東京都足立区の路上で10月3日夜、50歳ぐらいの男性が太ももから血を流して倒れているのが見つかり、搬送先の病院で死亡が確認されるという事件があった。この男性は、10代の女性に刺されたとみられるが、その女性は「知らない男に襲われそうになったので、ナイフを奪って刺した」と説明しているという。
報道によると、女性は警察に対して「ジョギングしていたところ、知らない男にナイフを突き付けられて河川敷に連れ込まれ、キスをされたり、体を触られたりした。男がナイフを放したすきに奪い、太ももを刺して逃げた」と話しているというのだ。
警視庁は、男性の身元を調べるとともに、男性による強姦未遂容疑と女性による傷害致死容疑で捜査を進める方針だという。女性の行為については「正当防衛」に当たるかどうかが問題となるが、一般的に、正当防衛というのは、どのような要件がそろえば成立するのだろうか。大久保誠弁護士に聞いた。
●正当防衛について定めた刑法の条文は?
正当防衛については、刑法36条で定められている。そこには「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」と書かれている。この条文について、大久保弁護士は次のように解説する。
「第一に、『急迫不正の侵害』に対するものであることが必要となります。『急迫』とは、法益の侵害が極めて間近に迫っていることをいいます。過去の侵害や、目前でない未来の侵害に対しては正当防衛は許されません。
また『不正』というのは、違法という意味です。『侵害』とは侵害行為のことだとされており、仮に侵害の結果が現在に継続していても、侵害行為が既に終了していれば、もはや正当防衛は許されないのです」
つまり、正当防衛が成立するためには、その防衛行為が「急迫不正の侵害」に対するものであることが必要となるわけだ。
●「防衛するため」という要件を分析すると・・・
「第二に、防衛行為は、自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずに出たものであることが必要です。この防衛行為は、(1)侵害者の法益に対する反撃に限られます。
また、(2)防衛に適する性質の行為でなければなりません。たとえば、授乳しないで乳児を殺そうとしている母親を射殺するのは正当防衛になりません。母親を殺してしまっては、乳児に授乳する人がいなくなってしまうからです。
さらに、(3)防衛の意思が必要で、(4)全体として防衛行為といえなければなりません。喧嘩が多くの場合、正当防衛といえないのはこの理由によります」
このように、正当防衛にあたる防衛行為といえるかどうかは、かなり細かく検討をして、判断されるということだ。
「そして、『やむを得ずに』防衛したというためには、必ずしもその防衛行為が唯一の方法であることまでは必要ないとされています。厳格な法益の均衡は要求されていません。ただ、少なくとも相手に最小の損害を与える方法を選ぶことが必要だと考えられています」
以上のような正当防衛の成立要件を一つ一つ検討していって、すべてが満たされる場合は、正当防衛にあたるとして、犯罪は不成立となる。つまり、無罪となるのだ。今回の事件でも、警察の捜査を経たうえで、このような検討がされるはずだ。