。海南の商標出願は拒絶されるべき」と主張した。

だが、北京市第一中級人民法院、北京市高級人民法院、最高人民法院まで争った結果、無印良品の店が2000年当時は中国になかったことや、中国国内で生産・輸出していたというだけでは一定の影響力があったとは認められないことを理由に、中国企業が先に出願していたことが重視され、2012年、良品計画の敗訴が確定した。

良品計画は2007年11月、24類で「無印良品」を出願したが、商標局はこれについても、海南公司が先に商標を登録しているとして、カーテンなどごく一部の商品 を除いて良品計画の出願を拒絶した。

●中国企業の商標不使用確認し、取消請求

「海南(棉田)の商標登録への異議申立て」で敗れた良品計画は2014年2月、商標局に対し、棉田の商標について「3年不使用取消請求」を申し立てた。

3年間使用されない商標については取り消しを求めることができるため、良品計画は2011年2月から2014年2月にかけて棉田が商標を使用していなことを確認して、取り消しを求めたのだ。

商標局が良品計画の請求を退けたため、同社は商標評審委員会に再審査を請求。良品計画、棉田の双方が証拠を提出し争った結果、良品計画の訴えが一部認められた。だが、良品計画、綿田ともに、商標評審委員会の判断を不服とし行政訴訟を提起した。

一審判決は、棉田が商標を使用していたかどうかについては判断せず、3年不使用取消請求提起の時期などを理由に、商標評審委員会の判断を覆し、全体について取り消しを認めない判断を下した。良品計画は一審判決を不服とし、現在控訴審で係争中だ。

画像タイトル

●ついにそっくり店舗展開を始めた中国企業

良品計画は2014年6月ごろ、棉田が設立した子会社「北京無印良品」がアリババのECサイト「Tmall」(天猫)に旗艦店を開設しているのを確認。同年10月には、北京郊外で店舗を開設したことも把握した。棉田は言明していないものの、商標取消請求に対抗する措置と推定される。

画像タイトル 良品計画の店舗(左)と棉田の子会社の「北京無印」の店舗

この行為に対して良品計画は同年11月、商標権侵害と不正競争行為を理由に北京無印を提訴した。

「北京無印は24類しか権利を保有していないにもかかわらず、枕や衣類など他の商品でもロゴを使用している点が商標権侵害に当たり、無印良品を含む社名を用いていることが不正競争行為に当たると主張しました」(一色氏)

画像タイトル 良品計画の商品タグ(左)と棉田の子会社の「北京無印」の商品タグ

この訴えについては2017年12月、二審で良品計画の勝訴が確定し、棉田が良品計画に約200万元を支払った。

訴訟の間にも、北京無印良品は出店を進めていった。良品計画は2017年、棉田がフランチャイズを募集しているのを発見したのに続き、約30軒の店舗展開を確認した。

一色氏は「進出してないはずの地域で、顧客から問い合わせや、返品・交換の依頼があり、調べた結果、北京無印の店舗だったケースなどがあります。私も中国に視察に行きましたが、店舗のしつらえや商品のクオリティーが向上しているのを感じました」と語った。

ロゴ、商品、内装、さらには店内のポスターに至るまで、無印良品のテイストが模倣され、中には無印良品の商品が売られていたケースもあったという。

画像タイトル 良品計画の紙袋(左)と棉田の子会社の「北京無印」の紙袋

画像タイトル 良品計画の店舗(左)と棉田の子会社の「北京無印」の店舗

「棉田の店舗が消費者の誤認を引き起こす」と危ぐした良品計画は2017年、商標評審委員会に対し、棉田の24類商標「無印良品」の無効宣告を申請した。

一色氏は、「繰り返しになりますが、主張の中心は棉田(海南)の商標出願時、すでに弊社の『無印良品』が中国大陸内でも高い知名度を有しており、棉田(海南)は、弊社の『無印良品』を知ったうえで、不正に冒認出願(出願する権利のない者が出願し、権利を取得してしまうこと)を行ったという点です」と強調した。

●中国企業も反撃、良品計画を提訴

ここまでは良品計画が中国企業を相手取り異議申し立てや訴訟を起こしてきたわけだが、棉田と北京無印も2015年4月、「24類で商標権を侵害された」として良品計画・MUJI上海を提訴した。これが良品計画が敗訴し、日本で2019年末に大きく報道された訴訟だ。

良品計画は現状、24類の商標に関して中国で「MUJI」のみ使用できる。当時、商品タグには「無印良品」と記載されていたため、良品計画は中国流通分の商品だけ「MUJI」のシールを上から貼って販売していた(2015年以降、中国向けタグが完成し、中国に出荷する商品は中国専用タグを使用するようになった)。

だが、何らかの理由で、元のタグがシールで隠されていない商品が中国の店舗で流通し、それを見つけた棉田が訴えを起こしたという。

この訴訟は良品計画が2017年12月に一審で、2019年11月に二審で敗訴。良品計画が約100万元の賠償金を支払った。

中国での「24類」の商標出願漏れに端を発した係争から20年。一色氏は「この問題には時間、費用ともにかなりの労力がかかっている」と認める。相手企業に金銭を支払い、商標権の譲渡を受ける解決方法もあるが、良品計画はあくまで法的手段での解決を目指していくという。

良品計画はかつて、香港企業に現地で25類(アパレル)で「MUJI」「無印良品」の商標を登録されたが、訴訟を起こして2007年に香港企業の登録商標取り消しにこぎつけた実績がある。

香港企業は「無印良品という言葉は当社の代表者が独自に考えて生み出した」と主張したが、裁判所は「香港と日本という異なる文化と言語の環境のもとで、全く同じデザインが生じる可能性は極めて低い」として、香港企業の主張を認めなかった。

一色氏によると、中国も最近は冒認出願に関し真の発明者を救済する流れになっているといい、「中国の司法の変化に期待し、法的手段での解決を図りたい」と話した。

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