人気マンガ「黒子のバスケ」をめぐる脅迫事件が世間を揺るがせている。大手レンタルチェーンTSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブは、マンガ本やアニメのDVDなどの関連商品を全店舗から撤去することにした。「商品を撤去しなければ客の生命に危害を及ぼす」という内容の脅迫状が同社に届いたためだ。
「黒子のバスケ」は週刊少年ジャンプで連載中の人気マンガだが、作者に怨恨をもつと称する何者かが、関連商品を扱う企業や報道機関に脅迫状や犯行声明を送りつける事件が1年ほど前から続いている。今年10月には、200社以上に「怪人801面相」を名乗る手紙が届いたという。毒入り菓子を店頭に置いたという脅迫文が届いたセブン-イレブン・ジャパンでは、コンビニから関連の菓子を撤去することを決めた。
いまのところ、毒入りとして送り付けられた菓子から毒物は検出されておらず、標的の一つとされる作者の母校でも、ケガ人などの被害は出ていない。しかし、世間に大きな不安を巻き起こしているのは間違いない。この脅迫犯はどのような罪に問われるのだろうか。近藤公人弁護士に聞いた。
●脅迫犯の行為は「威力業務妨害罪」にあたる
「結論からいうと、脅迫状が届いた書店・出版社・コンビニとの関係で、威力業務妨害罪(刑法234条)が成立します。刑は『3年以下の懲役又は50万円以下の罰金』です」
近藤弁護士はこう述べたうえで、なぜ威力業務妨害罪が成立するのかについて、次のように説明する。
「威力業務妨害罪は、『威力を用いて人の業務を妨害した』ときに成立します。威力とは、『人の意思を制圧するに足りる勢力』のことで、一般的には暴行行為や脅迫行為を言います。
『商品を撤去しなければ客の生命に危害を及ぼす』『毒入り菓子を店頭に置いた』という内容の文書を送付する行為は脅迫行為であり、『威力』に該当します。
そして本件では、関連の菓子を撤去していますので、『業務の妨害』に該当します」
●脅迫罪は成立しないのか?
「なお、判例では、業務妨害の結果が現実に発生することを必要とせず、業務の妨害をするに足りる行為(妨害の結果を発生せしむべきおそれある行為)で、処罰をすることができるとされています。仮に、書店・出版社・コンビニが、本・菓子の販売を継続しても、威力業務妨害罪が成立します」
では、どれくらいの刑に問われることになるのだろうか。
「脅迫文を送りつけた会社の数だけ、犯罪が成立します。しかし複数の犯罪が成立するといっても、現在の刑法では、最高でも懲役4年6カ月です。今回の件で、罰金刑はないでしょう。また、初犯であっても、社会的影響を考えると、実刑もあり得ます」
では、脅迫罪はどうだろうか。脅迫罪(刑法222条)とは、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者」を罰するものだ。脅迫状を送っているのだから、こちらの罪にも該当するのではないか。
「脅迫罪は、被害者本人か親族に対する加害の告知のときに成立します。今回は、特定の個人に対する加害の告知ではありませんので、『脅迫罪』は成立しないと考えます」
このように近藤弁護士は説明する。法人に対する脅迫罪が成立するかどうかという点については、専門家の間でも争いがあるようだが、高裁レベルでは「成立しない」という判例がある。今回は、警察も「威力業務妨害罪」で捜査をすすめているということだ。