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GWは「キャリーバッグ」衝突事故に要注意…どんな法的責任があるの?
画像はイメージです(つむぎ/PIXTA)

GWは「キャリーバッグ」衝突事故に要注意…どんな法的責任があるの?

ことしの大型連休、駅や空港はいつも以上に、ガラガラとキャリーバッグを引く旅行客であふれることになるでしょう。

キャリーバッグは、着替えやお土産など、荷物を多く運ぶのに便利です。しかし、すれ違いざまに他人にぶつけたり、ローラーで足の甲をひいたりして、トラブルになることも少なくありません。

たいていの人は、わざと相手にキャリーバックをぶつけたわけでなければ、ぶつけたことに気づきにくいことから、「自分のせいではない」と思いがちでしょう。一方、ネット上には「謝らない」という声もあがっています。

キャリーバックの持ち運びには、細心の注意を払ってほしいところです。もし誰かにキャリーバックをぶつけてケガをさせた場合、どんな責任が問われるのでしょうか。伊藤諭弁護士に聞きました。

●刑事上と民事上の責任が考えられる

――キャリーバッグをひいているとき、誰かにぶつけたら、どんな責任がありますか。

刑事上と民事上の責任が考えられます。

刑事上の責任として、故意に他人にキャリーバッグなどをぶつけた場合、暴行罪が成立します。過失であれば、相手がケガをしない限り犯罪にはなりません。

もっとも現実には、故意の立証は容易ではなく、他人に向かって次から次にぶつけ続けるといった、よほど悪質な事案でないと刑事事件として立件されることは稀だと思われます。

――民事上どのような責任がありますか。

抽象的には、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)責任が考えられます。ただし、この行為だけで、慰謝料が発生するほどの違法性があると評価されるケースはあまりないでしょう。

――ケガさせた場合はどうでしょうか?

刑事上の責任として、故意にケガをさせれば傷害罪になります。故意にぶつけたが「ケガをさせるつもりがなかった」という場合でも傷害罪は成立します。故意にぶつけたわけではない場合でも、過失傷害罪ないし重過失傷害罪が成立します。

民事上の責任も当然に発生します。故意による場合はもちろん、過失によって他人にケガをさせた場合でも、その損害(治療費や休業損害、慰謝料、後遺障害が発生した場合の逸失利益や後遺症慰謝料など)を賠償することになりますが、ケガをした方にも一定の落ち度がある場合が多く、過失相殺による減額がされる可能性はあります。

歩行者同士の事故であっても、ケガの程度によっては、思いのほか高額の賠償が認められることがあります。また、事故の態様が自動車事故のように類型化できるわけではなく、それぞれの供述が証拠の中心となる場合が多いため、判断がまちまちになることもあります。

●過失の有無がポイントとなる

――具体的にどんな裁判例がありますか。

キャリーバックではありませんが、交差点において、歩行中の91歳女性と25歳女性がぶつかって、91歳女性がケガをした事故で、裁判所は25歳女性に対して、約779万円の賠償責任を認めました(東京地裁・平成18年6月15日)。91歳女性の過失は3割とされ、その分は差し引かれています。

しかし、この控訴審では、25歳女性の過失を否定し、請求棄却としました(東京高裁・平成18年10月18日)

これは、25歳女性が「小走りないし早足」で交差点に進入したかどうか、という事実認定が逆転した結果です。東京高裁の判決も、それぞれの歩行態様や位置関係、周囲の見通しなどから、歩行者として通常の注意を払っていれば、相手方を発見し接触を回避することが可能と認められる場合には、過失があると評価できるとしています。

キャリーバッグを引いて人混みを歩く場合も、自分のみならずキャリーバッグが他人に接触しないよう注意する義務がありますので、単なる歩行者よりも注意義務の程度は高いと考えます。賠償責任が認められるケースも多くなるものと思われます。

――トラブルを防ぐには、どのような点に注意すべきでしょうか。

キャリーバッグを後ろに引いている場合、他人が足を引っかけやすく、かつ引いている本人は後ろの状況に気がつきにくいということを認識する必要があります。

昨今はスマホなどを見ながら歩いている人も多く、接触事故が起きやすい環境がそろってしまっています。

基本的なことですが、事故そのものを防ぐ以外に対策はありません。歩きスマホをやめること、人が多い場所ではキャリーバッグを自分の前に持ってくること、無理な割り込みなどはせず、周りの状況を確認すること、といった積み重ねが重要です。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

伊藤 諭
伊藤 諭(いとう さとし)弁護士 弁護士法人ASK川崎
1976年生。2002年、弁護士登録。神奈川県弁護士会所属。中小企業に関する法律相談、弁護士等の懲戒請求やトラブル対応などを手がける。第一法規「懲戒請求・紛議調停を申し立てられた際の弁護士実務と心得」著者。

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