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「拘置施設での撮影禁止は違法」 なぜ弁護士は国賠訴訟を起こしたのか?
拘置施設内での写真撮影をめぐって、トラブルが発生している

「拘置施設での撮影禁止は違法」 なぜ弁護士は国賠訴訟を起こしたのか?

刑事事件の被疑者や被告人が、その弁護人と拘置所などで立会人なく面会することができる接見交通権。その権利は、刑事訴訟法で定められているが、近年、接見の際のカメラ持ち込みをめぐって、施設側と弁護人の間でトラブルが起きている。

佐賀少年刑務所内の拘置施設では昨年3月、接見した稲村蓉子弁護士が被疑者の傷を写真撮影しようとしたところ、職員から撮影をやめるように指示された。2日後、同じ佐賀県弁護士会に所属する半田望弁護士と一緒に、カメラを持って刑務所を訪れたが、「被疑者の写真を撮影するならば敷地に入ることはできない」と施設側に拒絶されたという。

そこで、稲村弁護士や半田弁護士は半年後の9月、「職員が写真撮影を禁止したのは接見交通権の侵害にあたる」として、国家賠償を求める訴訟を佐賀地裁に起こした。接見中の撮影禁止をめぐる提訴は、2012年6月の福岡拘置所小倉拘置支所のケースと、同年10月の東京拘置所のケースに続いて、全国3例目ということだ。

佐賀の裁判は昨年11月下旬の第1回口頭弁論に続き、今年2月13日に2回目の口頭弁論が開かれた。国側は「写真撮影は刑事訴訟法上の接見には該当しない」として、全面的に争う姿勢をみせている。それに対して、国を訴えた弁護士たちはどのような主張をしているのか。提訴した原告の一人である半田弁護士に話を聞いた。

●「革手錠とロープで拘束された」と被疑者が訴えた

――今回の写真撮影をめぐって、どのようなことが起きたのでしょうか。

「稲村弁護士が、佐賀少年刑務所に勾留されていた被疑者に対して、初回の接見に赴いた際、被疑者から『逮捕後の手続において革手錠で拘束され、さらにロープ(捕縄)で身体を拘束された』という申告がなされました。

そのとき、稲村弁護士は、被疑者が負傷している箇所を自分の目で確認しました。そこで、被疑者の了解を得て、持参していた携帯電話のカメラ機能を使って写真を撮影しようとしたところ、佐賀少年刑務所の職員が突然、被疑者側の出入り口を開けて接見室に入ってきて、稲村弁護士に写真撮影をやめるよう指示し、押し問答となりました。

さらにその後、稲村弁護士が被疑者を説得して、写真撮影を再開したところ、今度は刑務所職員が弁護士側の出入り口をいきなり開けて、写真撮影をやめるよう指示したのです」

――半田弁護士は、今回のケースにどのようにかかわっているのでしょうか。 

「私は、稲村弁護士から相談を受け、『弁護人となろうとするもの』として、稲村弁護士とともに被疑者との接見にのぞむことになりました。初回接見の2日後のことです。

稲村弁護士が撮影した写真は携帯電話のカメラ機能での撮影だったため、より鮮明な写真で記録するべく、事前に申入れを行ったうえで、通信機能のついていないデジタルカメラを持参して接見に赴きました。

ところが佐賀少年刑務所は、私たち弁護士に対し、『カメラを持っているなら敷地内に入れない』などと述べて、接見を拒否しました。これについて国側は、訴訟で、『カメラを持っていることが理由ではなく、写真を撮影しようとしたから敷地内への立ち入りを拒否した』と説明していますが、実質は同じことだと思います」

――被疑者は「革手錠とロープで体を拘束された」と申告したということですが、稲村弁護士の接見時にも、それをうかがわせる傷などがあり、それを撮影しようとしたところを職員に止められたのでしょうか。

