酔っ払ってタクシーに乗ったところ、大きなトラブルに巻き込まれたという人からの相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者は、酔い潰れてタクシーに乗車。タクシーの運賃を払うことができず、警察に保護されることになりました。すると、後日、タクシー運転手から、請求書が届き、未納の乗車料金に加えて、当日のトラブル対応にかかった5時間分の時給まで請求されたのです。
相談者は、この5時間分の追加料金に納得がいかないようですが、払わないといけないのでしょうか。寺林智栄弁護士に聞きました。
●タクシー運転手側が立証できるかどうか
結論から言うと「5時間分の時給が今回の件の損害である」ということをタクシー運転手が立証できた場合には、相談者は支払いをしなければなりませんが、そうでない場合には、支払いを拒絶することができます。
相談者には、タクシー料金を払わなかったことについて、少なくとも過失があるので、タクシーの乗車契約上の債務不履行が成立し、タクシー運転手に生じた損害を賠償する責任が生じます(民法415条1項本文)。
そして、賠償すべき損害の範囲は、債務不履行によって「通常生ずべき損害」及び「生じることが予見可能な特別の損害」と規定されており(民法416条)、実務上、債務不履行と「相当の因果関係がある損害」が賠償範囲に含まれると理解されています。
タクシーの乗車料金が「相当の因果関係がある損害」に含まれるのは明らかです。
しかし、「5時間分の時給」が債務不履行と相当の因果関係があるかどうかは、証拠によって明らかにされなければなりません。
そして、証拠によってこれを立証しなければならないのは、請求をするタクシー運転手です。
タクシー運転手が、自身の時給や、5時間本件の対応に追われたこと、そのために5時間分の時給を得られなかったこと等を、契約書や日報等々で立証することができたなら、相談者は賠償に応じなければなりません。
ですが、逆に言えば、タクシー運転手が証拠を示さずに支払いを要求してきた場合には、因果関係不明を理由に拒絶することができます。
本件については、相談者に非があることは間違いありませんが、根拠を示さない請求には応じられないと毅然と拒絶することも大切です。