2023年10月からはじまる「インボイス制度」。現行の区分記載請求書に登録番号や税率・税額を追加した「適格請求書(インボイス)」を導入するものだが、中止を求める声が後を絶たない。
声優の岡本麻弥さんらが6月22日、記者会見を開き、「(日本の漫画やアニメが)インボイス制度によって破壊されようとしている」などとして、インボイス制度の廃止を涙ながらに訴えたのは大きな話題となった。
5月に公表された民間の意識調査によると、制度について「内容を知っている」と回答した人は約半分程度(49.7%)。6月下旬には、インボイス登録している免税事業者は1割ほどにとどまっているとも報じられた。
京都大学大学院の藤井聡教授は、「私達の生活が苦しくなることは避けられない」と説明。れいわ新選組のたがや亮衆議院議員も「制度は機能不全になる可能性が高い」と指摘し、導入反対を訴える。
このまま導入していいのか。反対の声を上げ続けている2名に話を聞いた。(ライター・望月悠木)
●「生活が苦しくなることは避けられない」
藤井聡教授(本人提供)
藤井教授は、インボイス制度について、「今まで消費税を納税していなかった売上げ1000万円以下のすべての零細業者、いわゆる免税事業者の粗利の9.1%に相当する金額を、『誰か』が負担しなければならなくなるというものです」と解説する。
「その『誰か』は、免税事業者、免税事業者を下請け業者として取引している業者、消費者の三者です。この三者の負担割合は状況によって変化しますが、最も大きな負担を強いられる可能性が高いのは『免税事業者』です。
たとえば、500万円の粗利を上げていた免税事業者がインボイス登録した場合、500万円の9.1%にあたる約45万円を納税しなくてはいけません。この45万円は純然たる増税になるため、負担となって廃業する免税事業者が増えることは確実です」
消費者への影響についても「負担増」の可能性を指摘する。
「免税事業者を下請け業者として取引している業者が、『インボイスは登録しないでも大丈夫』と言った場合、今度は45万円をその業者が負担することになります。
いずれにせよ45万円分の増税になり、『価格転嫁』の形で消費者の生活にも影響するでしょう。三者のうち特定の誰かがまるまる負担することはないと思いますが、私たちの生活が苦しくなることは避けられません」
インボイス制度を耳にしても「源泉徴収されている自分とは無関係」と感じる会社勤めの人もいるかもしれない。しかし、導入によって仮に物価が上昇すれば、“無関係”ではいられない。
“免税事業者=優遇されている人”と捉え、「免税事業者は、消費税をピンハネして不当な利益を得ている」「インボイス制度を契機に課税事業者になって消費税を払うべき」という意見がある。
「免税事業者というだけで優遇されている」との意見に対して、藤井教授は「所得税は累進性があり、所得が高い人ほど税金も高くなります。同様に売上が低い事業者であれば、納める税金が少なくなることは至極当然です」と反論する。
●「財務省は増税が仕事」
たがや亮衆議院議員(2023年6月27日、筆者撮影)
れいわ新選組のたがや議員もインボイス制度導入に反対している。
「国会でもインボイス制度導入の妥当性について質問していますが、岸田総理大臣をはじめ金子俊平財務大臣政務官は『もうすでに決まったこと』『国民に理解してもらえるように周知活動を徹底する』とはぐらかす返答ばかりです」
報道のとおり、免税事業者のインボイス登録が1割ほどだとすれば、このままの制度導入は難しいのではないか。
たがや議員は「マイナンバーカードに関するトラブルが後を絶たないように、インボイス制度も機能しなくなる可能性が高い。しかし制度を主導している財務省はやる気満々」と話し、「仮に登録が増えなかったとしても強引に、なし崩し的に導入するでしょう」と厳しい表情を見せる。
「財政法4条には『国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない』と記されています。財務省はこの法律を遵守するため、インボイス制度導入をはじめ、税収を増やすために働いています。裏を返せば、財務省の人達にとって増税成功は出世の近道ですので、国民の生活がどれだけ困窮しようが関係ありません」
国会議員が一省庁である財務省の思惑に反発できないのか。
「財務省は予算編成権を持っています。議員としては推進したい政策があっても、財務省ににらまれると予算を確保できません。同時に予算を減らされる可能性もあります」
国民はインボイス制度とどう向き合えばいいのか。たがや議員は「インボイス制度によって免税事業者以外にも経済的な影響を及ぼすことを知ってほしい」と訴える。
「国民のインボイス制度反対の機運が高まれば、与党としてもさすがに無視できません。具体的なアクションとして、たとえば地方議員にインボイス制度の延長・中止を訴える要望書、陳情書を出してプレッシャーをかけることができれば、導入延期の可能性が高まります」
【筆者プロフィール】 望月悠木:主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki