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未成年にタバコを売ったけど・・・元コンビニ店員はなぜ「逆転無罪」になったのか?
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未成年にタバコを売ったけど・・・元コンビニ店員はなぜ「逆転無罪」になったのか?

コンビニで15歳の少年にタバコを販売したとして、未成年者喫煙禁止法違反に問われた元店員の2審判決が9月中旬に、高松高裁であった。1審では「罰金10万円」の有罪判決だったが、2審では一転して、無罪判決となった。

報道によると、元店員は2013年4月、大手コンビニ「ローソン」の香川県内の店舗で、タッチパネル式の年齢確認システムで「私は20歳以上です」のボタンを押した少年に対して、タバコ2箱を販売した疑いが持たれていた。

争点になったのは、元店員がタバコを売った相手について、未成年と認識していたかどうかだ。1審の丸亀簡裁は「少年は頬ににきびがあり、あどけない顔で、一見して未成年者とわかる顔立ちだった」などとして、罰金10万円の有罪判決を下した。

しかし、高松高裁は「元店員が少年の顔を見た時間はきわめて短時間」「少年は身長約167センチで成人であってもおかしくなく、制服も着ていなかった」として、未成年と認識していたと認めるには合理的な疑いがあると判断した。

今回の逆転無罪判決をどうみたらいいのか。刑事事件にくわしい荒木樹弁護士に聞いた。

●「故意」がなければ、処罰されない

「未成年者喫煙禁止法では、未成年(満20歳に達しない者)が自ら使用することを知りながら、タバコを販売した者は、50万円以下の罰金に処罰すると定めています。

罰金といえども、刑事罰ですので、処罰するにあたっては、刑法の一般原則にしたがう必要があります」

荒木弁護士はこう切り出した。どのような原則なのだろうか。

「刑法では、『罪を犯す意思(故意)がない行為は罰しない』と規定されています(刑法38条)。

犯罪として処罰するには、検察官が、犯罪の成立を立証する必要があります。『故意』が存在することについても同様です。

未成年にタバコを販売した店員については、どうだろうか。

「(1)タバコを販売した相手が未成年者であることと、(2)相手がタバコを使用することについて、それぞれ認識していることが必要です。検察官がこれらの点を立証できなければ、『故意』があるとはいえません。

また、検察官は、有罪の立証にあたって、証拠に照らして合理的な疑いを持たない程度に立証しなければなりません。常識的に判断して、有罪であることに少しでも疑問がある場合、有罪の立証は失敗したことになり、無罪となります」

●「刑事罰で規制すると、かえって運用がむずかしい」

今回の判決は、どう考えればいいのだろうか。

「おそらく、店員側は裁判で、『タバコを販売した相手が未成年者だとは知らなかった』と弁解したと思われます。

このような場合、検察官は、他の証拠から店員に『故意があった』と立証しなければなりません。

今回のケースについてざっくりといえば、1審判決が『顔立ちから未成年だとわかる』と結論づけたのに対して、2審判決は『短時間しか見ていないのであれば、未成年だとわからないかもしれない』という結論に至ったと思われます」

未成年に対するタバコの販売規制は、今後どうあるべきだろうか。

「刑事罰で規制しようとすると、刑事裁判の原則上、どうしても立証のハードルが高くなり、かえって運用がむずかしいという面があります。

個人的には、たとえ不注意であっても、未成年にタバコを売った店に対する注意・指導などの『行政的規制』を課すことができる法律の制定も、考えるべきではないかと思います」

荒木弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

荒木 樹
荒木 樹(あらき たつる)弁護士 荒木法律事務所
釧路弁護士会所属。1999年検事任官、東京地検、札幌地検等の勤務を経て、2010年退官。出身地である北海道帯広市で荒木法律事務所を開設し、民事・刑事を問わず、地元の事件を中心に取り扱っている。

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