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全国初・令状ありの「GPS捜査」裁判、証拠の扱いに注目 判例は「立法措置」要求
2017年の大法廷判決後の記者会見

全国初・令状ありの「GPS捜査」裁判、証拠の扱いに注目 判例は「立法措置」要求

警察のGPS捜査をめぐり、注目の裁判が千葉地裁で進んでいる。GPS捜査については、2017年に最高裁大法廷で(1)裁判所の令状がなくてはならない、(2)立法で新しい令状を整備することが望ましいと判断した。一方、今回の裁判は、全国で初めて裁判所の令状をとってGPS捜査をした事件で、その判断に注目が集まっている。

この事件は、人気車種「ハイエース」などの連続窃盗事件で、被告人は窃盗団のリーダーとされる男性(40代)。大法廷判決が出る前の2016年9〜11月にかけて、埼玉と千葉で計4台の車を盗んだとして、千葉県警が令状をとり、車にGPS端末を設置するなど捜査していた。

5月29日の論告求刑公判で、検察側は懲役12年、罰金50万円を求刑。一方、男性側は「GPS捜査による証拠は排除されるべき」として無罪を主張している。判決は8月30日に言い渡される。

今回の裁判は、GPS捜査において、どのような意義を持つのか。2017年の大法廷判決を導いた弁護団の舘康祐弁護士に見解を聞いた。

●令状があっても、GPS捜査の証拠は採用されない?

ーー大法廷判決に当てはめると、今回の事例はどう考えられる?

大法廷判決および、そこに付された補足意見によれば、原則としてGPS捜査は現行法上の各種令状をもってしても実施することは許されず、仮に令状を取得して実施が許されるとしても、極めて限定的な場面に限られるとされています。

今回の裁判における事案の詳細は明らかではありませんが、そのような例外的な事情がない限り、仮に検証許可状(令状の一種)を取得していたとしても、GPS捜査は違法であると言わざるを得ません。

ーーだとすると、被告人の男性の主張通り、証拠は排除されるべき?

一般に違法な捜査によって収集された証拠が排除されるためには、その違法性が重大であることが必要になります。

今回のGPS捜査では、検証許可状が発付されていたといいます。

仮に令状があったとしても、「例外的な事情」がなく、本来実施し得ない捜査であったとすれば、その違法性は無令状で実施された場合に準ずるものであって、重大といえるでしょう。

また、今回の事件では、公判で被告人から指摘されるまで捜査側がGPS捜査の実施を開示しなかったといいます。この点も、その重大性を補完する事情となり得ます。

したがって、GPS捜査によって直接収集された証拠、たとえば、被告人の走行経路等を記した捜査報告書などは排除される可能性が高いと考えます。

このような証拠すら排除されないとすれば、現行法上の令状でのGPS捜査を許容することにつながり、立法措置にまで言及した大法廷判決の趣旨を没却させることにもなりかねません。

●GPS捜査をもとにした「二次的証拠」までは排除されない可能性が高い

ーー大法廷判決の事件では、GPS捜査による証拠は排除されたが、被告人は一審からずっと有罪のままで上告審でもその判決が維持された。今回、被告人は無罪を主張しているようだが…?

証拠はGPS捜査によるものだけとは限りません。また、GPS捜査によって直接収集された証拠から派生した「二次的証拠」まで排除されるかは別の問題になります。

たとえば、GPS捜査をもとにした捜査報告書を根拠とする「捜索差押許可状」によって押収された車両やその差押調書などです。このような証拠の排除についてもやはり、違法の重大性の程度が問題になります。

ーー今回の場合はどう考えられる?

今回のGPS捜査は一応、裁判所の審査を経て検証許可状を取得しています。また、大法廷判決以前に実施されたものですから、その当時には確立した司法判断も出ていなかった、という事情もあります。

そのため、その違法の重大性は、二次的証拠を簡単に排除できる程のものではないと思われます。したがって、直接収集された証拠との間に極めて強い関連性が認められない限り、二次的証拠は採用されると考えられます。

まとめると、GPS捜査によって直接収集された証拠は排除される一方、いわゆる二次的証拠まで排除されることにはならないため、その二次的証拠に基づいて被告人に有罪判決がされる可能性が高いと考えられます。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

舘 康祐
舘 康祐(たち こうすけ)弁護士 森下総合法律事務所
森下総合法律事務所所属。平成21年弁護士登録。取扱業務は、不動産、相続、離婚等の一般民事事件、会社法務、刑事事件等、多岐にわたっている。GPS捜査事件では、一審段階から弁護団の1人として参加し、昨年3月に最高裁大法廷判決を導く。

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