歌舞伎俳優の市川猿之助さんが5月18日に自宅から救急搬送され、同居の両親が亡くなった事件。6月27日、母親の自殺幇助をした疑いで市川さんが逮捕されたと報じられている。
NHKなどの報道によれば、市川さんは「3人で、死んで生まれ変わろうと話し合い、両親が睡眠薬を飲んだ」と説明していたという。
「自殺幇助」とは、どのような罪なのか。また実刑判決となる可能性はあるのか。元警察官僚で警視庁刑事の経験もある澤井康生弁護士に聞いた。
●「執行猶予が付かない実刑判決となる可能性も」
被害者本人が自殺すること自体は違法ではありませんが、これに他人が関与した場合、その関与した他人は自殺関与罪や承諾殺人罪に問われる可能性があります(いずれも刑法202条)。量刑は「6月以上7年以下の懲役または禁錮」です。
「自殺関与罪」の類型は「教唆」と「幇助」があります。教唆は自殺の決意を有しない者に自殺を決意させる方法、幇助は既に自殺の決意を有する者を援助する方法です。「承諾殺人罪」は被害者の承諾を得て殺す犯罪です。
当事者の1人が他の当事者の自殺を何らかの方法で手伝った場合(たとえば睡眠薬を入手して提供した場合)には自殺の決意を有する者を幇助したこととなり、自殺関与罪が成立する可能性があります。
当事者の1人が他の当事者の承諾を得て実際に睡眠薬を飲ませるなどした場合には承諾殺人罪が成立する可能性があります。
殺人罪が「死刑または無期もしくは3年以上の懲役」であるのに対して、自殺関与罪や承諾殺人罪は「6月以上7年以下の懲役または禁錮」と刑が軽くなっています。
自殺関与罪や承諾殺人罪の場合には被害者本人が自分の生命を放棄していることから通常の殺人罪よりも違法性の程度が軽いからであると言われています。自殺関与罪や承諾殺人罪の場合は個別具体的な情状にもよりますが、3年以下の懲役になれば執行猶予が付く可能性も十分あります。
ただし、今回の事件は両親2人の自殺に関与していると思われることから、今後、父親に対する自殺関与罪で立件される可能性も考えられます。その場合、2件の自殺関与罪に関わったとして、懲役3年を超えて執行猶予が付かない実刑判決となる可能性もあります。
ちなみに最近の事件でも両親2人に対する自殺関与罪と承諾殺人罪で懲役3年6月の実刑判決となった裁判例があります(2020年10月22日横浜地裁判決)。
【訂正】裁判例について日付を修正しました(2023年6月27日 18:37)