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マクドナルド従業員が「7億円」着服報道、会社が取り返すことは可能か?
マクドナルド店舗(2019年10月、弁護士ドットコムニュース撮影、東京都港区)

マクドナルド従業員が「7億円」着服報道、会社が取り返すことは可能か?

日本マクドナルドの従業員が、約7億円を着服していた疑いが発覚した。報道によると、財務担当の従業員が、会社から持ち出した小切手を換金して着服したとして、業務上横領の疑いで10月4日、警視庁に逮捕された。

会社の口座から、7億円近くが換金した記録があり、警視庁は、この従業員が着服を繰り返していたとみている。

この従業員は、「FX取引に使った。借金があった」と供述しており、3000万円の着服についても、その日に2000万円をつぎ込んでいたという。

今後、7億円の着服が判明した場合、会社は従業員に対して、返還を要求することができるのか。また、7億円も失うことになれば、会社としての損失も大きい。株主が会社に対して、責任を問うことも可能なのか。今井俊裕弁護士に聞いた。

●損害賠償請求は可能だが・・・

「着服した金額についてはまだ確定していないようですが、仮に7億円の金額を着服していたとするならば、原則として、その全額について着服横領した者に対して損害賠償請求できます。

しかし、実際のところ、十分な回収の見込みは薄いでしょう。既に金が、使われている可能性が高いからです。回収が困難または事実上不可能な債権に過ぎません

金が渡った先が、着服をそそのかしたり、支援をしたりしていれば、横領の共犯となる可能性もあり、民事でも損害賠償請求することは可能でしょう。

また、そうでなかったとしても、日本マクドナルドから横領した金銭を自身の借金を返すために債権者へ支払った場合、債権者が横領の事実を知っていたかどうかに関わらず、重大な過失があれば、不当利得返還請求ができる可能性もあります。

ただ、単にこの従業員がFXにつぎこんだだけ、となると取り返すことは難しいでしょう」

このような事態を防げなかった会社側の責任はないのか。

「事実関係が不明なので、何ともいえませんが、仮に役員の注意義務違反によって会社に損害が生じたのであれば、その会社の株主が責任を追及する訴えを提起できます。いわゆる株主代表訴訟です。

もちろんいくつかの要件があります。日本マクドナルドの場合、その株主は日本マクドナルドホールディングスだけであり、いわゆる完全親会社です。

この場合は、(1)その子会社の株式の簿価が親会社の総資産の5分の1を超えている場合で、(2)株主がその親会社の株式や議決権の1パーセント以上を6カ月前から保有しているとき、に子会社の役員の責任を追及する訴えを提起できます。いわゆる多重代表訴訟です。

着服した時点での日本マクドナルドホールディングスの財務状況はわかりませんが、先ほど説明した(1)の要件を満たしていないのではないでしょうか。また、日本マクドナルドホールディングスの株主構成をみても、一般の投資家で1パーセント以上の株式を保有している株主はいないようです。

結局、役員の注意義務違反によって会社に損害が生じたとしても、親会社の株主が子会社の役員の責任を問うことは難しい可能性が高いでしょう」

プロフィール

今井 俊裕
今井 俊裕(いまい としひろ)弁護士 今井法律事務所
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。

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