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「理想の人体を描きたい」CG児童ポルノ裁判の被告人が語った「聖少女」を描くワケ
裁判が行われている東京地裁

「理想の人体を描きたい」CG児童ポルノ裁判の被告人が語った「聖少女」を描くワケ

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少女の裸体をテーマにした「聖少女伝説」「聖少女伝説2」というCG画像集2冊を販売した50代の男性デザイナーが、児童ポルノ法違反(製造・提供)の罪に問われている裁判の審理が続いている。10月7、8日に東京地裁(三上孝浩裁判長)で開かれた公判では、弁護側による被告人男性への質問が行われ、その経歴や、画像を制作した動機、制作過程などが詳しく語られた。

この裁判では、「画像は、実在児童の写真をトレースなどして作ったもので、児童ポルノにあたる」とする検察側と、「実在しない人物を描いたイラストだから、児童ポルノではない」などとする弁護側が、真っ正面から対立している。

10月7、8日の2日間にわたって行われた被告人質問では、男性の経歴が具体的に語られた。画家の父を持ち、物心が付く前から絵筆を握っていたこと。高校の美術科を経て、美大へ進んだこと。中学時代から写真撮影を始め、美大では写真専攻だったことなど・・・。そして、問題とされた画像について、男性はコンピュータを使って描いた「人物画」だと主張した。

弁護人の山口貴士弁護士は、男性が人物画を描く理由や、どうやって着想を得るのか、どのような手法で制作するのかなどを、詳しく尋ねていった。その様子は、場所が法廷であることをのぞけば、自作品について語るアーティストのインタビューのようにも見えた。

●「人間の肉体は、男女問わず美しい」

男性は、写真と絵画を両方学んだ専門家として、法廷で「絵画と写真は全く別もの」と強調し、次のように話した。

「写真の場合、被写体とまったく違うものが撮れることはありません。一方で絵画は、モデルがいたとしても、自由に発想し、自分の描きたいものを表現できます。

私が取り組んでいるのは、人物画です。人間の肉体は、男女問わず美しい。ヌードを描くのは、その美しい肉体がもっともあらわになっている姿だからです」

それでは、なぜ、男性が「参考とした」としている写真には、未成熟な被写体が写っていることが多いのか——。山口弁護士の質問に対し、男性は次のように話した。

「大人の肉体はバランスが美しく、魅力もあります。しかし、プロの写真家がプロのモデルを撮ったヌード写真は、プロ同士が作成するため、慣れていて技巧もこらされており、予定調和になりやすいものです。

そこに、あらたに私が想像を差し挟む余地がありません。一方で私が参考にした写真はどれも不完全で、私が想像を差し挟む余地がありました。

日本では、1980年代に少女ヌードのブームがあり、写真集が一般にも流通していました。被写体は素人で、自由なのびのびとしたポーズをとっていて、そこには予定調和とは異なる自然さを感じました」

それではたとえば、写真家・篠山紀信が女優・宮沢りえのヌードを撮った写真集『サンタフェ』を絵にしようとは思わないのか——。山口弁護士の質問に対し、男性は次のように答えた。

「思いません。『サンタフェ』はテーマがしっかりと設定され、構成され、完成された世界が、すでにあるからです。そこに私が想像を挟む余地はありません」

●「空想の写真撮影会」を頭の中で繰り広げる

今回問題とされた「聖少女伝説」は、どういった理由で作り始めたのか。男性は次のように話した。

「私が人物画を描くのは、理想の人体を描きたいからです。『聖少女伝説』に掲載した絵の制作には、2000年代中頃から取り組み始めましたが、そこでやりたかったことは、理想の人体を描くことです。特定の女性の人体を再現しようというものではありません。

正面からみた女性の人体は、乳房の立体感、へそのくぼみ、下腹部の膨らみから股間に落ち込んでいく、連続した面の美しさがあります。

たとえば乳房は、女性の身体のパーツの中でも、重しのような役割があります。陰部は腹から尻までの傾斜で、身体の立体感の橋渡しをするものです」

男性は、1980年代に出版された少女ヌード写真集などを参考にして、画像を作っていたという。制作はどのように着想したのだろうか。

「『聖少女伝説』シリーズを作ったときは、自分の頭の中に空想上のスタジオを作り上げ、そこに理想のモデルを登場させ、想像上のカメラにうつる光景を写し、そのイメージを絵として表現しました」

男性は、理想的な環境のもと、理想的な体つきのモデルが、理想的な表情で、理想的なポーズをとっている姿の写真がイメージできるまで、つまり「理想の一枚が思い浮かぶ」まで、時には数百回も、空想上の写真撮影を続けるのだという。そして、その空想上の理想のイメージを、絵として具体化したのだという。

