
家庭裁判所調査官の経験をもとに、トラブルの「調整」に強み〜様々な事件、特に離婚、企業顧問に注力する
商学部から法学部へ。家庭裁判所調査官を経て弁護士に
ーー弁護士を目指したきっかけを教えてください。
弁護士になる前は、家庭裁判所調査官という仕事をしておりました。およそ17年あまり勤務したのちに弁護士へ方向転換をしました。
法律に関心を持ったのは大学生の頃です。商学部に入学したのですが、法律を通した人々の暮らしや錯綜する人間関係上のトラブルの解決方法を考えたいという興味が湧き、3年時に法学部へ転部し、卒業後は家庭裁判所調査官の道に進みました。
家庭裁判所調査官は、離婚をはじめとする家事事件や、非行少年の心理を扱う少年事件など、家庭裁判所で取り扱う事件の調査を行う仕事です。職務を遂行するうえで、心理学や精神分析、教育学、社会福祉などの専門知識を必要とし、日々活用します。
例えば、離婚問題では夫婦やその子どもと面接して心情を聞いたり、心の深層に深く眠っていた事件の問題点や要衝などを探したりし、裁判官に報告したりします。また、調停がスムーズに進むように、悩み苦しむ方々のお話をじっくり聞き、時には面接技法やカウンセリング的関わりなどを用いながら、心理的な援助をすることもあります。
仕事をしていく中で、世の中のトラブルは心のすれ違いや気持ちの読み間違い、相互理解の不足などが原因で起こるものが多いことを実感しました。そして、もっと当事者に寄り添った問題解決に取り組みたいと考え、弁護士を目指すことにしました。
人と人との間を埋める「調整」を通してより良い解決へ導く
ーー注力分野を教えてください。
現在は、栃木県で法律事務所を開業し、さまざまな相談に対応しています。これまで長年培った知識と経験が生きやすいものとして注目し、取り組んでいるのが、大きくは離婚問題や企業の顧問弁護活動です。
家庭裁判所調査官の時代から、人と人の心の深層を考え、その間を埋める「調整」を得意としていました。弁護士の業務でも調整はとても大切であり、裁判や調停、交渉、面談相談等、毎日のように業務で行っていることです。例えば、離婚トラブルでは、裁判になる前の段階で、依頼者の気持ちや相手の姿勢を考えながら合意点を探ります。相互の折り合いをつけることが重要なため、常に諦めず、粘り強さと調整力で対応しています。
企業の顧問弁護活動も同様で、企業内の人事上の問題や企業同士の対立などにおいて、働く人たちの苦労や契約交渉に携わった方々の熱意や思い等を調整しながら進めています。
ーー仕事をするうえで心がけていることはありますか。
全ての事件対応にて、私が必ず守っていることとして、相談の際、時間を気にせず、依頼者の話をしっかりうかがうことを心がけています。法律上のトラブルは、人と人との間の感情や背景事情等が複雑に絡むものです。インターネットで調べれば、一般論的な解決策が見つかるかもしれませんが、本来、トラブルの解決策は一人ひとり異なります。
具体的な事実を把握するためにも、じっくり話を聞き、法律に照らし合わせたうえで「あなたの場合にはこういう解決策がありますよ。その場合のメリットとデメリットはこうですよ」等と解決策の提案や豊富な選択肢をお伝えするようにしています。
弁護士は、日々裁判や調停などの時間に追われる仕事ですので、本当ならもっと時間の制約を気にしながら、人と話をするべきかもしれません。しかし、私は、法律的な解決とともに、心の納得や理解こそが本質的な解決のための大事な一歩だと思っております。常に、じっくり話をうかがう姿勢を基本にし、守りたいと思っております。
ーー弁護士として活動してきた中で、印象的だったエピソードを教えてください。
以前担当した事件で、残念ながら、裁判で敗訴したことがありました。そのときの依頼者が「負けたけれど、最初から元々難しい裁判を先生は、勝つために頑張り続けてくださった。私はもう憂いも心残りもありません」と言ってくださったのです。とてもスッキリした顔をされていて、勝訴には至らなかったのに、なぜそんなふうに声をかけてくださるのか不思議でした。
聞いてみたところ、「先生は、元々私側に裁判で有利な強い証拠がないことが分かってても、その弱みから逃げず、そこをしっかり手当てしようと言ってくれて、できるだけ勝ちに繋がりそうな小さな証拠でも積極的に集めようとしてくれたから」と教えてくださいました。依頼人にじっくり時間を掛け、様々な質問をして証拠となりそうなものを探し、わずかな証拠でも多くを積み上げて総力戦で戦おうとする私の姿を見て、「こんなにやってもらえたのだから、もう十分」と思ったそうなのです。
弁護士として、裁判は証拠主義であることは分かっておりますが、真実は当方側にあるのに、証拠の不十分さだけで負けるのは悲しいことです。証拠が弱いとしても、論理や法律にのせ、精一杯裁判で争うのが弁護士の仕事です。しかし、依頼者にとって、裁判の勝ち負けがすべてではないこともあります。依頼者が裁判を通して納得できる気持ちが得られるかが大事なんだということを教えていただきました。その経験から、私は、常に人のお話の中に何か重要で裁判上使える何かがあるのではという思いを持ち、その大切なことを見逃さないようにしっかり話を聞き、依頼者を理解する気持ちを失わないようにしたいと思っております。
ーー先生ご自身が思う強みは何でしょうか?
