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2020年05月28日 09時21分

「京アニ事件」10カ月後の逮捕なぜ ろくに動けない容疑者、身柄拘束の必要は?

「京アニ事件」10カ月後の逮捕なぜ ろくに動けない容疑者、身柄拘束の必要は?
京都アニメーションの第1スタジオ(2019年7月/弁護士ドットコム撮影)

京都アニメーションのスタジオが放火され、社員36人が死亡するなどした事件で、京都府警は5月27日、入院での治療が続いていた青葉真司容疑者を殺人や殺人未遂、現住建造物等放火などの疑いで逮捕した。

京都新聞(5月27日)によれば、青葉容疑者は会話は支障なくできるが、今も自力での歩行や食事ができない状態で、逮捕時もストレッチャーに寝かされた状態で病院を出たという。

大勢の人が亡くなるなど事件が極めて重大であることは間違いないが、自力歩行もできない容疑者を逮捕する必要があるのだろうか。また、逮捕するにしてもなぜこのタイミングだったのか。神尾尊礼弁護士に聞いた。

●逮捕にまつわる「4つの疑問」に答える

ーー「逮捕」に必要な条件を教えてください

この事件を考える前に、逮捕という手続に対する一般的な4つの疑問にお答えします。

(疑問その1)「犯人」だから逮捕するのか?

刑事事件となると、「探偵が犯人を当てた後、警察が犯人を連行する」という刑事ドラマのシーンがよく出てきます。ただ、「事件を起こした犯人であれば必ず逮捕される」というイメージは実は誤りです。

刑事裁判を経ることで有罪か無罪か決まります。したがって、逮捕するかどうかのときに、有罪である「犯人」と決めつけられてしまうような人は存在しません。「犯人」だから、ではなく、次に述べるような条件が揃っているから逮捕できるのです。

●逮捕できる「条件」

「逮捕」は人の自由を制限できる強力な手続なので、その条件は厳格です。

(A)その人が罪を犯したと疑っていいくらいの相当な理由

(B)逮捕の必要がないとはいえないこと(逃亡や証拠を隠滅するおそれがないとはいえないこと)

この2つの条件(細かく分けると3つの条件)がないと、逮捕はできません。そして、警察官などが裁判官に対して、(通常)逮捕状を請求します。裁判官が、これらの条件を満たしていると判断すれば、逮捕状が発付され、逮捕が認められるのです。

(疑問その2)逮捕されると「犯人」なのか?

(1)の逆で、逮捕されると「犯人」扱いされることがあります。これも間違いです。あくまで「犯人」という疑いに留まります。

実務上、逮捕状を請求すると、ほとんどそのまま発付されます。裁判官の審査が機能していないとはいえます。

ただ、警察官の請求どおりに逮捕状が発付されても、それは「犯人」であると捜査機関にお墨付きを与えるものではなく、あくまで逮捕の条件があると裁判官が判断したに過ぎない、というのは理解しておくべきでしょう。

(疑問その3)重大事件だから逮捕するのか?

「重大事件なら逮捕されるべき」「どうして逮捕されないのだ」という意見も目にします。

ただ、重大事件だからといって、逮捕の条件を満たすことができなければ逮捕することはできません。例えば汚職事件など逃亡しないと見込まれる場合には、逮捕状を請求せず在宅のまま起訴まで持っていくことがあります。

(疑問その4)逮捕は刑罰か?

先述のとおり、逮捕は、逃亡や罪証隠滅のおそれがあるときに、これらを防止するために行われる手続です。その人を罰するために逮捕するものではありません(さらにいえば、取り調べるためのものでもありません)。

「逮捕しなければならない」という意見の中に「悪いことをしたのだから逮捕しなければならない」というものがありますが、逮捕は懲罰ではないのです。

●京アニ事件「逮捕できる条件は満たしていない」とも考えられる

以上のことを前提に、本件の逮捕を検証します。

まず、逮捕の条件を満たしているでしょうか。報道を前提にすると、逮捕してもいいくらいの疑いはあるといえるかもしれません。

他方、自立歩行ができない状態であれば、逃亡のおそれはないともいえるでしょう。事件から10カ月経過しており、証拠は収集されているでしょうから、いまさら証拠隠滅のおそれもないといえそうです。

そうだとすれば、逮捕できる条件を満たしておらず、本来であれば逮捕状を発付できなかったのではないか、という疑問が残ります。

ただ、私も重大事件で逮捕前に入院が伴っていた事案を担当したことがありますが、ある程度会話ができるようになると逮捕状を請求するケースが大半です。

理由ははっきりとは分かりませんが、身柄確保しやすくなるという理由のほか、逮捕の目的を取調べと考えているのではないか、と思います。

●逮捕は「吟味が必要な手続」

ーー逮捕後の捜査はどのように進み、逮捕後はどこで過ごすことになるのでしょうか

逮捕状は、短時間しか効力がありません。その後は検察官が勾留請求をし、認められるとさらに身体拘束が続くことになります。勾留する場所は通常警察署です。

ただ、体調悪化などによって、勾留できなくなったと判断されると、勾留の執行が停止され、再び病院に入院することもあります。

以上のとおり、逮捕とは刑罰ではなく、条件を満たした場合に身体拘束できるという手続です。逮捕はそれ自体が目的化しているきらいもありますが、本来はその必要があるかを吟味する必要がある手続です。

本件が重大事件であり、多数の被害者をケアする必要はありますが、それと逮捕の条件を満たすかどうかは、別の次元の話です。

取材協力弁護士

神尾 尊礼弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」弁護士を目指している。

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