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「清武本」裁判で出版社敗訴――読売社員の不法行為を認めつつ「請求権は時効で消滅」
読売新聞側との出版契約書を見せながら記者会見する中里英章・七つ森書館社長

「清武本」裁判で出版社敗訴――読売社員の不法行為を認めつつ「請求権は時効で消滅」

元読売新聞記者・巨人球団代表で2011年に「清武の乱」を起こした清武英利氏がかかわった書籍をめぐる裁判の判決が12月5日、東京地裁であった。同書の復刻版を出版しようとしたが、読売新聞東京本社の差止請求によって実現できなかった出版社「七つ森書館」(中里英章社長)が、読売側の契約担当者だった社会部次長(当時)と読売新聞を相手取って、損害賠償を請求していた。

東京地裁の原克也裁判長は、社会部次長が出版契約を締結する権限がないのに、権限があるかのように見せかけて七つ森書館と出版契約を結んだとして、その不法行為責任を認めた。しかし、それによって生じた損害の賠償請求権は「時効」によって消滅しているとして、原告の請求を退けた。同じく、読売新聞の使用者責任についても、時効が成立しているとして、原告の請求を棄却した。

七つ森書館の中里社長は判決後に記者会見し、「こんなことがまかり通ったら、社会が回らない。不当な判決なので、控訴する」と話した。

●前の裁判で「出版契約」が無効と判断された

問題になった書籍『会長はなぜ自殺したか』はもともと、清武氏が社会部次長時代にチームを率いて、当時の金融不祥事を取材し、書籍にまとめたもの。1998年に新潮社から「読売新聞社会部」という著者名で刊行されている。

判決文によると、その復刻版の出版を企画した七つ森書館は2010年、読売新聞のホームページを通じて申し入れた。これを受けて読売新聞は、清武氏の元部下で、執筆者の一人だった社会部次長のH氏に連絡。七つ森書館とH氏とのあいだで契約に関するやりとりが行われ、2011年5月に契約書が作られた。

ところが、読売巨人軍の球団代表だった清武氏が同年11月に記者会見を開いて、読売新聞グループ本社の渡辺恒雄会長が巨人のコーチ人事に介入したと告発したことで、状況が一変。読売側は清武氏を解任するとともに、清武氏がかかわった本の出版を阻止しようと動いた。

読売新聞の法務部長らは2011年12月、七つ森書館を訪れて、「(弁護士から)出版契約の有効性に疑義があるとの指摘を受けている。仮に出版契約が有効だとしても、金銭的補償を伴う解約をしたい」と申し入れた。

七つ森書館がこれを断ると、読売新聞は出版差止を求める訴訟を起こした。その訴訟で、東京地裁は「H氏には出版契約を締結する権限が与えられていなかった」として、出版契約は無効であると判断し、読売側の差止請求を認めた。つづく、知財高裁、最高裁も同様に判断し、七つ森書館の出版差止が確定した。

●不法行為の損害を一部認めたが・・・

そこで、七つ森書館は、H氏が無権限であるにもかかわらず、それを隠して契約の締結手続を進めたことによって損害を受けたとして、H氏に対して不法行為にもとづく損害賠償を請求した。また、読売新聞に使用者責任があるとして、損害賠償を求めた。

今回の東京地裁判決は、H氏が権限がないのに七つ森書館と出版契約を結んだと認定し、その不法行為責任を認めた。ただ、「清武の乱」の後に、読売新聞の法務部長が七つ森書館を訪れ、「出版契約の有効性に疑義がある」と指摘していたとして、それ以前に生じた損害(本の装丁費など約13万円)についてのみ、H氏の不法行為との因果関係があると認定した。

ところが、不法行為にもとづく損害賠償請求権は、被害者が損害と加害者を知ったときから3年で、時効によって消滅するとされている。東京地裁は、2011年12月読売新聞の法務部長が訪れたときに、七つ森書館は「損害と加害者を知った」のだとして、その3年後に時効が成立したと判断した。同じく、読売新聞の使用者責任についても、時効で消滅しているとした。

中里社長は記者会見で、H氏と結んだ契約書を見せながら、「こういうことが世の中でまかり通ったならば、契約社会が成り立たない。判決は極めておかしいと思っている」と述べ、控訴する意向を表明した。

また清武氏は、中里社長を通じて「判決文を読んでいないので詳細は不明ですが、良質のノンフィクションを残したいという出版社の善意がこうも裏切られたことに驚きを感じています」というコメントを発表した。

(弁護士ドットコムニュース)

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