仮想通貨マイニングの摘発、「法律で規制する問題ではない」と田中弁護士が批判
仮想通貨のマイニングに関する警察庁の注意喚起

仮想通貨マイニングの摘発、「法律で規制する問題ではない」と田中弁護士が批判

仮想通貨をマイニング(採掘)するために、他人のパソコンを無断で利用しようとしたとして、10県警が不正指令電磁的記録供用などの疑いで計16人を逮捕、書類送検した。

NHK(6月14日)の報道によれば、神奈川県警はウェブサイト運営業の男性ら2人を不正指令電磁的記録供用などの疑いで逮捕した。この2人を含む摘発された16人は18〜48歳の学生や会社員などで、いずれもHPに他人のパソコンのCPU(処理装置)を使って仮想通貨をマイニングする「Coinhive(コインハイブ)」と呼ばれるプログラムを設置していた。

各県警はこれを不正指令電磁的記録供用罪などで定める「(所有者の)意図に沿うべき動作をさせず、または意図に反する動作をさせる」に該当すると判断したという。こうした警察の摘発に対し、ネットでは「摘発はやりすぎ」「不正とするなら線引きを明確にするべき」などといった意見が上がっている。

今回の摘発をどのように見ればいいのか。仮想通貨のマイニングは違法なのか。インターネット関連事件を専門に扱う田中一哉弁護士に聞いた。

●不正指令電磁的記録供用罪とは

不正指令電磁的記録供用罪とはどのようなものでしょうか。

「『ウイルス作成罪』と呼ばれるもので、『不正指令電磁的記録作成罪』と共に新たに設けられ、2011年7月に施行された罪です。犯罪目的のウイルスの作成、提供、供用、取得、保管行為が罰せられるようになりました。

不正指令電磁的記録供用罪(刑法168条の2第2項)は、正当な理由がないのに、他人のパソコンやスマートフォンなどの端末を、その使用者の意図とは無関係に、その意図にそうべき動作をさせず、または、その意図に反する動作をさせるような『不正な司令』を与える行為をいいます。有罪となれば、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が課せられます。

より分かりやすく説明すると、(1)他人のパソコンに、(2)所有者の意図に反する動作をさせる、(3)不正な指令を与える罪です」

●コインハイブの設置は「不正な指令」にあたるのか

では、コインハイブの設置は、刑法の不正指令電磁的記録供用罪にあたるのでしょうか。

「コインハイブは、サイトにアクセスしてきたユーザーのPC上で、所有者の同意なく、マイニングプログラムを実行させていますので、(1)他人のパソコンに、(2)所有者の意図に反する動作をさせるーーという2点は充足していると思います。

問題は、(3)の不正な指令を与えたかどうかという点です。私見では、コインハイブの設置は、これにあたらないと考えています」

なぜそのように考えますか。

「プログラムによる指令が『不正』に当たるか否かは、その機能を踏まえ、社会的に許容し得るものであるかという観点から判断すべきところ、サイト側が閲覧者PCのリソースを借用することは、ブラウザの機能上ある程度予定されているからです。

また、コインハイブによるマイニングは、ブラウザに依存します。そのため、閲覧者は、ブラウザ自体、あるいは、ブラウザのタブを閉じることで、ただちにコインハイブの動作を止めることができます。このような、ユーザー側で任意かつ容易に排除可能なプログラムについてまで、処罰の対象にする必要があるのか疑問に感じます。

今回の裁判では、コインハイブの設置が『不正な指令』にあたるか否かが争点になりそうです。しかし、この『不正』の意味は、一義的に特定できません。このような予測困難な要素が、勝敗を分けそうな点において、今回の事件はとても興味深いと思います」

●道義的責任と、法的責任とは分けて考えるべき

そもそも、コインハイブによるマイニングは法律で取り締まるべきものなのでしょうか。

「サイト管理者が、コインハイブの設置を告知せずに他人のCPUを使用していたという点は、ネット上のエチケットに反しています。しかし、このような道義的責任と、法的責任とは分けて考えるべきでしょう。

私見では、法律で規制する問題ではないと思います。被告人側も主張しているとおり、コインハイブは実質的には、ネット広告やアクセス解析と変わりません。ネット広告などが適法で、コインハイブが違法であるという根拠を見出すことは困難だと思います。

たしかに、コインハイブは閲覧者PCのCPUを使うとしても、この点について『CPUパワーの何%を借用したら違法』と線引きすることは不可能です。CPU消費による影響は、個々のPCの性能によって異なるからです」

●告知の有無の評価「ユーザーの判断に委ねるべき」

コインハイブ設置の告知の有無についてはどう考えますか。

「サイト管理者が、『コインハイブの設置を告知しなかった』ことをどう評価するかは、個々のユーザーの判断に委ねるべきです。

そのような、エチケット違反を不快と感じるユーザーは、2度とサイトを訪れないでしょうし、『その点をおいても、再訪する価値(コンテンツ)がある』と考えれば、サイトの利用を続けるでしょう。道義的問題については、サイト間の自由な競争に任せておけば、適正な結果に至ります。

コインハイブには、従来のネット広告に変わる、新しい収益形態という側面があります。すなわち、コインハイブが設置されたサイトでは、閲覧者は、不快なネット広告にわずらわされることなく、サイトコンテンツに集中できるというメリットがあるのです。この点もまた、私が、コインハイブに対する規制に反対する理由の一つです」

●警察による摘発は「技術者の意欲が削がれる」

なぜ警察による摘発が、相次いでいるのでしょうか。

「正確には分かりません。勘ぐり過ぎかも知れませんが、捕捉困難な収益源に対する警察の警戒感が背景にあるように思います。つまり、今回の摘発には、かなり政策的な側面があるのではないか、ということです。

コインハイブには、旧来のネット広告に代わる革新的な仕組みという側面があります。このような仕組みが、ある日突然、摘発の対象とされたのでは『新しいものを作ろう』という技術者の意欲が削がれてしまいます。

技術革新には、負の側面が伴うのが常なのですから、法律の解釈も、できる限り、イノベーションを促進する方向で行うことが、社会全体の利益につながると思います」

●CPU借用、どの程度まで認められるかが争点

警察庁は「閲覧者に無断で行われるこうした行為が社会的な合意を得ているとは言えず違法」(6月14日、NHK 首都圏NEWS WEB)などと判断したようです。

「少なくとも、CPU借用に関する限りでは、社会的合意はあると思います。ただ、問題は『どの程度の借用まで認められるのか』という点です。この線引きが困難であることは、先ほども述べました。どの程度まで認められるかという点について、警察が裁判でどう反論するのか、強い関心を持っています。

警察は『当たり前のこととして社会一般が受け入れているネット広告とは状況が違う』(6月14日、NHK首都圏NEWSWEB)とも主張しているようです。しかし、果たして、ネット広告に対する、社会的コンセンサスは得られているでしょうか?

無遠慮に表示される、いかがわしいバナー広告に不快を感じているユーザーは、今でも、少なくないでしょう。そうした中、これに代わる選択肢となりうる技術の芽を摘むような真似をすべきではありません。ユーザーが、ネット広告とコインハイブのどちらを選択するか、長い目で見ていくべきです」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

田中 一哉
田中 一哉(たなか かずや)弁護士 サイバーアーツ法律事務所
東京弁護士会所属。早稲田大学商学部卒。筑波大学システム情報工学研究科修了(工学修士)。2007年8月 弁護士登録(登録番号35821)。現在、ネット事件専門の弁護士としてウェブ上の有害情報の削除、投稿者に対する法的責任追及などに従事している。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライターと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする