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元教え子の全裸写真など100枚撮影、教諭の処分「減給1カ月」は妥当なのか?
埼玉県庁(Ryozo / PIXTA)

元教え子の全裸写真など100枚撮影、教諭の処分「減給1カ月」は妥当なのか?

元教え子の全裸写真など100枚撮影した教諭の処分は、減給1カ月——。2月18日に報じられた埼玉県教育委員会の懲戒処分に関するニュースが、ネットで「ありえない」と話題となった。

毎日新聞(2月19日)によると、校内で教え子だった元男子生徒(当時20歳)を校内のスタジオに誘い、1時間にわたって全裸を含めた写真を撮影したとして、県立高校の40代男性教諭を減給10分の1(1カ月)の懲戒処分にした。元生徒は「怖くて何も言えなかった」と話し、教諭は「わいせつ目的ではない」と話しているという。

ネットでは「減給のみ?怖すぎる」「甘すぎる処分」など非難が殺到している。

県教委の担当者は弁護士ドットコムニュースの取材に、「懲戒処分基準の中で処分をした形で、ご意見がたくさんあることは承知している」と話した。

県教委によると、写真が残っていなかったことから、互いの証言だけで処分を決定した。刑事事件化はしていないという。

●「説明責任を尽くしていないのではないか」

今回の処分について、行政法の研究者でもある平裕介弁護士は「被害者への配慮はしなければなりませんが、今回のケースで減給1か月という懲戒処分を選択したことについて、行政機関として説明責任を尽くしていないのではないか」と話す。

県教委の懲戒処分基準のセクハラに関する規定をみると、暴行もしくは脅迫を用いたり、上司や部下の関係を利用したりしてわいせつな行為などをした場合は「免職または停職」、性的な言動を繰り返した職員は停職または減給、相手が精神疾患をわずらった場合は「免職または停職」と定められている。

県教委の懲戒処分基準より(https://www.pref.saitama.lg.jp/e2201/fusyouji-boushi/documents/020710tyoukaisyobunkijun.pdf)

また、相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞等の性的な言動を行った職員は「減給又は戒告」と定めてあるが、今回の懲戒処分はこれに該当するという。また、今回は現在教えている生徒ではなかったため、児童生徒に対するわいせつな行為について定めた規定は当てはめなかったという。

「県教委が根拠とした規定は、職員の勤務環境を害した場合の規定です。基本的には、職場外で性的な言動を受けた被害者に対する権利侵害の問題は、直接的には考慮されていません。その点で疑問が残り、法的にみて甘すぎる処分だとみる余地があります」(平弁護士)

平弁護士は、基準に規定のない非違行為(非行・違法行為)が行なわれた場合についても「懲戒処分の対象となり得る」と指摘する。

「確かに、今回のケースでは、被害者は当時20歳であり、18歳未満の者に対する行為ではありません。また、『わいせつな行為』といえるかどうかについても微妙な問題があります。加えて、被害者は3月に実施された卒業式を2日前に終えており3月中に被害に遭ったものとみられるところ、卒業式の後であっても基本的に3月31日までは被害者はなお生徒として扱われるとされてはいる(学校教育法施行規則104条1項・59条)ものの、卒業式の前後で生徒に対する実際上の扱いが多少変わる(例えば卒業式後3月31日までに「卒業生」として下級生の卒業後の進路指導に関する講演者の一人として呼ばれることがあるなど)という実務上の運用もあるようであり、このような運用等が懲戒処分に係る裁量判断に際して考慮される余地が全くないものとはいえないようにも思われます。

とはいえ、地方公務員法29条1項3号は、『全体の奉仕者たるにふさわしくない非行』があった場合に懲戒処分をなしうると規定しているため、この規定の趣旨は、県教委の懲戒処分の基準に規定のない類型の非行が行われた場合であっても、懲戒処分を行いうるというものです。

このようなことからすると、今回のケースでも、被害者に対する権利が侵害された点が、職場環境が害されたこととは別に、特に考慮されるべきと考えられます」

さらに、今回のケースは「悪質なものといいうる余地がある」という。

「『わいせつな行為』に該当するかどうかについては、裸にして写真を撮る行為も諸般の事情を考慮した上で『わいせつな行為』に該当しうるものと解されうることになると考えられます。

これは、近年の判例(最大判平成29年11月29日刑集71巻9号467頁)が強制わいせつ罪(刑法176条)の成立要件として行為者の性的意図が不要であるとの判断を示した(判例変更をした)ことに照らしたものです」

「さらに、撮影時間も短いものではなく、1時間で多数回の撮影行為がなされていることなどから非違行為の『態様』が悪質なものといいうる余地があるといえます。

さらに、撮影行為が『過失』ではなく『故意』で行われたもので、2日前まで教員・教え子という関係から教員の職責がなお軽いとまではいえず、他の教職員や社会に与える影響も小さくはありません。

これらを考慮すると、脅迫行為や過去の非違行為が認定できなかったことなど男性教諭に有利な事情を十分に考慮したとしても、『減給』1カ月のみにとどめる処分をすることは、停職を選択していないばかりか、減給を複数月(3カ月など)とするものでもないため、懲戒処分の内部基準の当てはめの合理性を欠くとされたり、あるいは、内部基準で考慮しきれていないが考慮されるべき個別事情の不考慮が不合理であるとされたりする余地があります。

そして、その結果、懲戒処分の内容として軽すぎる(違法)、あるいは少なくとも妥当性を欠く(不当)といえるのではないか、という疑問が残ります。被害者側の事情に配慮しつつ可能な範囲で、より丁寧な判断過程の説明が追加的になされるべきでしょう」

(2022年6月8日午後5時、編集部追記)卒業式後の生徒に関する扱いについて、実務上の運用を踏まえて、本文を一部補足しました。

プロフィール

平 裕介
平 裕介(たいら ゆうすけ)弁護士 永世綜合法律事務所
2008年弁護士登録(東京弁護士会)。行政訴訟、行政事件の法律相談等を主な業務とし、憲法問題に関する訴訟にも注力している。上智大学法科大学院・日本大学法科大学院・國學院大學法学部等で行政法等の授業(非常勤)を担当。審査会委員や顧問等、自治体の業務も担当する。

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