日常生活にある人権侵害を見落とさない、弱い立場に置かれた人たちに常に寄り添う
悲劇から生まれた弁護士への志
ーー弁護士を目指したきっかけを教えてください。
漠然とではありますが、弁護士になりたいという気持ちが芽生えたのは、小学校3年生のときでした。県内の在日コリアンの中学生がいじめに耐えきれず自らの命を絶ったという出来事がきっかけです。
その事件を知った私は、もし自分がそこにいたら、彼を助けてあげられたかもしれないと強く思いました。まだ小学生だったので、単純に人を守るなら弁護士、と結びつけたのかもしれません。
ともかく、そのころから弁護士になりたいという思いは頭の片隅にあり、自然と弁護士の道を目指すようになりました。また、当時の在日コリアンのコミュニティーの中では、一般企業への就職はなかなか難しかったため、生計を立てるためには何らかの資格を取る必要があるという意識が強かったです。
どんな事件でも、人権侵害に発展しうる
ーー注力分野を教えてください。
所属している武蔵小杉合同法律事務所が人権問題に注力しているということもあり、私も人権問題には注力しています。事務所のある川崎市には在日コリアンの方が多く住んでいて、いわゆる差別やヘイトスピーチの被害に遭う方が少なくありません。
確かにヘイトスピーチは、明確な人権侵害ですが、人権侵害はさまざまな場面にあふれています。弁護士の仕事全般に関わってくると言えるでしょう。例えば離婚問題ひとつとっても、多くの女性が精神的、経済的に困難な状況に追い込まれています。それもまた一種の人権侵害と言えるでしょう。
ーー人権侵害というと遠い問題のように思えますが、身近なところにもあるんですね。
そうなんです。それと同時に、大きな制度的な側面を変えなければ守れない人権もあります。ヘイトスピーチ条例がよい例です。川崎市では古くから在日コリアンに対するヘイトデモが激しく行われていたという実情があります。このような問題に取り組み、学校などで講演をしたり条例や制度を変えていくためのアプローチをすることも弁護士の仕事です。
「先生のおかげで自殺をせずにやり直せた」その一言が弁護士のやりがい
ーー今までで一番心に残っている、印象的なエピソードはありますか?
具体的な内容はお話できないのですが、とても追い詰められて苦しい状況にあった方から相談を受けたことがあります。1年弱ほどかかりましたが、問題が解決した際、号泣しながら「実は自殺を考えていたんです。でも先生のおかげで、自分の人生をやり直すことができました。本当に感謝しています」と言われました。その言葉は今でも私の心に深く刻まれています。
ーー自殺を考えるほど追い詰められても、弁護士に相談するという選択肢を思いつかないこともあるのですね。
そうなんです。私たち弁護士からみると、法律で解決できる問題かどうかはすぐにわかります。しかし、ご本人は解決方法に気づかず、自殺を考えるまで追い詰められてしまうのでしょう。法律問題に限らず、まずは相談者の悩みを知ることの大切さを考えさせられました。
法律問題と個人の問題を切り離さず、解決まで伴走
ーー仕事をするうえで、心がけていることはありますか?
まず一つには、相談者の話をしっかりと聞くことを心がけています。相談者は法律の専門家ではないので、自分の問題と法律問題がどこで交わっているのか、区別がつかないことがよくあります。だからこそ、必要な情報を得るためには、相談者の話を深く、広く聞き出さなければなりません。
また、一見同じような事件でも、それぞれの相談者が何に一番心を痛めているのか、それは人それぞれです。そして、その悩みが必ずしも法律で解決できるものではないこともあります。時には、時間が解決をもたらすのをただ待つしかない場合もあります。だから、私は弁護士として、相談者の気持ちを尊重しつつ、問題が解決するまで共に歩み続けることを心がけています。
弁護士は一生勉強。学ぶことも娯楽の一つ
ーー休日はどのように過ごしていますか?
元々、旅行が趣味で、20カ国以上を旅して、現地の文化や歴史を学ぶことが好きでしたが、最近は忙しくてなかなかチャンスはありませんね。元々、米国と韓国に留学した経験がありますので、時間があるときには語学の勉強をしています。 弁護士は基本的に、みんな学ぶことが好きだと思います。法律も次々変わりますし、解釈も変わります。常に知識をアップデートしていないと対応できませんから。
そういう意味では、勉強は私たち弁護士の趣味みたいなものかもしれません(笑)。常に何か新しいことを学んで、それを仕事に活かせるのはすごく楽しいですよ。
社会問題も個人の問題も人権侵害は無視できない
ーー今後の展望をお聞かせください。
日々の生活で見逃されがちな人権侵害から人々を守りつつ、大きな社会問題にも果敢に取り組んでいきたいと考えています。地方条例の改善や新たな制度の提案も、弁護士としての大切な仕事の一つです。
北海道ではアイヌ問題と地域ごとに課題は様々。さらには性的マイノリティに対する差別問題も増えてきています。これらの大きな社会問題だけでなく、離婚や相続といった個々の人々が直面する問題についても、人権侵害があれば見過ごすことはできません。
ーー最後に、法律トラブルを抱えて悩んでいる方へのメッセージをお願いします。
つきなみですが、法律が関係しているかどうかは最初から気にしなくて大丈夫です。お話を伺うことで、実はそれほど大きな問題ではないことがわかれば、それだけで安心することもあります。そしてもし、弁護士の手を借りることで解決が見える問題であれば、一緒に解決に向かって取り組んで行きましょう。