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2017年09月21日 09時18分

「サルの自撮り」著作権訴訟は何をもたらした? 日本でもあった「動物の権利」裁判

「サルの自撮り」著作権訴訟は何をもたらした? 日本でもあった「動物の権利」裁判
サルの自撮り写真

インドネシアのジャングルで撮影された、サルの自撮り写真をめぐり著作権が争われていた裁判で、自撮り写真を撮影したカメラの所有者である写真家の勝訴が9月、確定した。問題の写真は、イギリス在住のカメラマンのカメラを使い、マカクザルの「ナルト」が2011年、自撮りをしたものだとされている。

今回の裁判で、アメリカの動物愛護団体「動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA)」は、著作権はナルトにあるとして、訴えていたが、アメリカの裁判所は動物に著作権保護は適用とされないと判断していた。PETAが上訴を断念したことから、2年に及ぶ訴訟に決着がついた。

この有名な自撮り写真を記憶している人も多いだろう。日本で同じような裁判が起こされたらどうなるのか。今回の裁判の意義について、冨宅恵弁護士に聞いた。

●日本でもあった「原告は動物」という裁判

「動物に権利があるとして動物愛護団体などが訴訟を提起することは、アメリカに限られた特異な事例ではありません。日本でも1995年、奄美の『クロウサギ』、水戸の『オオヒシクイ』など、開発で生存を脅かされた動物に代わり、動物愛護団体などが動物を原告として、動物の生存権を主張して、開発の差止めを求める裁判が起こされたことがあります。

しかし、日本では『クロウサギ』も『オオヒシクイ』も、訴訟を訴える資格がないとして訴えが却下されています」

何故、裁判所は訴えを却下したのだろうか。

「そもそも、法律は『人』を対象としたものであり、法律で確認され、あるいは認められる権利が帰属するのは『人』だけです。

『動物の愛護及び管理に関する法律』では、動物の虐待が禁止されていますが、それは動物に『人』から虐待を受けることのない権利があるからではありません。社会に動物を愛護する気風を作り、生命尊重、友愛及び平和の情操を『人』に涵養させる(身につける)ことを主な理由として禁止されているのです。

このように、法律では、動物は『物』として扱われ、『人』に生命尊重などの情操を涵養させる(身につける)ことを目的とした法律のもとで、結果的に保護される存在にすぎません」

●著作権法は適用されない?

著作権法上は、どのように判断されるのだろうか。

「日本の場合、著作権法によって保護される著作物とは『思想又は感情を創作的に表現したもの』と定義されています。思想を抱くのは『人』だけですし、感情を創作的に表現することができるのも『人』だけですから、日本の著作権法が『人』だけを対象とした法律であることが確認できます。

また日本では、著作権法で保護される写真は、被写体の選択、組合せ、配置、構図、カメラアングルの設定、シャッターチャンスの補足、被写体と光線との関係、陰影の付け方、色彩の配合、部分の強調・省略、背景等について、撮影者の個性が表現されたものでなければなりませんので、動物が写真の著作権を取得するということはあり得ません。

日本とアメリカとでは、著作権法によって保護される著作物の範囲や、著作権法によって保護される写真の範囲に違いがありますが、動物が著作権を取得することがないという点では共通しています。

ですから、アメリカにおいても、一審、二審を通じて『マカクザル』が著作権を取得することはないという裁判所の考えが示されました」

●裁判の意義とは

そもそも勝ち目のない訴訟だったようにも思える。それでも訴訟を起こした意義はあるのだろうか。

「動物に生存権や著作権が認められないからといって、訴訟を起こすことが全く意味のないことかというとそうではありません。

日本の『クロウサギ』も『オオヒシクイ』の例でも、報道機関が取り上げたことで、人間の動物に対する支配を考え直そうという気運が高まりました。勝訴とならなくとも、法律による強制ではなく、『人』が自発的に自重するという効果が期待できます。

今回の『マカクザル』の例でも、写真家が動物を愛護する立場にあることも影響してか、訴訟を起こした効果が形になって現れています。裁判所から『マカクザル』に著作権がないとの判断が示されているにもかかわらず、写真家が写真で得た収益の25%を『マカクザル』の生息圏保護に取り組む団体に寄付すること、訴えた動物愛護団体とともに、人間以外の動物の権利拡大を支持し、この目標の実現に向けてそれぞれ努力することを約束しました。

動物が権利を取得するということは当面ないとは思いますが、今回のような訴訟を通じて、環境や動物保護への取組みが活発化するという効果が期待できるのではないでしょうか」

(弁護士ドットコムニュース)

冨宅 恵弁護士
大阪工業大学知的財産研究科客員教授
多くの知的財産侵害事件に携わり、プロダクトデザインの保護に関する著書を執筆している。さらに、遺産相続支援、交通事故、医療過誤等についても携わる。
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