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検察事務官が殺人事件の証拠を「放置」 ずさんな管理の背景にあるもの
刑事裁判の証拠の取扱い問題の背景とは?

検察事務官が殺人事件の証拠を「放置」 ずさんな管理の背景にあるもの

裁判に使う捜査関係書類などの証拠222点が、1年以上にわたって「放置」されていたことが明らかになった。東京地検の事務官の引き継ぎミスが原因だと報道されている。

ミスがあったのは、指定暴力団幹部が殺人罪に問われた事件(1審で無期懲役判決→控訴)に関する証拠で、なかには1審で弁護側が開示請求をしたにも関わらず、検察側が「存在しない」と回答していたものもあったという。

一時的に「証拠がどこかにいった」だけでも大問題のはずなのに、存在する証拠を「ない」と言いきっていたのも驚きだ。ここまで来ると、単なる人為的ミスとも言い切れない気がする。刑事裁判の証拠の取扱いには、何か根本的な問題があるのではないだろうか。滋賀弁護士会・刑事弁護委員会の委員長をつとめる永芳明弁護士に聞いた。

●人的ミスだけが原因ではない

――今回のような事件が起きるのはなぜ?

「まず、考えられるのが、検察庁の人的な体制です。おそらく、この検察事務官とペアで仕事をする検事がおり、その検事の手持ち事件が多すぎたのではないかと思われます。それゆえ、証拠の管理が行き届かなかったことが原因の一つだと思います」

――つまり、人手不足が原因?

「それだけではないでしょう。証拠の管理についてのチェック体制が、そもそも不十分なのだと思われます」

――チェック体制が不十分とは、どういう意味?

「基本的な話になりますが、そもそも刑事事件の証拠の大半は警察が集めたものです。それらの証拠は、被告人を起訴するかどうかを判断するため、検察庁に送られます」

――ニュースでも「書類送検」とか「身柄を検察に送った」という言葉はよく出てくる。

「そうですね。そのほかに、検察庁が新たに収集したり、作成する証拠もあります」

●検察官が持っている「証拠リストの開示」が必要

――それのどこが問題?

「問題なのは、そもそもどんな証拠があるのか、どこにあるのか、どのように管理をしているのかといった情報を知っているのが、『検察庁関係者だけに限られてしまう』という点です。これは今の制度では、弁護人にも裁判官にもわからないブラックボックスなのです」

――証拠は裁判に提出されるのでは?

「検察官は、すべての証拠を裁判に出すわけではありません。膨大な証拠の中から、どんな証拠を使うかは、検察官の判断です」

――弁護側も「証拠を出せ」と要求できるのでは?

「確かに開示請求という仕組みはありますが、弁護人の立場では、検察庁がどんな証拠を持っているかのリストを知る手立てはありません。

つまり、開示請求に対して、検察庁が『ない』と言えば、弁護人はそれを信頼するしかないのです」

――それで公正な裁判になる?

「もし、証拠開示が十分に行われなければ、その結果、冤罪が生ずるかもしれません。今回のような事故を防ぐためには、検察官の手持ち証拠の標目(リスト)が開示されるような法制度を導入する必要があるのではないでしょうか」

東電OL事件などのように、再審請求審で初めて開示された証拠が、「再審無罪」の決め手になったとされているケースもある。取り調べの可視化など、刑事訴訟手続には今なお、様々な論点が残っているようだ。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

永芳 明
永芳 明(ながよし あきら)弁護士 滋賀第一法律事務所
弁護士滋賀弁護士会・刑事弁護委員会委員長、日本弁護士連合会・刑事弁護センター委員

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