土井 浩之 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
中学3年のとき、公民の授業で国選弁護士という制度があると知ったことがきっかけです。国選弁護は、経済的に不利な立場の人を救うすばらしい仕事にも関わらず、弁護士は積極的に引き受けない傾向にあると聞いて、それならば私が経済的格差を跳ね返す弁護士になってやろうと思ったのです。
といっても、自分自身が弁護士になるまで他の先生に会ったことがなかったので、弁護士の具体的なイメージは持てていませんでした。弁護士になって20年経つ今でも、自分がどんな弁護士なのか、という客観的なイメージがつかみきれていないように思います。
ただ、自分がどうなのかは置いておいて、「こうあるべきだ」という理想の弁護士像ははっきり抱いています。それは、ただ事件を解決するだけでなく、事件の背景にまで思いを巡らせることのできる弁護士です。
貸金事件にしても刑事事件にしても、ただ債務整理や裁判を済ませればいいというわけではありません。どうして返せないほどのお金を借りてしまったのか、なぜ罪を犯してしまったのか、という事件の背景を探り、その部分を解決してこそ始めて、二度と同じことを繰り返さないような新しい人生のスタートが切れると思っています。
今までの経験と現在の仕事内容
様々な分野の事件を扱ってきましたが、その中でも、労災事件を比較的多く扱ってきました。労災事件は、過労自殺、過労死といった「人が人を追い込む」やるせない事件です。
労災の問題は、行政の場でもよく取り上げられる話題ですし、ある程度マニュアル化もされてきています。しかし、人がひとり亡くなるということは、管理された法律やマニュアルに当てはめて割り切れるものではありません。
もちろん、そういったシステム的な面からのアプローチも必要なのですが、実際に遺族の方の悲しさや苦しみを間近で見ている身としては、納得できない部分もあります。労災問題の実態と法律要件との狭間には、心を砕いてきました。
また、労災事件被害者の遺族の方たちの会の運営もしています。これは、大切な家族を亡くされた方が、その悲しみのまま孤独になってしまわないように、少しずつ緩やかなコミュニケーションを築ける場をつくりたいという思いからつくったコミュニティです。
悲しみを抱えているときに、同じ悲しみを体験していない他人がいくら言葉で励ましてもなかなか心に響かないものです。それよりも、同じ状況の人と話すほうが、「自分も前を向いて生きていけるかもしれない」と思って頂けるのです。
これは私も驚いたことなのですが、遺族の方同士は、皆さん初対面でもすぐに打ち解けるのです。まるでずっと以前から知り合いだったようにお互いのことを話し、その悲しみを共有し、励ましあっています。こうした、遺族の方の悲しみを明日につなげる方法は、これからも積極的に提供したいと思っています。
印象に残っている案件(事件)
印象に残っている労災事件が、ふたつあります。
ひとつは、ある女性が自殺した事件です。大学を卒業し、就職して1年も経たないときに自殺をしてしまった事件だったのですが、彼女の友達が、彼女が亡くなる直前に職場の話をしていたことが大きな証拠となり、労災申請が認められました。
亡くなった人はもう帰ってきませんが、彼女のお母様が、「これから社会にでて働く妹もいるので、国が労災を認めてくれて安心した」と仰っていたのが印象的でした。
もうひとつは、自分の友人が自殺した事件です。彼は小学校からの友人で、私が知る限り、亡くなるまで働いたり、ましてや自ら死を選ぶような性格ではありませんでした。最初は、「何故彼は死んだのだろう」「そんなことするはずないのに」と納得のいかないことだらけでしたが、いろいろ調査を進める中で、彼が徐々に追い込まれていった状況がわかってきました。
これならば、あの彼が追いつめられてしまったのもわかる、と納得する一方で、それほどまで辛い思いをしていたのかと思うと、悔しくなりました。
労災問題はどうすればなくなるか
労災問題を根本的になくす為には、労災問題の背景、つまり、社会全体としての経済や雇用の問題を改善する必要があります。しかし、法律や制度のしくみなどを見直さなければいけないので、とても時間がかかってしまうのも事実です。
私が、今まで様々な事件に関わってきた中で感じたことは、労災事件に対して、「人を追い込むことはやめよう」と抑止の声を呼びかけてもあまり効果がないということです。人を追い込んでしまっている本人は、視野が狭くなってしまい、自分が人を追い込んでいるという意識がなく、「やめよう」と言われてもぴんと来ないのです。
そこで、私は「もっとお互いに助けあおう」「職場は楽しい場所であるべきだ」という呼びかけをするようにしています。同僚との温かい関係や、助け合いに喜びを感じることこそが、自分の行為を見つめ直すきっかけになります。当たり前のことと言えば当たり前のことなのですが、労災の問題は、こうした「当たり前」が見えなくなったときに起きてしまうものなのです。
労災問題はすぐになくなるものではありませんが、これからも積極的に、「人が人を追い込む社会」から「人が支えあう社会」への転換を促していきたいと思っています。
弁護士としての信条・ポリシー
相談に来られる方は、精神的に大きな負担を抱えていらっしゃる方です。その負担を、私の所に来て頂くことで少しでも軽くしたいと思っています。ましてや、弁護士が依頼者の方に怒ったり、プレッシャーをかけたり、追い込んでしまうようなことは絶対にあってはいけないことだと肝に銘じています。
また、「弁護士を目指したきっかけ」でもお話しましたが、あらゆる事件には、必ずその理由となる背景があるという視点を忘れないようにしています。万引きひとつとっても、それはただの出来心ではなく、何か理由があったはずです。表面的な事件の内容を聞き取ればいいのではなく、何故その事件がおこってしまったのか、という深い部分までお話し頂いて始めて、本当の解決に近づきます。
といっても、依頼者の方が私に対して不信感や不安を抱いていては、お聞きできるお話も限られてしまいます。あるPTSDの研究でも立証されていることなのですが、「不安」は漠然としていて曖昧な状況が生み出すもので、「安心」は具体的な行為や言葉から生まれるものです。
依頼者の方に心を開いて全てをお話しして頂くためには、まずこの「安心」を感じてもらうことが大切です。そのためにも、私から積極的に声をかけ、共感できる部分には共感の意を示して、信頼関係を築くようにしています。
関心のある分野
やはり、人と人との間に生じる問題に関心があります。労災の問題ももちろんそうなのですが、他にも、学校でおきる事件や離婚事件もこれにあたります。特に、お互いの漠然とした不安がお互いを傷つけたり、コミュニケーションを阻害したりしてしまう夫婦間の問題には、ライフワーク的に取り組んできました。
また、交通事故の問題にも関心があり、交通事故紛争処理センターでの活動もしてきました。特に、当事者がお互いに「100%相手方が悪い」と主張し合っているような事件の示談を多く扱ってきました。両者の自尊感情を傷つけないように言葉を選びながら説得し、「自分は絶対に正しい」と思っていらっしゃる気持ちをほぐしていきます。これも、少し形は違いますが、人と人の間に起きる問題と言えるかもしれませんね。
(2013年2月インタビュー実施)