ただし、イメージが思い浮かんだからといって、それを絵として完全に再現できるわけではなく、絵にする際にはどこかで妥協することになる、という。それはあたかも「鮮明な夢が、目覚めたとたん、霧散してしまうような感じに近い」と、男性は説明した。

●50以上のレイヤーを重ねて1枚の画像を作る

法廷では、男性が「参考にした」という写真や、男性が「描いた」という画像が何度も示された。傍聴席には一切見えないような形だったが、法廷でのやり取りなどからすると、男性が「参考にした」という写真の被写体の顔と、画像に登場する女性の顔は、よく似ているようだ。

その点について、男性は「顔には記号性があります。誰かの顔に近づけないと、顔として成り立たないと考えています。漠然とした顔だと、イメージもぼんやりしてしまう」と説明した。

それでは、男性のいう「参考写真」は、画像を制作するうえで、どういった意味を持っていたのか——。

男性は「理想的な人体を描くきっかけです」と話した。画像は、頭の中のイメージをイラストとして描こうとしたもので、「写真のトレースは、一切していない」と話した。

男性は画像1枚の制作につき、50枚以上のレイヤー(層)を作成し、一枚一枚、自ら描いているという。画像1枚の制作には1カ月〜半年かけたとしていて、「単なるトレースならそんなに時間をかける必要がない」と主張した。

画像ひとつにつき数十枚に及ぶレイヤーの中には、参考とした写真にはうつっていない「血管」や「毛穴」などの描写もあるという。男性は「肌の色むら、毛穴、血管、筋肉、身体の細かいシワ、セルライト、肌の質感も、全部自分の想像で描いた。他の人の作ったレイヤーをコピーしたものはないし、特定の女性の人体を再現しようとしたものはない」と話した。

●参考写真と画像は「同じ」なのか、「別もの」なのか?

男性は証言台で、「参考にした写真」と「自らが制作した画像」を見比べ、さまざまな違いがあると指摘した。

「参考写真と画像では、表情、影の付き方、乳房、腹部の筋肉、陰部、肌の色が違う。画像のほうが、プロポーションのバランスが良く、成人のように見えます」「参考写真と画像では口元が明らかに違う。乳房は、量感や立体感も異なり、画像のほうがより球形に近いし、大きい」

また、男性が描いた画像には、写真にない、網の目のような血管も描かれているという。その理由について男性は、「理想的な人体に、より説得力を持たせるため、立体感の表現として描いた」という。

男性の主張によれば、画像を描くときに、顔と胴体で、それぞれ別の被写体の写真を参考にしていたことも少なくなかったようだ。

男性は、ある一枚の画像について、「参考写真を見て、遠くを見る目つきが印象に残った。この表情のイメージで全身像を作りたいと思った」と、制作経緯を語った。

また、別の画像については「被写体の笑顔に魅力を感じたが、参考写真は暗いし下半身もないものだった。写真の撮影風景を想像していたら、頭の中に全身像のイメージが浮かんできた。そのイメージを描いた」と話した。

法廷でのやり取りによると、参考写真は被写体が右側を向いているが、男性が作った画像は正面を向いているとか、参考写真は被写体が水着を着ているが、画像は裸体であるとかいったケースもあるようだ。

弁護団によると、男性が参考にしていた写真の中には、明らかに成人のものもあり、そのうちの一つは、今でもネット上で購入が可能だという。また、アジア系とヨーロッパ系など、人種の異なる被写体の写真を参考にしながら、1人の人物を描いたケースもあったという。

弁護側は「そんな人間は実在しない」と話していた。

●取調調書について「そんなことは言っていません」

男性は「聖少女伝説」「聖少女伝説2」の2冊について、同人誌を専門に扱う書店に、販売を委託していたが、その際には同書店の基準を守るために、陰部にモザイクをかけていたという。そして、基準を守っていたので、「違法にあたるという考えはなかった」と話した。

一方で、検察側が証拠提出した取り調べ段階の調書などでは、男性は少女の写真をトレースしたり、加工して組み合わせるなどして、画像を作成したと供述したことになっていた。

このような点について質問されると、男性は「そんなことは言っていません」を連発。「私は参考写真と言ったのに、刑事に『結局素材なんでしょ?』と言われ、調書には素材だと書かれた」などと話した。

また、参考にした写真の被写体について、「モデルは何歳などと供述したことはない。そもそも本名も年齢もわからない」と話した。

男性は調書について「調書に署名をすることが、どんな意味を持つか、恥ずかしながら知りませんでした」「取り調べの際、『抵抗していると出られないよ』と言われました」などと主張していた。

被告人質問は、次回(10月29日)以降の公判でも、引き続き行われる予定で、検察官からの質問も予定されている。

(弁護士ドットコムニュース)

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