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肺がんの妻を放置、意識不明の父を海岸に置き去り…なぜ「殺人容疑」ではないのか?
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肺がんの妻を放置、意識不明の父を海岸に置き去り…なぜ「殺人容疑」ではないのか?

肺がんの妻を自宅に放置し、意識不明の父を海岸に置き去りにするーー。5月下旬、相次いでそんな事件が報じられた。5月30日には、大阪府枚方市内の住宅に、肺がんの妻(72)を放置したとして、夫(70)が保護責任者遺棄容疑で逮捕された。また、5月29日には、福井県敦賀市の海岸で、意識不明となった父(80)に適切な救護措置をとらず、そのまま海岸に置き去りにしたとして息子(52)が、保護責任者遺棄容疑で逮捕されている。

素朴な疑問として、これからはなぜ「殺人」ではないのか。保護責任者遺棄とはどのような罪であり、殺人とはどう違うのか。大山滋郎弁護士に聞いた。

●「殺人罪」と、どう違う?

「高齢者、子ども、病人など扶助が必要な人たちを保護する責任があるのに、責任を果たさずに放置することは犯罪になります。このことを『保護責任者遺棄罪』(刑法218条、3月以上5年以下の懲役)といいます。

また、それによって、遺棄された人が亡くなると『保護責任者遺棄致死罪』(刑法第219条、205条・3年以上20年以下の懲役)という、さらに重い罪に問われます。

『保護責任者遺棄罪』『保護責任者遺棄致死罪』は、『何もしなかった』ことが罪になります。たとえば、寝たきりの高齢者や病人に家族が食事を与えないようなケースですね。

今回の例ですと、単純に殺人じゃないかと疑問に思う人もたくさんいると思います。前から憎んでいた父親を殺そうと考え、人気のない海岸に置き去りにしたような場合、『殺人罪』と考えた方が素直ですよね。

また、ことさら殺す意図まではなくとも、『死んでもかまわない』とか、『たぶん死ぬだろう』という気持ちで放置した場合も、『殺人』ではないかと思う人が相当数いそうです。

しかし実は、『保護責任者遺棄致死』と『殺人』の境目は、明確に決まっているわけではありません。もちろん、いろいろな理論はあります。殺意の存在や、保護責任の程度の強さなどが考慮されるといわれていますが、立証が難しいケースもありそうです。

では裁判ではどう判断されているのか。この難しい境目については、個別事情に応じて、それまでの判例などから決めています。となると、大切なことを国民が関与せず、一部の法律家のみで決めて本当に良いのかという疑問も出てきそうですが、現在は、保護責任者遺棄致死も殺人も、裁判員裁判で審理されています。

今後、裁判員たちが、2つの罪の境目について、今までとは違った判断をしていくのかもしれません」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

大山 滋郎
大山 滋郎(おおやま じろう)弁護士 弁護士法人横浜パートナー法律事務所
刑事弁護と企業法務が得意分野。メーカーの法務部門に長く勤め、勤務のかたわらニューヨーク州弁護士資格を取得し、日本の司法試験にも合格した。会社の法律問題を扱う一方、多数の刑事事件を手がける。

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