「そのとおりです」

●「メモはいいが写真はいけない」というのは非合理的

――今回、撮影が禁止されたことについて、なぜ、問題だと考えたのでしょうか。

「弁護人には、接見交通権(刑事訴訟法39条1項)が保障されています。

それは単に『被疑者・被告人と面会することができる』というものではなく、被疑者・被告人の防御権を十分にするための実質的な機能も含んでいるといえます。また、身体拘束に伴う種々の不利益を緩和することも、弁護人の職責です。その意味で、接見交通権は非常に重要なのです。

弁護人の接見において、接見内容のメモを取ることは当然に認められています。接見内容を記録する手段として、メモはよくて写真はいけないというのは、合理的ではありません。

また、被疑者・被告人に対する捜査機関や拘置施設の違法行為が疑われた場合、その痕跡を保存して被疑者・被告人の防御活動の資料に用いることや、そのような違法な取扱いの是正のための資料に用いることも、弁護人に当然求められる要請といえます」

――拘置施設の職員の行為は、どのような点は「違法」だと考えていますか。

「そもそも、被疑者と接見している弁護人が写真撮影を行っていることについて、拘置所側が知り得たこと自体、『立会人なくしての接見(秘密交通権)』を認めた刑事訴訟法に反している、と考えます。

何らかの理由で逮捕・勾留された場合、被疑者の身柄は、捜査機関(国)の手元に置かれます。その際、被疑者がきちんと言い分を通そうと思った場合でも、被疑者と弁護人の打ち合わせの内容を捜査機関(国)に聞かれる可能性があるとすれば、自分の言い分をきちんと述べることはできません。

また、弁護人が被疑者・被告人と話をする場合、単に話を聞くだけではなく、聞いた内容をきちんと記録して、弁護活動の材料に活かさなければ、意味がありません。

さらに、被疑者が警察官や拘置所職員に暴力を受けてケガをしたような場合は、その場で写真を撮って残さない限り、ケガをした事実が明るみに出ることはありません。

このような点から、原告団・弁護団としては、接見室へのカメラ等の電子機器の持ち込みや、それを用いた写真撮影を禁止する理由はなく、稲村弁護士の撮影を確認したこと自体が違法であると考えています」

●接見交通権は「憲法」に由来する重要な権利

――拘置所側が写真撮影を止めようとしたことは、どのような問題点があるのでしょうか。

「弁護人の接見交通権は被疑者の『弁護人依頼権』を保障した憲法34条に由来するものです。最高裁判所も同様の判断を示しています。そのように重要な接見交通権を明確な根拠もなく一方的に禁止し、弁護人の接見を妨害するというのは、非常に問題です。

弁護人にとっては、被疑者と面会し、事情を聞いて、必要があれば記録化するということが全ての出発点です。ところが、写真撮影を禁じることは、その出発点を妨害していることになります。今後、このような不当な制限が拡大してしまうと、十分な弁護活動ができなくなる恐れもあります。

接見における撮影や録音については、昨年9月に日本弁護士連合会が法務大臣等にあてて、『面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音についての申入書』を出しています。その内容は、日弁連のホームページに掲載されていますので、ぜひご覧ください。

http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2013/130902.html」

――国家賠償を求める訴訟を提起した目的について、教えてください。

「今回の件で、稲村弁護士と私の弁護人、あるいは弁護人となろうとする者としての権利が害されたことから、それを是正・回復するため、という点が一つです。

さらに、拘置所等の不当な対応を裁判で明らかにすることで、写真撮影が正当な弁護権の行使であることを明確にするとともに、今後このような弁護権の侵害がなされることを抑止して、被疑者・被告人の防御権保障をより確実なものにしたい、ということがあげられます」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

半田 望
半田 望(はんだ のぞむ)弁護士 半田法律事務所
佐賀県小城市出身。主に交通事故や労働問題などの民事事件を取り扱うほか、日本弁護士連合会・接見交通権確立実行委員会の委員をつとめ、刑事弁護・接見交通の問題に力を入れている。また、地元大学で民事訴訟法の講義を担当するなど、各種講義、講演活動も積極的におこなっている。

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