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弁護士だった山上容疑者のおじ、統一教会とどう対峙したのか 最後の仕事を語る
これまでの弁護士人生や事件について語る山上容疑者のおじ(2022年8月、弁護士ドットコムニュース撮影)

弁護士だった山上容疑者のおじ、統一教会とどう対峙したのか 最後の仕事を語る

「血は水よりも濃い。(手助けすることは)本能です」。そう語るのは、安倍晋三元首相を銃撃したとされる山上徹也容疑者のおじだ。事件直後は自宅で山上容疑者の母と妹を保護していた。

迅速な行動に移せたのは、彼が元弁護士だからだ。母も妹も、重要な参考人。証拠を保全することが最優先だと考えた。そして、自宅にはこれまで世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と交渉した記録や、山上容疑者が自殺未遂した際の海上自衛隊の書類も、すべて書面で残っている。

最後の仕事は、本来子どもたちに渡るはずだったお金を旧統一教会から取り戻すこと。マスコミ対応も一手に引き受け、企業法務に携わってきた知見も入れながら新たな闘いに挑んでいる。

●証拠保全が第一、書類は分厚いファイルに

久しぶりに顔を合わせた山上容疑者の母親は、ホームレスのようだった。やせていたし、ろくに食べていなかったように見えた。宅配でなんでも買っていいと言うと、食べ物や衣服を注文していたという。

取り調べや取材で、山上家に起きたことを時系列で語っていると、事実が整理されていった。そうした回顧の中で、改めて気づいたのは、山上容疑者にとって最もつらかった出来事は2004年だっただろうということだ。

「母親は2002年に自己破産し、サラ金にも手を出し始めていた。2004年に徹也の兄からSOSがあって、家に行くと冷蔵庫は空っぽ。電気代も家賃も滞納しており、当座として10万円を渡した。妻と持参した寿司と缶詰にかぶりつくように食べていた」

翌年、海上自衛隊に所属していた山上容疑者は広島で自殺未遂する。

「徹也は時折実家には帰っていたから、困窮ぶりを妹から聞いたんだろう。自分が死んで兄と妹に保険金を残したかったと海自にも説明したようだ」

当時、海自から渡された報告書がある。自殺未遂を図った理由について海自が本人から聞き取ったもので、電話で連絡を受けた際に「書面にして送ってくれ」と頼んだのだという。

自殺未遂以降、おじは旧統一教会に献金の内訳を明らかにするよう求めるファクスを送付した。すべては証拠を残すため、書面でのやりとりにこだわった。これをきっかけに返金が始まり、2009年には教会側から提示された「5000万円」を受け入れる形となった。

この返金が2013年に終わると、翌年には妹の薄給を頼りにした暮らしが再び困窮し始める。兄の病状も悪化し、2015年に自殺する。おじも当時は病気を患っており、葬儀にも行くことができなかったが、親族から山上容疑者が棺にすがって泣いたと聞いた。

こうして集めた書類が入った分厚いファイルは、検察に提出する重要な証拠となっている。

●「弁護は奈良の方に任せる。適切な量刑判断を」

おじはゼネコンに勤めながら司法試験を受け、弁護士になった。大阪で企業法務を中心に扱う法律事務所を経営した。50社もの顧問を抱えたことも。判例データベースを調べると、複数の判例に名前が出てくる。

多忙を極めた仕事のかたわらで、山上家のことが頭から消えることはなかった。子どもが小さいころは2家族で海に行ったり、スケートに行ったりした。徐々に、家庭が困窮し始めてからは進学費用など総額2000万円は援助した。それも通帳に記録を残している。

かねてから65歳で仕事は引退し、悠々自適に過ごすと決めていた。70代後半となった今、自宅に飛来する野鳥をめでたり、音楽を楽しんだりしていた日々に、事件は突如として起きた。マスコミが押し寄せ、対応を一手に引き受けている。

法律家として、おじとして、量刑に何を思うのか問うと、きっぱりとこう答えた。

「事件の解明に興味はありますよ。ただ、弁護は奈良の方に任せる。法曹3者で客観的に事実を評価し、適切に量刑を判断してほしい。お涙ちょうだいは要らない」

●母に怒った妹「一度もお兄ちゃんに謝ったことなかったのに」

検察の調べは終わった。ただ一つ、残された仕事は、これから生きていく妹のためにお金を取り戻すことだ。息子しかいないおじにとっては、娘のような存在という。

「(教会に寄付されたうちの)少なくとも父の遺産6000万円のうち、3人の子どもには1000万円ずつの権利があるはずだ。それを教会が母親とともに横領したとして、返金を求める内容証明を送っている」

旧統一教会松濤本部に配達されたことは確認できている。回答期限は到着してから1週間。無視されたとしても、求め続けると話す。

「脱会は考えていません、勝手にしてほしい。私は子どもたちが少しでも生きていけるように(教会側に渡った)お金のことを取り返したいだけ」

「ただね、母親が統一教会に謝りたいと言った時、妹が見たこともないくらい怒ったんですよ。『今までお兄ちゃんにも私にも謝ったことないのに』と。彼女にとっては、徹也は父親代わりのようなものだったと思う。今は母親と切れたことで安定していますよ」

おじの語り口は法律家らしく、論理的で冷静だ。しかし、長きにわたり支援してきた甥や姪への思いには強く熱いものを感じた。

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