家庭裁判所調査官の職務を通じて身につけた、心理学や教育学などを用いたアプローチができることが「強み」といいますか、私の「個性」のように思います。また、それとともに、私が裁判所で長く働いていたため、裁判所で働いている裁判官や職員の対応や心理が分かりやすいことも、私の弁護士としての特異で大きな特徴だと思います。私が依頼者の方々を見ていると、裁判所は一様に怖い存在で、その裁判所の対応の一挙手一投足に何らかの意味や含みがあると思い、様々な不安や懸念を抱くことが非常に多いです。しかし、私は、時には、「裁判官の発言にはこういう理由があるから、あまり心配いりませんよ」「この調停の流れややりとりは、あなたにだけ不利益なものではなく、裁判所が双方を公平に扱った結果のものだから、安心してください。」等と言って依頼者の不安を減らすことができるなど、前職の経験が活きていると日々実感しております。
相談に来られた方の気持ちや背景を思いながら話を伺う
ーー趣味や休日の過ごし方について教えてください。
趣味というと悩ましいのですが、私は、元々カレーが好きで、特に、まろやかな甘みと深みがある「欧風カレー」はとても気に入っています。カレーの食べ歩きが楽しくて、東京の高等裁判所に出向いた時には、神保町や銀座、日本橋等に寄って欧風カレーを食べています。休日には、ドライブをしたり温泉に行ったり、那須にあるカフェに行ったりしています。
ーー今後の展望を教えてください。
今と変わらず、地元のみなさんの依頼を受け、自分の個性を最大限生かし、一つ一つのことを丁寧に対応していきたいと思っています。私自身が、仕事の慣れや忙しさなどによって、自分が大切にしてきた、じっくりお話をうかがう姿勢を失っていないか、常にチェックしながら、自分を律していきたいと思っています。
また、人と人との調整が好きですので、人の繋がりを大事にしながら、顧問となる企業の開拓にも力を入れています。企業の顧問弁護士となることの醍醐味は、通常就職しないと分からないような世界を知り、そこで一生懸命働く方々の熱意や業務の取り組みに触れ、感動することができる点です。そこに自分の力を存分に発揮し、企業の安全を守り、発展を果たす支援を行うことができることが、非常に光栄に思います。そのため、常に企業の方々に必要とされるべく、日々自分の研鑽を積んでおります。
ーー法律トラブルを抱えて悩んでいる方へ、先生からのメッセージをお願いします。
私はどんな相談であっても、小さな悩み事と過小評価をして話を聞くことは決して致しません。相談に来られる方が弁護士にたどり着くまでに、どれほどの葛藤と不安を乗り越えてきたか。弁護士に会うこと自体、どれほど緊張する大変なことか。依頼者の方々は、このようなことを乗り越えて今私の目の前にいらっしゃっているということを常に忘れず、その思いを受け止め、丁寧にお迎えしたいと思っております。
依頼者がこれまで悩み苦しまれてきたお気持ちをしっかり想像し、理解しようとする弁護士であり続けたいと思っております。私は、そのような相手への敬意を忘れない心構えで、お待ちしたいと思っています。