2023年に亡くなった歌手、八代亜紀さんの「追悼アルバム」が4月21日に発売されると発表され、その「特典」が物議となっている。
発売元は、鹿児島市のレコード会社で、同社の公式サイトやSNSによると、「お宝シリーズ」と題したアルバムで、プライベートで撮影された八代さんのヌード写真が特典として掲載されているという。
アルバム発売が雑誌などで報じられると、SNSでは「八代さんの名誉を傷つけている」「なんとか発売を止めたい」「リベンジポルノじゃないの?」など、ファンを中心に批判の声が上がっている。
また、アルバム発売中止を求めるオンライン署名も活発化しており、すでに大手レコードショップやネットショップでは取り扱い中止となっている。
●レコード会社「告知通りに商品を発売する」
こうした状況の下、八代さんのアート作品や楽曲を管理する会社「八代ミュージック&ギャラリー」は4月14日、公式サイトで「刑事民事を問わず、あらゆる手続きの準備を進めている」と発表した。
そのうえで「本件問題作の発表そのものは極めて不愉快な出来事であり、絶対に許すことのできないもの」「今回のような蛮行に対しては、八代亜紀の名誉を守るため、あらゆる方策を講じてまいる用意」としている。
管轄警察署等への相談事項は「死者の名誉棄損罪のほか、『フルヌード写真』に関するわいせつ物頒布等罪、解散法人において営業活動を行い収益を上げることの税法上の問題点等、あらゆる問題をその対象」としているという。
一方、レコード会社側はインスタグラムで「告知通りに商品を発売して行きます」と投稿するなど、「強気」の姿勢を崩していない。また、中止を求める抗議について次のように投稿している。
「告知通りに 商品を発売して行きます。
また当社は問題と成っている写真など
すべての所有権を有しており売買契約書もございますので 悪質な投稿者も
同時に司法の手に委ねているのが現状です。
全ての権利が当社にある以上 どこの
どなたのイヤガラセを受けようとも
受けて立つ所存ですし 問題の写真類
一式を買い取って頂ければお譲りする
方針です。ここに通知します。
こそこそしないで堂々と交渉されればと存じます」
有名人の死後、本人の意思にかかわらず、プライベートな写真を公表したり、発売したりすることに法的問題はないのだろうか。芸能問題にくわしい河西邦剛弁護士に聞いた。
●名誉毀損罪やプライバシー侵害に問えるか
——亡くなった有名人のプライベートな写真を公表したり、販売したりすることについて、名誉毀損罪など法的責任を問えないのでしょうか。
まず、刑事上の名誉毀損罪に該当するかというと、該当しません。刑法では「死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない」とされているからです(刑法230条2項)。
民事上の責任として考えられるのが、プライバシー権です。プライバシー権については、私生活上の事柄であり、公表を望まないものであり、今回のような写真については、八代さんが存命であれば、十分プライバシー権侵害になりえます。
しかし、プライバシー権というのは、裁判例の蓄積により認められた権利であり、一身専属の権利と考えられるので、相続の対象になりません。遺族であっても、八代さんのプライバシー権を相続するということはありません。
なお、遺族の名誉感情を害したこと、あるいは、遺族の故人に対する敬愛追慕の情を侵害したことが不法行為という構成で、損害賠償が認められる可能性はあります。
●「リベンジポルノ」にはならないのか
——SNSでは、「リベンジポルノにならないのか」という声もありますが、これも法的な責任を問うことは難しいのでしょうか。
考え方は分かれていますが、撮影対象者が亡くなったあとの公表であっても、リベンジポルノ防止法違反として処罰されえます。
ただし、八代さんが撮影当時に撮影者以外の第三者が閲覧することを認識していなかったことを立証することが必要となりますが、現実的に「認識していなかったこと」の立証はハードルが高いと言えます。
また、リベンジポルノ防止法違反は、告訴がなければ処罰できない犯罪です。被害者が死亡したときに告訴をすることができるのは、原則的に配偶者、直系の親族・兄弟姉妹になります。
●発売の事前差止めはむずかしい
——「八代ミュージック&ギャラリー」側は、「フルヌード写真」に関するわいせつ物頒布等罪についても、警察に相談しているとのことです。
「フルヌード」という表現は曖昧ですが、「わいせつ物」にあたるかどうか、検討が必要になります。
ただし、現在の「わいせつの概念」では、陰部が写っていなければ、わいせつ物頒布等罪に該当しない可能性が高いです。成人向けの本がコンビニエンスストアで売られているのと同じです。
ただし、もしも未成年者に販売すれば、各都道府県の青少年保護育成条例違反になる可能性はあるかもしれません。
——もし、法的な責任を問うことが難しい場合、こうした写真の公表を止めることも難しいでしょうか。
損害賠償の法的責任を問うことより、発売の事前差止めを求めるほうがハードルが高いのが現実です。
法的な強制力を伴う手段をとることが難しいとなれば、任意に公表をすることをやめるよう求めるしかありませんが、応じるか否かは相手次第になってきます。