
弁護士は「依頼者の想いを裁判官に伝える通訳」豊富な人生経験で1人1人に寄り添う人情派弁護士
交通事故をきっかけに法律に興味を持つ
ーー弁護士を目指したきっかけは?
18、9歳の頃に交通事故に遭ったのですが、加害者の親族に、いわゆるおっかない系の人がいたんです。示談交渉を任せた弁護士も結構脅されたようで、私としても「あまり強く主張するのもな…」と気後れしてしまって。
一応決着はついたものの、納得できる結果は得られませんでした。「被害者がきちんと救済されないのはおかしいんじゃないか?」と疑問を抱き、法律を勉強してみようと思ったんです。
当時は社会人として働いていましたが、この事故がきっかけで、近畿大学法学部に入学しました。在学中に司法試験の勉強を始めて、受験もしたのですがなかなか受からず、卒業後はいったん勉強をやめて司法試験予備校で働いていました。
予備校に勤めていたときに「やっぱり弁護士を目指そう」と思い、勉強を再開したのですが、忙しくて時間が取れず、退職して自営業を始めました。しばらく犬のブリーダーなどをしながら勉強し、その後、法律事務所に事務員として入所しました。
事務所の先生に「3年だけ面倒見るから、その間に受かれよ」と言われたのですが、結局5年ぐらい在職させてもらいました。
「裁判例のほうがおかしい」と感じることも
ーー現在の注力分野を教えてください。
1つは、弁護士を目指したきっかけである交通事故分野です。
もう1つは、離婚や、面会交流など子どもが関わる事件にも力を入れています。相談件数が多く、私自身、育児を積極的にやっていて関心があるので、注力しています。
ーー事故に遭った人と接するうえで意識していることはありますか。
保険会社は基本的に、「裁判の結果、裁判所が認めた分は払います」という発想です。つまり、裁判所が認めなかった部分については基本的に払う気がありません。その結果、依頼者が十分な賠償金を受け取れず、不満が残る結果となることが少なくないです。
そういうときに一番よくない対応は、「今の裁判例を踏まえると、裁判所の判断を受け入れるしかないですね」と、依頼者を無理に納得させることです。まずは、「私もこの判断はおかしいと思います」と、依頼者の気持ちに共感するようにしています。
実際、「裁判例の方がおかしい」「本来認めるべきところを認めていない」と思うことも多々あります。
ーー過去の裁判例に疑問を持つこともあるということですね。具体的には、どんな事例がおかしいと思いますか。
たとえば、休業損害です。主婦については裁判例で「家事を労働として評価して、休業損害を認める」と考えられていますが、問題は一人暮らしの人。自分でご飯を作って掃除しているのに、今の裁判例では、家事労働を休業損害として認めてもらえないんです。
家族がいて家事をしている人は、裁判所の考えとして1日あたり1万円ぐらいを受け取れる計算になる。でも、同じことをしても一人暮らしだと認められません。
時代も変わってきているなかで、裁判所の過去の判断がいつまでも正しいとは限りません。もちろん、「この考え方は間違っている」と主張しても、裁判所がすぐに変わるわけではないですが、おかしいなと思うことはおかしいと言っていかなければならないと思っています。
ーー仕事をするうえで心がけていることは何ですか。
弁護士は「法律の専門家」と言われることが多いですが、どちらかと言えば、「通訳」だと思っています。
依頼者が思ってることを、いかにして、あえて悪い言葉でいうと「法律しか知らない裁判官」に伝えるかが弁護士の仕事です。そのためには、依頼者が何を考えて、どういう世界で何をしているのかをしっかり聞いて、理解することが大事だと考えています。
弁護士なんて、法律の勉強をしてきて試験に受かっただけの存在です。法律を語らせたら周りの人より詳しいかもしれませんが、知らないこともいっぱいあります。
わからないことを素直に認めて、依頼者や周囲に聞きながら、どうやって、同じようにわからない裁判官に伝えていくか考えること。それが、弁護士にとって一番大事な仕事だと思っています。
ーー人間としての蓄積みたいなものも、弁護士の仕事に生きるのでしょうか。
そうだと思います。
私は弁護士になったのが他の人に比べて遅かった。でも、弁護士になるまでの間に経験してきたことは全然無駄になっていません。その時期の経験があったからこそ、依頼者の話がすっと入ってくることも多いです。
過去は変えられない。今からできることを一緒に考える
ーー最後に、法律トラブルを抱えて悩んでいる方に一言メッセージをお願いします。
昔と比べると、弁護士に対して「敷居が高い」というイメージを持つ人はだいぶ少なくなった印象があります。しかし、依頼者から「他の事務所に相談に行ったら怒られた」「なんでこんなにバカなことをしたんですか、と言われた」というような話を聞くことが、いまだにあります。
そもそも人間は誰しも、うっかりミスをする生き物だと思います。依頼者本人も「今にして思えばバカなことをしてしまったな」と自覚しているものです。
弁護士が、相談に来た人をわざわざ責めても、何も始まりません。過去を変えることはできないとしても、今から何ができるかを一緒に考えていけたらと思います。