世界各国で大麻解禁の動きが目立っている。ウルグアイで昨年、大麻栽培が合法化されたが、アメリカのコロラド州では今年、嗜好品としての販売が解禁された。オバマ大統領が「私も吸っていた」と発言したことも記憶に新しい。
一方、日本では依然、厳しい規制が敷かれている。福井県警は9月、「大麻を栽培しようとした」として30代の男を逮捕し、種子80粒と栽培用の道具や書籍など計100点を押収した。報道によると、道具はいずれも使われておらず、種子も発芽を防ぐため、冷蔵庫で保管してあったという。
逮捕された男は、栽培の準備をしていただけで、栽培まではしていなかったようだ。男の容疑は「大麻栽培予備」とされているが、準備をしただけでも、罪に問われるのだろうか。刑事事件にくわしい中村勉弁護士に聞いた。
●準備行為を処罰する「予備罪」という類型
「大麻栽培の場合、準備行為そのものが犯罪とされています。
このように、ある行為だけではなく、その準備をすることを処罰することがあるのですね。準備行為を処罰する犯罪のことを、『予備罪』と呼びます。
予備罪は、犯罪が実現してしまっては手遅れとなる重大犯罪、たとえば放火罪や殺人罪、強盗罪などで定められています」
準備をしたらダメというのは、すべての犯罪に当てはまるわけではなくて、一部の重大犯罪に限られるようだ。
●何をやったら大麻栽培の「予備罪」になるのか?
それでは、大麻栽培の予備罪とは、具体的にはどんな行為なのだろうか。
「栽培とは、種まきから収穫にいたるまでの育成行為をいいます。栽培の『予備』は、その準備のことですね。大麻を栽培するつもりで、照明器具、植木鉢や用土、栽培マニュアル、大麻の種子など、栽培に向けて必要なものを取りそろえる行為がこれに当たります。
これまで予備罪の段階で刑事事件になることは、そう多くはありませんでした。しかし、ちかごろは大麻種子がネットを通じて販売され、大麻草を栽培する例が増えています。このことから、大麻種子の入手段階での規制が重要だと考えられるようになってきています」
しかし、そんなに簡単に栽培できるものなのだろうか。
「大麻は自生が可能であるため、種子がありさえすれば、発芽させるのはさほど難しくありません。ですから、大麻の害悪の拡散を未然に防止するには、種子の所持段階で規制しなければならないのです」
たとえば、種の鑑賞やコレクションが目的で、種を持っているだけでも、罰せられるのだろうか。
「いいえ。栽培するためではなく、鑑賞を目的として大麻種子を入手・所持した場合は、刑罰に触れません。
しかし、鑑賞目的だけで種子を購入することは、一般的には考えにくいですよね。
捜査機関も、いくら当人が『栽培する意図はない』と主張しても、照明器具や植木鉢、肥料、栽培マニュアルを用意するなど栽培目的が疑われる場合は、栽培予備罪で摘発する方針で臨んでいます」
そんな言い訳は通じない、ということだ。肝に銘じておいたほうがいいだろう。