愛知県弁護士会が詐欺被害者のために、加害者の転居届けの情報を照会した際、日本郵便に回答義務があるかをめぐって争った裁判で、最高裁は12月21日、「確認する利益がない」として、回答義務について判断を示さず、却下した。判決後に会見した同弁護士会の石川恭久弁護士は「最高裁が司法の役割を自ら限定した」と指摘したものの、下級審の判断から「実務上の影響はない」との見解を示した。
弁護士会照会制度とは、裁判の証拠や資料収集などのために、弁護士の申し出を受けて、弁護士会が対象となる情報を保持する団体等に照会する弁護士法に基づく制度。罰則規定はない。
訴訟は、2011年12月に、被害者の男性と同弁護士会が、回答義務の確認と損害賠償を求めて日本郵便を提訴。2016年10月、最高裁は、損害賠償を認めた名古屋高裁判決を破棄。一方、回答義務については、「審理が尽くされていない」として、名古屋高裁に差し戻していた。2017年6月、名古屋高裁は、今回の転居届けの情報についての回答義務を認める判決を出したが、日本郵便が上告していた。
最高裁は判決の中で、弁護士会照会制度について、「報告を求める私法上の権利を付与したものとはいえ」ないと指摘。報告義務があるとする判決が確定しても「任意の履行を期待するほかないといえる」「紛争解決に資するものとはいえない」とした上で、「(回答義務についての)判決を求める法律上の利益はない」として、確認の利益を認めなかった。
会見に臨んだ石川弁護士は、「確認訴訟の機能を限定的に考えたものにすぎない」と指摘。実際の判断としては、2017年6月の名古屋高裁において、報告義務が日本郵便の守秘義務に優越して報告義務があることをを明言していることを踏まえて、「(回答義務の守秘義務に対する優越が)実体上はっきりした」との見解を示した。実務の運用は「変わらないと思う」と述べた。
石川弁護士によると、2017年の日本郵便に対する弁護士会照会件数は276件あり、うち回答拒否が130件(拒否率:47.1%)。照会全体の拒否率は4%程度で、「日本郵便の拒否率はとても高い」とも指摘した。
日本郵便は「当社の主張が認められたもので結果は妥当。(今後、本件の照会については)適切に対応していく」としている。